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21話。鎮圧される悪意④

食人鬼(グール)動く死体(ゾンビ)。そしてキョンシー。

これらは数いるアンデッドの中でも、比較的対処が簡単とされる妖魔である。


その最大の理由は、人型でありながらも高い知性を持たないところにある。


これを言うと『他の妖魔に知性はあるのか?』と聞かれたりするが、その質問に対する答えは“ある”だ。


まぁ知性というよりは本能的なものに近いのかもしれないが、基本的に二十レベルを超えるような妖魔は、人間の会話を理解できるし、罠を仕掛けることだってできる。もちろん彼我の実力差を鑑みて勝てないと判断すれば逃げることだってある。


不死者として名高い吸血鬼なんかだと、真祖とかそういうのでなくとも普通に会話できる程度には賢かったりする。


しかしながらゾンビ系の不死者にはそのようなものがない。


知性がないから武器や道具も使えない(生前の記憶が関係するのか、もともと装備していた銃や警棒を使えたりするゾンビもいるが、新たに武器を拾ったりすることはない)し、痛みを感じないからか相手の攻撃を避けないし、なんなら罠にも無頓着。そういう意味ではレベル五の妖魔よりも頭が悪いと言わざるを得ない。


『痛くなければ覚えませぬ』


至言である。


一応、言葉を発して生前の知り合いやら関係者やらを呼び寄せる程度ことはできるものの、それはあくまで声を聞いた側が過剰に反応しているだけであって、彼らが意図的に罠に嵌めようとしているわけではない。


『知り合いじゃなければ、ただ自分の居場所を告知しているだけじゃものな』


もう狙い放題である。


逆に言えばそれが唯一の問題でもあるのだが。


具体的には、彼らを見た生前の関係者が「帰ってきたのねジョニー!」とか言って自分から彼らを家に入れたり、討伐しようとしたところに「あの子はゾンビじゃない! ただの子供だ!」とか言って邪魔をしようとすることくらいだろうか。


こうなった場合、討伐をしてもしなくても担当した退魔士は後味が悪い思いをすることになるそうな。


『迎え入れた家族に守られているモノを討伐すれば残された家族に恨まれるし、討伐をしなければ迎え入れた家族が犠牲になるからのぉ』


そういうことだ。


人によっては“先立たれた自分の家族になら殺されてもいい”と思う人もいるのだろう。

その辺は人それぞれなので、その気持ちを否定するつもりはない。


だがしかし。それはあくまで問題が家族の中で済む場合、つまりは自業自得で済む場合に限るわけで。


『家族が全滅したら普通に討伐するからの』


その通り。彼らの存在が赦されるのは身内に庇われているときだけ。


「つまりキョンシー。お前たちは駄目だ」


「「「!?」」」


「好きでキョンシーになったわけじゃない? そうかもな」

「自分はあくまで操られているだけ? それも事実だろう」

「だが、それがどうした」


どんな事情があってキョンシーにされたかは知らないし、知るつもりもない。


陰陽師に操られていたことは知っているが、彼らとは無関係な武蔵村山市民が巻き込まれた時点で、彼らは庇護すべき哀れな死者ではなく、討伐対象の妖魔でしかない。


『ちなみに今回の件に於ける一番の被害者は、無理やり異界から追い出された挙句、どこかの誰かさんに片手間に討伐された妖魔たちじゃと思うんじゃが、そこんところはどう考えておるかのぉ?』


彼らは犠牲になったのだ。

古くから続く貧困……その犠牲にな。


『貧困がお主の生き様を決めた……』


そもそも神社が廃れつつある状況が発生したときからある問題ですからねぇ。


一応俺が討伐した妖魔については国防軍がカウントしているはずなのでタダ働きにはならない、と思いたいところ。


それはそれとして。


「死して尚そんな恰好をさせられた上でこき使われている貴様らに対しては同情しないでもないが、これも仕事でな。諦めてくれ」


「「「アァァァァァ!!」」」


向こうも殺る気を出したところでキョンシー退治の始まり始まり。


『はて。向こうは最初から殺る気満々じゃったような?』


ははっ。面白いことを言いますね。

連中を殺すのはもう少し後にしてあげましょう。


―――


不死者は討伐するのは簡単だがその後が面倒くさいとされる妖魔である。


実際彼らを滅するだけなら、いくつもの方法が存在するのだ。


有名なのは教会のエクソシストが得意とする魂の浄化だったり、仏教や密教系の術者が得意とする不動明王の火界咒(汚物は消毒だー)だろうか。神道系列であれば布都御魂のような神聖の高い武器で魂ごと斬って捨てたりするだけでいい。


