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9話。仕事先に到着

異界が発生したとされる横瀬までの移動方法はもちろん電車。


実のところ早苗さんからは車を用意すると言われたのだが、贅沢に慣れるのは危険だということで最寄りの駅から異界があるところまで歩いていくことにしたのだ。


『これはまさか……デート!?』


歩くのは異界から出てきた魔物がいないかどうかを確認するため。つまり仕事です。


「ふんふふん。ふんふふん。ふんふんふーん」


仕事だというのに環は、朗らかに“いうことを聞かない悪い子を夜中に迎えにくる妖怪を讃えるようなメロディ”を口ずさんでいる。


『最後のアレをどう表現するんじゃろか?』


変な所に興味津々な神様はさておくとして。

あの緊張感の欠片も見られない彼女は、自分がどこに向かっているのかを理解しているのだろうか?


『ほん? 所詮は深度2の異界じゃろ?』


あぁ。神様もそう思っていたのか。それじゃあ環を叱れないな。


『違うのかの?』


違う、とも言い切れないけど、深度2の異界とも断言できないんだよなぁ。


『なんじゃそりゃ?』


神様にとっては深度が2だろうが3だろうが同じ雑魚ですから意味はないのかもしれませんけどね。俺たち、とくに環にとっては他人事じゃない。


神様は依頼の内容を覚えていますか?


『あー、確か“場所は横瀬。できたのは先週。予測される深度は2。報酬は150万”じゃったか』


そう。その通り。


あくまで()()()()()()()()()なのであって、実際の深度が3以上である可能性もあるんです。


『お、そうじゃな』


基本的に異界の調査をする調査員は協会が用意する。当然経験豊富な人が割り当てられるが、それだって深度3に潜れる人から深度2が限界な人もいる。本当にピンキリなのだ。


『ピンとキリの間が狭すぎぃ』


深度4以上は本当に選ばれた人しか入れないからしょうがないね。


そもそも深度4に潜れる人は協会に所属する必要がないし。


『自前で稼げるからの』


そういうことなので、最初は深度2の異界を調査できる程度の人間が派遣されることが多い。


その人が普通に調査できるのであれば、その異界の深度は2と認定される。

その人ではきついと判断されるようなら、深度3と仮定して上級者を派遣する。

一目見て無理と判断されるようなら深度4以上。専門家に依頼する。


概ねこのような感じである。


これで見れば「今回向かう異界の深度は2で良いんじゃないのか?」と思うかもしれないが、あにはからんや。


異界の深度を認定する調査員が見るのは異界の広さと出現する妖魔の強さだ。


しかしながら、できたての異界は広さが拡張の途上なうえ、妖魔の数も限りなく少ないので深度2と3の区別をつけるのが難しいのである。


『主を確認すれば一発でわかるんじゃがな』


協会もその方法が一番確実だとは理解しているものの、その方法を取った際「主を見てみたら深度3相当でした」と判明した時点で、時すでに遅し。


『協会はSHOCK! ……調査員はもう、死んでいる』


そう。今のところ愛で空を堕とせるニンゲンは確認されていないし、大魔王ならぬ異界の主から逃げられないわけではないが、大半の場合は死ぬことになるのだ。


当然協会としても経験豊富な退魔士に死なれては困るということで、できたての異界の深度にはどうしても憶測が混じってしまうのである。


だからこそこういう依頼は、不測の事態に対応できる人員を抱えているであろう名門に回されるのだ。


『ふむぅ。たとえ深度3の異界であっても今のこやつらであれば簡単には死なぬ。じゃが油断しとったら死ぬわな』


その通り。簡単に死なないだけで、死ぬときは死ぬのだ。油断しているなら猶更である。


深度3相当であっても俺は死なないが、俺だって四六時中護れるわけでもない。


『色々あるからの。排泄とか排泄とか排泄とか』


年頃の女の子のトイレには近寄れないからね。そこでやられる可能性が一番高い。


だがトイレエチケットのせいで彼女たちが死んだり、二人が死んで俺だけが生き残ったりした場合は寝覚めが悪い。というか面倒なことになる。


『どうして……どうして助けてくれなかったんディス!?』


そんな感じで責められそうだね。特に環のご家族の方に。

早苗さん? 中津原家は名門としての覚悟が決まっているので大丈夫。

それに人柱にしようとしてた時点でアレだし。

死んだことに文句を言われても……ねぇ?


