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7話。友人その1とその2。後編

主人公と周囲の人が置かれている状況の説明会

早苗さんこと中津原早苗さんは、我が西尾家が神主を務める神社の本社に相当する神社に於いて、代々神主を務めている名門中津原家の長女である。


本来であれば住む世界が違う、それこそ雲上人であった彼女と出会ったのは1年ほど前のこと。


珍しく神様から『今日はあそこに行ってくれ』と言われて入った異界で【魔石】と妖魔を求めて探索している最中、なにやら変な連中が行っていた変な術式によって変な蛇の化け物の苗床になりかけていた彼女を発見してしまったことに端を発する。


『マトォォォォ!(CV堀川りょ〇)』


蟲じゃないが。


まったく、本神様が俺の横にいるというのに彼らは一体ナニに彼女を捧げようとしていたのやら。


その際に蛇の化け物を退治したり、早苗さんの家族に色々やった結果、絶体絶命の状況から救助された早苗さんは俺に心を開いてくれたわけだ。


『心を開いたっつーか。絶対に逃がさん! って執着しとるようにしか見えんがの』


気のせいでしょう。


一歩間違えれば俺に依存しそうになっていた以前の早苗さんならともかく、今の彼女は一人ではない。


幸か不幸か、俺が早苗さんと知り合う以前から付き合いがある少女、つまり環と良い友人関係を構築したことで、今は多少内向的な少女という形に収まっているのだ。


『友人関係っつーか、お主をシェアする協定を結んだだけでは?』


シェア俺is何?


それはそれとして、早苗さんの言動の節々に俺らとは違う品性が見えるのは、中津原家の連中が対外的な面子を気にしたため、名門の子女として外に出しても恥ずかしくない程度の教育を施されたからだそうな。


『育つまではお人形で、育ったら人柱とは。踏んだり蹴ったりとはこのことよな』


まったくだ。


体格が小柄なのは遺伝……ではなく、元々人柱にする予定だったので不浄の食べ物――甘いモノとか脂っこい肉――を制限されていたからである。


『どうせ喰らうのであれば丸々太っとる方が食いでがあるんじゃがのぉ。いや、あんまり脂っこいのはアレじゃが、そもそも妾が脂っこいと表現するとなると余程のサイズじゃからの。小娘がどれだけ肉をつけようが心配する必要はないぞ』


蛇ですもんね。


つーか神様って人柱なんていらないでしょうに。


『まぁの』


神様に言わせれば、神と呼ばれる存在にとって【信仰】とは、生物にとっての酸素のようなものなのだとか。


それ無かったら駄目じゃないかと思うかもしれないが、世の中には酸素の量が少なくとも生きていける生き物がいる。


それと同じように、自身が存在するための養分を【信仰】以外のモノで賄えることができている神様からすれば、有象無象の存在から向けられる【信仰】なんて必ずしも要るものではないとのこと。


『ま、オヤツみたいなもんじゃよ』


そういうことらしい。


付け加えるのであれば、今の神様は、嗜好的な養分を俺から吸収し、栄養的な養分を異界にいる妖魔を丸呑みすることで得ているので、人間一人からなる人柱など本当の意味で必要としていないのだ。


『不要必要は別として、妾の名を呼びながら捧げる先が妾とは関係のないやつじゃったからな。あれは頂けぬわ』


たとえるなら神様の名前を連呼しながらまったく関係ない他人にオヤツをあげているようなものだ。


神様からすれば手の込んだ嫌がらせだわな。


中津原家の人たちもこの事実を知っていれば、神様の使徒を騙る蛇の化け物に家の子女を与えるような真似はしなかっただろう。


しかしながら、俺と神様がこんな感じなので勘違いしがちになるが、いくら神と人間の距離が近くなった時代とはいえ、俺のように神様とはっきりと交信できるケースは稀、というかほとんどない。


だからこそ、供物を捧げる側と供物を受け取る側で発生しているすれ違いを理解できず、2020年代になった今も無意味な人柱をささげようとする中津原家のような家が存在するのだ。


早苗さんとしては一歩間違えば無駄に命を散らしていたことになる。


それを『すれ違い』で片付けられては堪ったものではないだろうが、悪いのは供物を受け取る側ではなく、捧げる側であることは退魔士的な常識。


今回のケースで言えば、神様の意をしっかりと伝承できなかった中津原家が悪い。


『そうじゃ! 10:0で中津原家が悪い!』


交通事故か。


俺たちに損害賠償を請求されても困るから責任の比率をはっきりさせるのは悪いことではないが。


『じゃろ? じゃから妾は悪くない!』


うん。そうですね。


即物的な責任の割合比率はさておくとして。


人柱云々が発覚したとき、神様はその場で一時的に顕現し、その場にいた連中全員に説教をかました。


代々祀っていた神様から直々に説教を喰らった中津原家の前当主――つまり早苗さんの父親――は、神の意に反した行為を行った責任を取って隠居。彼の後に中津原家を継ぐはずだった早苗さんの兄や、彼らを支えていた分家の当主たちも『思想が偏っている』と判断されて軒並更迭された。


もちろんこの処置に反発した連中もいた。


その連中はどうなったか? 


『む? あ奴らならベッドの上で仲良く寝ておるぞ』


確かに霊障治療を専門にしている病院の中に作られた特別病棟と呼ばれる隔離病棟に設置されたベッドの上で寝ているらしいな。


見たことはないが、その病棟にはめちゃくちゃお札が貼られているんだとか。


隔離病棟の景観はともかくとして、なんとも罰当たりなことに神様の下した処置に反発した連中は、今もそこで苦しみに悶えているそうな。


『これこそ神罰じゃよ!』


本当にそうだから怖い。


で、現在中津原家の当主は、生まれた時から将来の人柱として遇されていた早苗さんを一族の中でただ一人ニンゲンとして扱っていたという彼女の父の姉、つまり伯母に当たる人物が務めている。


しかしさすがは名門中津原家。この継承についてもひと悶着があった。


名門が持つ権益を求めて……ではなく「宗家の直系であり、神様に存在を認識されている早苗さんこそ当主にするべきではないか?」という、ある意味では至極真っ当な意見だったのだから、質が悪いというべきか真摯というべきか。


尤も、それも当人同士の話し合いによって平和裏に幕を閉じたらしいけど。


早苗さんに「あのとき伯母さんと何を話したんだ?」と聞いても彼女は一向に教えてくれないので、真相は闇の中である。


だが、まぁ、他家の相続に関することに口を挟むのはご法度だし。なにより一度助けた少女がこうして実家から離れた入間まで出てこれる程度には自由にやれていることがわかっているだけで十分である。


『いや、当主になったら将来家を継ぐことになるお主と個人的な繋がりが絶たれるから嬢ちゃんが拒否したんじゃろ? 伯母としては姪の恋愛を応援する気持ちじゃろうな。もちろん中津原の家長としても、妾と繋がりのあるお主の種は絶対に欲しいじゃろうからの。そりゃお主の家の傍にアパートを建ててそこで生活させるわい』


生々しい話はやめるんだ! 

早苗さんはまだ14歳のお嬢さんなんだぞ!


『鈍感系は流行らんぞ?』


鈍感じゃないですー。

あえて見ないようにしているだけですー。


『もっと質が悪いわ』


おおっと。(唐突) もうこんな時間だ。

このままだとお金稼ぎに支障がでてしまう。

じゃけん、さっさと仕事の話をしましょうね~。

閲覧ありがとうございました

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