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22話。顛末的なお話



この度、東京・神奈川・山梨と、首都圏の三か所で同時に発生した【妖魔行進】は、俺が担当した東京と中津原家が担当した山梨が即日、国防軍が担当した神奈川は即日解決とはいかなかったものの、中津原家からの援軍もあって二日目には無事鎮圧されることとなった。


犯人は山梨のとある民家に潜伏していた陰陽師の一味とその協力者であった。

陰陽師たちは無事に確保できたものの、協力者たちは逮捕することができなかったらしい。


『逃がしたとは言っていない』


それに前後して横浜にある中華街の一角にて、国防軍とテロを目論んだチャイニーズマフィアの間で激しい銃撃戦が繰り広げられたそうだが、今回の件との関連性は不明ということになっている。


なんでも、このことを探ろうとすると国防軍からマークされることになるとかならないとか。

もちろん報道も規制されている。なんなら取材すらできないような状況となっているそうな。


『残当(()念でもなんでもなく()然のこと)じゃな』


そりゃね。マスゴミは常に国防軍を悪者にしようとするからね。


報道の自由がどうこうと騒いでいるようだが、そもそも彼らが報道する内容は偏向に偏向を重ねた噂話にも劣るモノであり、さらにテロ組織の支援に繋がるようなモノだからね。


そりゃ規制されるよ。


『噂を軽々に信じるような初心な子供が狙い撃たれるのはもはや宿命』


狙い撃つのは彼らを利用しようとするマスゴミなのか、それとも彼らが動くのを待ち構えている国防軍なのか。どっちなんだい?


ちなみに国防軍が中華街周辺に展開していたのは、例のスナイパーに狙撃された隊員が最期に放った例の術が関係しているそうな。


その効果としては、自分を殺した相手に対してマーキングを施す術だったらしい。


『ありきたりな呪いじゃな』


ですね。


しかし、ありきたりではあっても、その効果はてきめんだった。


なにしろこの術式があったおかげで国防軍は狙撃手が潜んでいたところを把握できたし、彼らが国外に逃亡する前に狙撃手と狙撃手を匿っていたマフィアのアジトに踏み込むことができたのだから。


この術式に関する情報を協力者である中津原家にも秘密にしていたのは、情報の漏洩を防ぐためと、自分たちで術者の仇を討つため。ついでに手柄を国防軍が独占するためだったのだろうと思われる。


結果だけ言えば、国防軍が中途半端に秘密主義を貫いたおかげで、中津原家の面々が広く浅く配備されることとなり、そのおかげもあって今回の騒動を素早く終息させることができたのだから、世の中なにが吉と出るかわからないものだ。


もちろんこれらのことは国防軍に偽情報を握らされたこととなった中津原家としては面白い話ではない。

そのため彼らは国防軍に対して情報を隠したことを咎め、なんらかの追加報酬を得たそうな。


中津原家と国防軍の間で繰り広げられたかもしれない交渉についてはさておくとして。


今回の件で最もダメージを受けたのは、間違いなく実行犯の皆さんだろう。


まさか天災と恐れられる現象が僅か二日で、それも人的被害をほとんど出さずに鎮圧されるとは、ことを目論んだ陰陽師や彼らに協力していたであろう組織の人間も思ってもいなかったはずだ。


今頃運よく死なずに投獄された連中は“全てが悪い夢だった”なんて思って現実から逃避しているのかもしれない。


『いつまでも愉しい夢を見て生きておればえぇさ』


本当にそう。蝶になろうが花になろうが夢の中なら誰にも迷惑が掛かりませんからね。


次いで被害を受けたのは、今回の件に全く関与していない陰陽師の皆さんだろう。


彼らに関しては本当にとばっちりなのだが、世の中は甘くはない。

弱り目に祟り目。泣きっ面に蜂。

弱体化に弱体化を重ねた彼らに手を差し伸べる勢力はなく、今では西を拠点としている陰陽師たちもその勢力を削がれているそうな。


それから国防軍の邪魔をした神奈川県警やマフィアとの繋がりが露呈した役人たち。及び【妖魔行進】が発生した際に真っ先に逃げ出した政治家やら企業のお偉いさんも叩かれているようだ。


企業のお偉いさんはともかくとしても、公僕である政治家が真っ先に逃げたらね。そりゃ印象悪いわ。


『政治家つっても素人じゃろ? 災害現場に素人が残っておっても邪魔にしかならんと思うがのぉ』


それと自分が見捨てられることを許容するのは違うんだと思いますよ。知らんけど。

後は、元からあった嫉妬やら憎悪が表面化したって感じでしょうか。


『故あれば寝返るのさ!』


理由があればいくらでも叩けますからね。

人の争いとはかくも醜いものである。


『醜い……さすがニンゲンみにくい!』


あもりにもみにく過ぎる。これで神様がニンゲンをきらいにならないことを祈る次第である。


それはそれとして。今回の件があっさりと解決したのは、テロ行為が行われることを未然に察知し、それを防ぐために迅速に対応した国防軍のおかげであるという形で公表されることとなった。


『大本営発表ってやつじゃな!』


といっても、半分は事実ですし、なにより関係者全員が納得していますからね。

なにしろ国防軍はテロリストの目論見を阻止したという実績が得られる。

中津原家は成果に見合った報酬と、国からの信用を得られる。

俺たちは中津原家から報酬を得られるという、まさに三方良しの関係です。

反対する理由がありません。


『名声を譲る代わりに面倒ごとを全部投げ捨てたともいうがの』


まぁね。人的被害が少なかったとはいえ、皆無ではなかったし。

建物とかにも普通に被害が出ていますからね。

それらの責任を問われても面倒なだけでしょう? 