『どの面下げてって感じじゃよな』


その通り。まぁ中津原家と繋がりはあった方がいいので、死なない方が良いのは確かである。


なので警告はちゃんと二人にする。


聞き入れないようなら「勝手に死ね」となるが、彼女たちはそういうタイプじゃないからな。


「あーそうだね」

「確かにそういう可能性もありますね」


素直なのは良いことだ。


特に環はな。彼女は自分が死んだら家族も一緒に死ぬことを知っている。

殉死とかではなく経済的な事情で。


『そこに愛はないんか?』


家族愛はあるだろう。


早苗さんの場合はそんなのないけど。


『そりゃの。自分を人柱として育てていただけじゃなく、捧げる相手を勘違いしておったような阿呆どもに愛情を抱けるのであれば、それこそ異常じゃろうて』


俺もそう思う。人柱云々は退魔士の家系であれば許容できるかもしれないが、それだって確たる意味があればこそである。


自分たちが、先祖代々祀ってきた神様とは全く関係ない妖魔の性欲と胃袋を満たすためだけに捧げられてきたなんて誰も救われない事実を知った早苗さんはもちろんのこと、その事実を知らずに妖魔にいじくり回された挙げ句腹の中に消えていった歴代の人柱さんだって、知れば自分を人柱にした一族を呪うに決まっている。


妾『なんかよくわからん蛇は死んだ。生き残った連中の大半はベッドの上。もう呪うだけで殺せる。行けよ被害者。人柱としての覚悟なんざ捨てて、襲い掛かれ』


妾『楽に殺しちゃつまらんじゃろ? 短剣を突き立てて、連中が苦しみもがいて死んでく様を見るのが望みじゃったはずじゃて』


人柱『野郎オブクラッシャー!』


それだと人柱が負ける側だけど。


『残念じゃったな。トリックじゃよ』


それでなんでも片付くと思ったら大間違いだと言いたい。


こんな感じで神様と交信したり環や早苗さんと歩くこと数分。

今日の目的地に到着である。


「ここだね!」

「そのようですね」


一見ただの畑にしか見えないが、見る者が見れば空間に歪ができているのがわかる。


『ここが幻想郷の入り口よ』


隙間妖怪は帰ってどうぞ。


ただの畑にしか見えないなら一般人が迷い込むかもしれない? 大丈夫。

その辺は協会の調査員が人払いの術式を施しているので、一般人が入り込むことはないから。


『退魔士としての能力があることを自覚していない逸般人なら話は別じゃがの』


なにその主人公みたいなやつ。ちょっと見たいかも。


実際には退魔士としての技術を鍛えていない素人では、調査員として派遣される程度には鍛えている退魔士によって施された術式を破ることはできないけどな。


『それこそ妾みたいなのが憑いとれば話は別じゃがな』


フラグっぽいのがばら撒かれました。

絶望したので異界に行きます。


「じゃ、行くか」

「うん!」

「はい!」


二人の気合も十分。


「では異界への扉を……環。頼む」


「了解!」


異界に入るためには退魔士としての力を以て空間の歪に干渉する必要がある。


異界の主はその際、自分の世界に干渉してきた相手の力量を知ることができるらしい。


『なんとなく、じゃがな』


異界の主になれるような妖魔は総じてずる賢いところがある。なので多少力に差がある程度であれば、向こうは罠を張るなり配下を差し向けて疲労をさせつつ、侵入者の戦闘方法を解析して対策を練り、あの手この手を使って侵入者を殺し、己の血肉とするのだ。


だが、どうやっても勝てない相手が来た場合、彼らは戦わないことを選ぶ。


具体的には、普段なら異界の主として最奥に居座っているはずの妖魔が逃げようとする。もしくは異界の中に出没する一般の妖魔に交じって敵の目を誤魔化そうとすらするのである。


『リアル逃亡中。(5敗)』


奴ら、プライドないんか。


『あるにはあるじゃろうが、命が大事じゃけぇ』


そこはもう少し頑張って欲しい。


『死んだらそこで試合終了じゃぞ?』


わからないではないけれど。


それはそれとして、おふざけはここまで。

ここから先は油断すれば簡単に死ぬ危険地帯だからな。


『ふざけとったのは妾とお主だけじゃったような気が……』


気のせいでしょう。


「開くよ!」

「……っ!」


さぁ、異界探索の始まりだ!

閲覧ありがとうございました。

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