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6話。初陣はだいたいグダグダに始まりグダグダに終わる②

「破ぁ!」


『ウォォォ……』


雫さんが放った攻撃を受けた霊は、いきなり攻撃されたことに驚くこともなければ最期の言葉を残すようなこともないまま消えていった。


尤も、大抵の場合はこんな感じであり、最初のように反撃されたりナニカしらのメッセージを遺そうとする方が珍しいのだが。


兎にも角にも今回も雫さんの完全勝利である。


「はい、お疲れ様でした」


「はぁはぁ」


『ちなみに、今のでレベル2相当になったぞ』


ほほう。ようやくですか。


5体目の霊を討伐したところで、ようやく本日の主目的であったレベルアップが成されたらしい。


霊を5体倒してようやくレベルが1上がるというのが早いのか遅いのかはわからないが、少なくともずぶの素人であった雫さんが一定の戦闘経験を積めたのは悪いことではないと思う。


『最後の方は一撃で仕留めておったしな』


見ている分にはお遊戯って感じでしたけど本人は命懸けでしたからね。

真剣に繰り返すことで最適な力加減を見極められたのかもしれません。


レベルも上がったことだし、これなら外でウロウロしている霊相手であれば無双できるのではなかろうか。


『意思も何も持たぬ霊相手に無双できん方が問題じゃろがい』


まぁまぁ。最初の戦闘なんですから拙い部分は大目にみてあげましょう。

もちろん調子に乗らないよう少しづつ敵のグレードを上げていく予定ですが。


「な、なにやら嫌な予感が……」


「ハハッ。まだまだこれからですよ。頑張りましょう」


まだ見ぬ強敵との戦いを予感したのだろうか。

微妙に身を震わせる雫さんにフォローを入れつつ、今後についての方針を告知しようと思う。


「これまでの戦闘でどう伸ばすかもわかりましたので、明日からはこちらの方面からも鍛えようと思います。いいですね?」


拒否権? ないよそんなもの。


「……ぁぃ」


言質取ったどー。などという冗談はさておき。


グダグダな感じを引き摺らないよう敢えて某軍曹張りのきつめな声を掛けて正気に戻してレベリングを継続させつつ色々と試してみた結果、雫さんのレベルは2相当になっただけでなく、彼女の成長型も弓と符を用いた遠距離支援型に特化して育てるのが一番簡単だということがわかったので、今日のレベリングは大成功に終わったと言っても良いだろう。


『簡単(向いているとは言っていない)』


まぁ、ね。これは向き不向きの問題もあるが、大前提としていままで武術や武道を学んだことがない雫さんに何が好きかを自分で語らせるよりも、俺が教えやすいモノを押し付けた方が生存率が上がると判断した結果である。


もし雫さんが世界最強を目指すのであれば何かしらの武術を仕込む必要があるが、現在彼女が求めているのは退魔士として安定して稼げる程度の実力であって、それ以上でも以下でもない。


もちろん実際の戦闘に於いて自分の体を効率的に動かす技術でもある武術を修めていないというのはデメリットでしかないので、基礎的なモノは習得してもらうつもりではあるのだが。


『術を破られたら戦えません。近寄られたら戦えません。では話にならんものな』


そういうことなので、彼女には近接でも使える弓術を学んでもらう予定である。


ちなみに雫さん同様完全な素人だった環に近接戦闘を教えたのは俺だし、芹沢嬢に槍を教えたのも俺だし、千秋に弓術と剣術を教えているのも俺だったりする。


『そんなお主に武術を教えたのは妾じゃ』


実際生まれて間もないときからイメージトレーニングを始めとして色々と教えてもらったおかげで今の俺があると言っても過言ではない。


というか、0歳から1歳くらいの自由に動けないときにアレをしてもらっていなかったら精神が死んでいたと思う。


本当にキツイのだ。精神がはっきりしているのに、体が動かせないという状況は。


『ある種の拷問じゃな』


本当にその通りだと思う。武術の腕が向上したことはもとより、あの拷問のような時間を耐えきれたのは偏に神様のおかげだろう。


『ホホホ。感謝の気持ちは肉で良いぞ。和牛一頭とかでも良いぞ』


今度深度3の異界を攻略したら密林で注文させて頂きます。


『それ、誰が運搬するんじゃ? 黒猫か? 飛脚か? ペリカンか?』


カンガルーじゃないですか?