名目上の手柄を譲るだけでその辺を丸投げできるなら、それに越したことはないと思いませんか?


『その辺はニンゲンの都合じゃて。妾にはよーわからん。報酬さえくれればそれでえぇわ』


神様への報酬。即ち和牛である。


もちろん現金もそれなりに貰っているが、流石に和牛はね。

伝手もないし、なにより普通に買ったら税務署とかが五月蠅そうってのもあって、毎回神様への奉納って形にしてもらっているのだ。


今回は神様が指定した岩手の水沢牛と山形の米沢牛。そして何故か神奈川の丹沢牛が一頭ずつ送られてきた。


丹沢牛がチョイスされたのは、おそらく『神様への奉納品として和牛を三頭下さい』と頼んだ際に、二頭分は水沢牛と米沢牛を指定したものの、残り一頭の銘柄を指定しなかったため中津原家の人が頭を悩ませたところ、二頭の間に“沢”という共通点を見いだした結果だろう。


神様への奉納品に適当なことができるはずもなし。

散々頭を悩ませた担当者の方には本当に申し訳なく思っている。


『その科学者、絶対に反省しとらんぞ』


いやだって、聞かれなかったし。

俺だって聞かれたら「和牛ならどの銘柄でも問題ないですよ」って答えてあげたし。

聞かない方が悪いと思います。


『まぁ悩んだ末に変なのを送って来られても困るものな。悩むくらいなら聞けってのは確かにある』


そうでしょうそうでしょう。

だから俺は悪くない。


『別にお主が悪いとは思っておらんが……つーか妾、大事なことに気が付いたぞ!』


なんですのん?


『妾って基本的に丸呑みするじゃろ?』


えぇ。そうですね。今回も豪快に呑み込んでいましたね。

それがどうかしましたか?


『どうもこうもあるか! 丸呑みじゃと外側の味はまだしも、中身の違いが分からんのじゃよ!』


な、なんだってー!? 

……と言いたいところですが、なんとなくそうじゃないかとは思っていました。


『な、なんじゃってー!? お主、知っとったのか!』


いや、だってそれ、みかんを皮ごと食ってるようなもんでしょ? 

そりゃ皮の味しかしませんよね。


ワンチャン神様なら味の違いも分かるのかなぁと思っていましたけど、やっぱり無理でしたか。


『くっ。よもやこんな近くに裏切り者がいようとは!』


別に裏切ってはいないんだよなぁ。

ただ中津原家から別途に送られてきた焼肉セットを食べているだけで。


『妾もそっちがいい!』


うん。こっちは普通に食べ比べができますからね。


どうせ一人では食べきれないんだし。

元々誘う予定だった環や早苗さんだって“神様と食べた”と言えば納得するはず。


千秋や母さんは……まぁ別口でナニカを送っておけば大丈夫だろ。多分。


そんなこんなで、神様ははじめての焼肉を経験することになったのだが。


『ふむ、ここはこういう味なのか』

『ほほほ。これは美味いのぉ』

『もう少し生っぽいほうが好みじゃな』


あらやだ。近年まれにみるイイ笑顔。


終始にこやかな神様と焼肉を食べることができたのが、今回の件における一番の報酬だと思いましたマル。


……後から聞いた話なのだが、このとき俺の部屋がある男子寮を中心に莫大な神気と呼ばれるナニカが発生し、それに耐えられなかった生徒や教員の大半が気を失ったそうな。


それが学校の敷地を覆う結界を貫通しなかったのは、偏に不幸中の幸いだと思う。


うんまぁ。結界とか張ってなかったからね。

神様が一喜一憂した際にナニカが漏れ出てもシカタナイネ。


だから犯人はヤスだと思います……なんて言い訳が俺の事情を知っている人に通じるはずもなく。


男子寮から発生した神気=蛇神様という確信があったのだろう。


神様や俺の行動を妨げることに対する抵抗と、神様がポンポンと気をまき散らしたら国が亡ぶという危機感の間で板挟みとなったせいか、もう悲痛としか表現できない表情をした早苗さんから「大変心苦しいのですが……」と前置きされた上で「蛇神様が関わる儀式を行う際は前もって告知して欲しい」と懇願されることになるのだが、それもまた後のお話である。


ちなみにブロント語は誤字ではありませんので悪しからず。


閲覧ありがとうございました。


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――

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