実に簡単なお仕事であると言えよう。


当然術者のレベルが足りなければ返り討ちに遭うこともあるが、俺の場合はダブルスコアどころの話ではないので特に問題にはならない相手だ。


『なんなら指先一つで爆散するわな』


そうなんですよね。


しかしながら、それをやった場合彼らは肉体ごと滅んでしまう。

もちろん敵を滅ぼして事件がまるっと解決するのであればそれでもいいのだが、彼らは今回の【妖魔行進】が人為的に引き起こされたことを証明する数少ない証拠である。


件の隠れ家にも今回の件に陰陽師らが関わっている証拠はあるのだが、それとは別に現場で証拠を確保できるならそれに越したことはないのだ。


正確には“ここで証拠を確保しなければ大陸の連中の狙いを一つ潰せない”ともいうのだが。


『おん? まずは首都圏に混乱をもたらすことじゃろ。それから国内の宗教組織同士をごたごた争わせ、それを見た民衆が国内の退魔士や軍に対して不信感を植え付けられる。あとは国防軍や協会の戦力や、国の処理能力を調査することくらいじゃと思っておったんじゃが、それ以外にも目的があったのかや?』


そうですね。簡単なものでいえば“首都圏にある優良な異界(鉱山)の閉鎖”でしょうか。


『あ~。そんなのもあったか』


あったんです。武蔵村山。神奈川。山梨。

山梨は中津原家の管轄だから省きますが、今回狙われた異界は協会が管理している深度二異界の中でも上位に位置する異界です。


『ほむ』


退魔士からの人気はいまいちですが、装備を整えた国防軍からすればここは安全にレベルアップができて、かつそこそこ質の高い素材が採取できる異界になるということです。


『なるほどのぉ。つまりはこの異界が国防軍の底上げに役立つわけか。そら大陸の術師にしてみたら邪魔したいところじゃろうな』


そうですね。俺としては、わざわざ連中の狙い通りに動くのも癪なんで、ここは徹底的に邪魔してやろうかと思います。


けどまぁ、もし神様が“面倒だから全部呑み込むぞい”っていうのであればそれはそれで邪魔しませんけど、どうします?


『ふむん。国のためだとか協会のためなどではなく、お主がそうしたいんじゃな?』


えぇ。


『うむ。ならお主の好きにすればええ。妾は後から奉納される和牛三頭で我慢しようではないか!』


三頭……イヤしんぼめ!(誉め言葉)。


『ヤッダーバァアァァァァアアアアア』


神様が上げる歓喜の声を聞いたところで、いい加減メインディッシュであるキョンシー討伐に移ろうと思う。


やることは簡単。

まずは拳を握ります。

拳に力を込めます。

殴ります。以上。


名付けて“レベルを上げて物理で殴る”作戦。


『お主、そればっかじゃな』


いや、これが一番確実ですしおすし。

手加減もできるしお金も掛からない。

実に素敵で完璧な作戦じゃないですか。


ちなみに殴る前のワンポイント。


不死者は頭に核となるモノがある場合が多いので、完全に死滅させたくない場合は、頭部ではなく胴体を弾き飛ばす感じで殴りつけるといい感じに仕上がりますよ。


『52へぇ』


あらやだ、意外と好評価。


「というわけで、オラッ! オラッ! オラァ!」


「「「ア、アァァァァァァァ……」」」


爆発四散!(サヨナラ!)


無事爆発四散しましたね。あとは散らばった部分から頭部を見つけ、退魔士御用達の特殊な箱に入れれば、はい、この通り。


本日のメインデッシュ【薩摩風キョンシーの生首】の完成となります。


『生 (きている)首』


できたては暴れる可能性があるので、口の中に布を詰め込んでおきましょう。

その際、舌を切って歯を全部砕いておくとより安全です。


『人の心ないんか』


あったような、なかったような。


「というわけで、オラァ!」


「「「ウボォア!?」」」


ふう。これで完成。


とりあえず、これでここの【妖魔行進】の鎮圧は完了したと判断していいでしょう。


あとはこのお土産を関係各所に届ければ俺の仕事は終了ですな。


『関係各所とな?』


こんなん自分で持っていてもしょうがないですからね。腐る前に有効活用してくれる場所に回します。


『具体的には?』


まずは外で掃除している国防軍へのお土産として一つ。次に証拠兼研究資料として中津原家に一つ。残りの一つは協会ですかねぇ。


『なるほどのぉ。後始末を考えれば土産の配布先はその辺りが妥当なところやもしれんな』


でしょう? ただ武蔵村山の人は退避したし、下手なところに持って行って証拠の隠滅をされてもイラつくので、入間の植田さんのところに持っていこうと思っています。あの人なら逃げたり誤魔化したりしませんし。


『またしても何も知らない植田さん』


一応利益もあるでしょう? 

なんたって他国の術師が造ったキョンシーですからね。

功績になると思うんですよ。多分。知らんけど。


『別にあ奴の功績にならんでもお主には関係ないしの』


面倒ごとを丸投げしたいだけですからね。

兎にも角にもこれにて一件落着ってことにしましょうか。


『うむ。さっさと帰って和牛を発注するぞい!』



―――


翌日。入間支部に届けられた生首(意味深)を目の当たりにした某支部長が


「アタシ関係なくね!?」


と叫んだとか叫ばなかったとか。


こうして彼女は“自身を襲う苦難の日々は、元凶である某少年が東京に行った程度で終わるものではなかった”と痛感することになったのであった。

閲覧ありがとうございました。

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