ひょんなところで神様への貢ぎものが決まったところで、雫さんの話に戻ろう。


彼女に習得させる武器を弓と符にした理由はいくつかあるのだが、最大の理由は彼女の家の御神体が(やじり)だったからだ。


御神体が偽物だったり、なんの価値もないモノだった場合は別だが、少なくとも彼女から預かった御神体には確かに神性が宿っていた。


つまり雫さんの一家は、常に鏃から放たれていた神性に晒されていたということである。


こういう場合、余程のことがない限りはなんらかの影響を受けているものなので、まずは弓を使わせてみることにしたというわけだ。


それで駄目だったら槍を、それでも駄目なら剣か拳で。

鎖鎌とか斧は俺が教えられないので却下とする。


『遠い順から試すワケじゃな』


そうですね。見た感じ性格的に拳が合わなそうなので、遠いのから試してみようかと。


『ふむ。つっても拳での戦闘が合う一般女子などそうそう……おったな。それもすぐそばに』


環の場合はなぁ。


彼女は性格上遠距離攻撃が向いていなかったのと、当時の俺が現代における符などの使い方を知らなかったのと、なにより経済的な事情により符や弓といった消耗品を使えなかったために近距離特化型になってしまったのであって、もしかしたら本当の適性は他にあるかもしれないんだよなぁ。


『もしそうだとしても今更変えようとは思わんじゃろ』


なんだかんだでレベル27になるまで近距離特化でやってきましたからね。


クロ……例の武装にも慣れてきたところだし、これから大幅に変えることはないと思われる。


もう半分以上独り立ちしている環に関してはいいとして。


符は学校で売っている最低限の符で良いとして、問題は弓である。


具体的に言えば弓ではなくて矢の方だが。


『あ~維持費か』


もちろんどんな武器でも維持費は掛かるのだが、弓矢は他の武器と比べても必要経費が多いことで知られている武器である。


なにせ弓本体や弦に維持費が掛かるだけでなく、敵に向かって放つ矢の本体、先端に取り付ける鏃、矢羽根等々、色々な部品でできている矢の一本一本が対心霊効果のある術具だ。


それら全てを使い捨てるというのだから、そりゃあ金が掛かるにきまっている。


『これが実物なら再利用もできるんじゃがなぁ』


霊や妖魔に向けて放たれた矢は放たれた時点で効力を失うので再利用することができない。

悲しいけどこれが現実であった。


そういった事情があるため、弓矢という武器はその知名度とは裏腹にそれなり以上に金がある家の人間が使う武器として認識されている。


ただまぁ何事にも例外はあるわけで。


『実家で造った破魔矢なら無料で得られる定期』


その通りでございます。


この場合の実家とは俺の実家である西尾家のことではなく、雫さんの実家である河北家のことだ。


『むこうの連中もなにかしら手伝いたいと思っておるらしいからの。せいぜい働かせてやれば良かろう』


まぁね。現状、15歳の娘一人に全部任せていますからね。

母親はまだしも祖父にしてみたら忸怩たる思いをしていることだろうことは想像に難くない。


当然のことながら、一般人である祖父が造った破魔矢にはただの縁起物以上の価値はないのだが、それでもいいのだ。なにせ退魔士が魔力を込めることで、縁起物は対心霊術具へと変わるのだから。


これを行う際重要とされるのが、モノと術者の相性である。


その点、祖父が造った破魔矢であれば、雫さんとも相性がいいはず。


よしんば相性が悪かった場合はどうするか? 

そんなの、単純に込める魔力の量を増やせばいいだけの話だな。


どれだけ相性が悪くてもその辺にいる霊相手であれば十分な効力を発揮するのだから問題ない。


結果として雫さんは無料で練習用の武器を得られるし、実家の人たちは後ろめたさが軽減されるという寸法である。


あとは弓本体だが、それに関しては最初はこっちで練習用の弓を用意するつもりだ。


『中津原家にある練習用の弓でも持ってこさせるか?』


それもいいかもしれませんね。


練習用を卒業するころには自前で揃えることができるくらいの力があるでしょうから、そのあとは彼女次第って感じです。


『ま、そこまでやれば十分じゃろ』


ですよね。


「というわけで、今後は弓の修行もします。とりあえず実家から破魔矢を送ってもらってください」


「破魔矢、ですか?」


「えぇ。どうせ余っているでしょう?」


「……えっと、はい。倉庫にあると思います」


やっぱりな。


正月用に造った破魔矢は余る。しがない神社あるあるである。


『余った破魔矢を翌年分に回すのもな』


これも数年分を纏めて造っていると考えれば悪いことではないのだが、保存状態が悪いとカビが付着してしまい売り物にならなくなるのが難点と言えよう。


世知辛い神社あるあるはさておいて。


「では本日の訓練はここまでにします。明日以降は符や弓の扱いも学んでいきましょう」


「は、はい」


完全な素人に弓を教えるのはちょっと面倒だが、いざとなったら早苗さんあたりに頼めばなんとかなるやろ。


――そんな風に考えていた時期が俺にもありました。

閲覧ありがとうございました




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