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8話。持ち込まれた依頼の詳細は

色々と脇に逸れたが、環が振ってきた話題の本題はあくまでお仕事に関することである。


早苗さんはどうか知らないが、俺や環が協会に出入りしている理由が生活に必要な金を得るためなのだから世間話よりも仕事の話を優先するのは当然のことだ。


それに鑑みて、今回環の持ってきた依頼はなんか金になりそうな匂いがするので、他の人に聞かれることがないよう別室に移動してから話を再開する。


「で、異界に行くって?」


「そうそう! 見てよこれ!」


テンション高めに差し出された紙は、新しくできた異界を攻略してほしいという旨の依頼が記載されている依頼書であった。


「ほほう。場所は横瀬。できたのは先週。予測される深度は2。報酬は150万、か」


「ぱぱっと行って帰ってくるだけで150万だよ!」


『軽いのぉ』


異界の攻略という一般の退魔士からすれば難事に他ならないことも彼女にとってはそうではないらしい。その豪胆さには神様も思わず苦笑いせざるを得ない。


「環。ぱぱっとやるのは暁秀様ですよ?」


「それはそうなんだけどさぁ」


訂正。彼女は自分でやるのではなく俺を使う気満々だった。


『効率的で良いではないか。己を弁えるのは大事なことじゃぞ』


それはそう。


ここで「絶対に私がやる!」と我儘を言われても困るだけだし。


ちなみに国や退魔士にとって異界とは鉱山に等しい存在である。

故に、新しい異界が発生するということは、新たな稼ぎ口が発生するということと同義である。


よって何も知らない一般の人たちは、新たな異界の発生は関係者から諸手を挙げて喜ばれるものと思うかもしれない。


もちろんそういう一面はある。


調査の結果次第だが、存続させることで利益が上がると判断された場合は、協会や退魔士に対して攻略しないように通達されることがある。


だが、そうでない場合。つまり、リターンよりもリスクが大きいと判断された異界は即時攻略が求められる。


その理由としては、単純に人員が不足しているからだ。


大前提として、退魔士(鉱夫)とは専門知識と専門技術を以て異界(鉱山)に臨む専門職(プロフェッショナル)だ。ましてこの業界は、知識はなんとかなるとしても技術に関しては才能がモノをいう世界である。よって、簡単に人員を増やすことができない。


事実今だって隣県から【採取】依頼が来る程度には人が足りていない状況だ。


こんな中で新たな異界(鉱山)が見つかったらどうなるだろうか。


新しい狩場だ! と喜び勇んで潜る? 

マッピングも終わっていない異界に? 

主の強さも判明していない異界に?

できたてのせいで【魔石】もなにもない異界に?

協会が派遣した調査員から「少なくとも深度2以上」と判断された異界に?


潜るはずがない。


退魔士とは趣味でもなければ生き様でもない。

金を稼ぐための手段なのだ。


よって退魔士を名乗ることを許されるような人間が、リスクだけ大きくてリターンのない異界に潜ることなどありえない。


同時に、放置することもあり得ない。


なんの拍子で中から妖魔が出てくるか分からないし、なにより行政側が一般市民の皆様から『利益にならないならなんとかしろ!』とせっつかれるからだ。


如何に選挙のとき以外に頭を下げることがない政治家とて、地元の有権者、それも後援会の会長などからせっつかれれば動かざるを得ないのである。


なので、できたての異界を討伐してほしいという依頼が入るのはおかしなことではない。


この依頼を神様が見つけられなかった理由は、単純に貼りだしをしていないからである。


行政、それも地方自治体が絡む依頼は緊急性が高いのと失敗が許されないケースが多いので、深度2で細々と稼いでいるような一般の退魔士が閲覧できるような場所に貼りだされることはないのだ。


『失敗しても許されるケースのほうが少ないがの』


そもそも失敗したら死ぬから。


深度2でしか活動できない退魔士だって貴重な人員なのだ。軽々に減っては困るのである。


で、その失敗が許されない依頼を対外的にはしがない神社の娘さんでしかない環が持ってこれたのは、もちろんこの場におわすお嬢様、早苗さんのおかげだ。


「最初は中津原家に依頼が来たんですけど、向こうにはすぐに動ける人がいないみたいで、私のところに連絡がきたんです……」


早苗さんはこう言っているが、実際は向こうの当主が彼女に『異界攻略の実績あり』という箔をつけるために依頼を回したのだろう。


そうでなければ、中津原家だって彼女に依頼を持ってくるはずがないからな。


『お主との仲を深めさせるためじゃろ』


それは穿ちすぎだと思う。


いくらなんでも命が掛かる依頼でそんなことを目論むとは思えない。


『お主がいる時点で“命懸け”にはならんじゃろうが』


油断慢心はいけない。(戒め)


『ちなみに環のレベルは21相当で、早苗のレベルは24相当じゃからな』


それなら深度2で死ぬことはないね。(手のひらドリル回転中)


っていうか、そうか。出会ったときは8くらいしかなかった環と、10くらいしかなかった早苗さんもそこまで強くなっていたか。


『こいつらは妾が育てた』


事実だからなんともいえない。


『この時点で深度2の異界なら楽勝なんじゃけどな。三人で勝てないはずがないじゃろ』


負けるかもしれないでしょ。


それに【探索】ならまだしも、【攻略】となると万が一があるのでは?


『あぁそういえばあったの。内側から弾け飛ぶ可能性が』


そうそれ。


それがあるからこそ彼女らは、本来であれば自分たちだけでも攻略できるであろう依頼に俺を誘うのである。


『絶対に攻略の後のアレを楽しみにしておると思うがの』


気のせいじゃないですかね。


ともかく、この依頼なら三人で割っても50万円になる。


武蔵村山まで行ってせこせこと石を拾って10万円になるかどうかの依頼なんて比較対象にすらなりゃしない。


だから俺は今も期待の目を向けてきている二人にこう告げるのだ。


「いいよ。この依頼を受けよう。一緒にこいよ」と。


『おかのした!』


いや、神様はずっと一緒だから。

帰ってどうぞとは言えないんだよなぁ。

閲覧ありがとうございました。

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