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かみつき! ~お憑かれ少年の日常~  作者: 仏ょも
2.5章 Cランクの同級生
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11話。弟子の教育についてのあれこれ③

河北雫Side


渋るお爺ちゃんをなんとか説得することに成功した私は、意気揚々と西尾さんのところに向かい、即座に実家から持ってきた御神体を差し出しました。


御神体と引き換えに30万円を渡されたときは、もうこれだけで問題が全部片付いたような気分になりましたよ。


なんせ毎月30万円ですからね。


もちろん叔父さんやお父さんが遺した借金の返済があるので、これだけでは決して余裕ができるというわけではありませんが、なんの収入源もなかったときと比べれば天と地ほどの差があります。


それが最低でも1年貰えるのですから、私が『肩の荷が下りた』と安堵の息を吐くのも当然のことではないでしょうか?


でも、これは永続して貰えるわけではありません。

最短で1年で終わってしまいます。


だからその後は私自身が稼げるようにならないといけません。


そのための弟子入り。

そのための御神体。


そう思って気合を入れたのですが……。


「何をするにしてもまず大事なのは基礎知識です。最低限の知識や技術は教科書に記載されていますので、まずはそちらで学習してください」


「……はい」


まぁ、そうですよね。鍛えるにしても基礎知識がないと厳しいですよね。


「知識よりも力を下さい!」という気持ちがないとは言いませんが、西尾さん曰く卒業までにはAランクまで育ててくれるということなので、腐らずに学習していこうと思います。


「それと、俺のいうことに従えないと思ったら抱え込まずにまず相談お願いします。俺に相談し辛いことなら、同級生の鷹白環さんや、中津原早苗さんに相談してください。彼女たちにも言っておきますので」


「はい、お気遣いありがとうございます」


これも大事なことです。


そもそも私は素人なので何が正しくて何が間違っているのかがわかりません。


これが何を意味するかと言えば……極端な話になりますが、もし『君には素質がない。何とかするためには房中術が必要だ』と言われても反論できないということです。


あくまで極端な話だし、さすがに西尾さんがそんな真似をするとは思っていませんが、価値観の違いとかはあると思うんですよね。


男の人に聞けないことでも同性なら聞けるかもしれないし、なにより(鷹白さんや中津原さんには迷惑かもしれないけど)あの二人と繋がりが持てるのは単純に嬉しいので、西尾さんのお気遣いには感謝しかありません。


「それとこれはあまり雫さんには関係ない話なのですが」


「?」


「現在俺には軍から監視役が付けられています」


「はい?」


軍から監視を受けていると言いましたか?

……この人、実は危ない人だった?


「監視と言っても、それほど仰々しいものではありませんよ。監視役も2年生の先輩ですし」


「はぁ」


状況がよくわからないんだけど、先輩なら大丈夫、なのかな?


「なので、雫さんが弟子として俺と行動をともにすることとなれば、雫さんも監視対象に含まれる可能性があります」


「そうなんですか?」


監視されても見るところなんてなんにもないと思いますけど。


あ、でもお風呂とかは勘弁してほしいかな。

もしそんなことをされたらどうしよう。

……いや、訴えたら慰謝料貰えるかも?


ふむ。アリ寄りのアリですね。


「そうなんです。あと、監視と言っても盗聴や盗撮をされるわけではないのでご安心下さい」


「はぁ」


くっ。慰謝料は無理か。


まぁ、プライベートを覗かれないならそれでいい、かな?


むしろ向こうの人の仕事を増やしてごめんなさいとしか……。


「なので、もし教科書の内容についてわからないことがあったら、その監視役の先輩に聞けば教えてもらえると思います」


「え? 監視している先輩を教師役に?」


いや、右も左もわからない素人な私からすれば先輩ってだけで十分教えを乞うに足る人だってことはわかりますけど、さすがに監視役の使い方が斬新過ぎませんか?


「使えるモノは親でも使う。基本でしょう?」


「それは……そうですね。うん。確かにそうです」


実際お母さんだって使われそうになっていたわけだし。


向こうから傍に来るのであれば利用した方が良いっていうのはわかりました。


でもねぇ。


気のせいだと思いたいんですけど、もしかして西尾さんって、私に基本的な知識を教えるのを面倒臭がっていませんかねぇ?



―――


東根咲良Side


「そういうわけで、先輩にもご紹介します。こちら弟子として教育することになった河北さんです。で、河北さん。こちらが東根先輩です」


「か、河北雫です! よろしくお願いします!」


「あ、あぁ。東根咲良だ。よろしく頼む」


この娘が噂の弟子入り希望者、いや、正式に弟子になったのだから希望者ではないな。


いやしかし、話だけは聞いていたが、まさか本当に弟子入りの条件として提示された御神体を持ってくるとは思ってもいなかった。


御神体の価値について一般家庭出身の私にはよくわからなかったので、上司である課長に聞いてみたところ『それは無理筋にもほどがある。おそらく断ることを前提にした提案だろう』と言われたし、クラスメイトだって『は? そんなこと提案されたら戦争だよ』と真顔で言っていたので、彼女が御神体を持ち込んでくる可能性は極めて低いと判断していたのだが、よもやよもやだ。


いや、それだけではない。


持ってきた御神体を躊躇なく西尾暁秀に差し出したというのだから驚きだ。


それも月30万円という、高いんだか安いんだかわからない金額で。


本人曰く「レンタル料を貰っているから問題ありません!」とのことらしいが、伝統ある神社の娘が御神体をそんな風に扱っても良いのだろうか?


それが許されるなら軍の研究員が資金難に苦しむ神社に突撃をしそうなものだが。


「彼女はとある事情があって退魔士としての基礎的な知識がありません。なので、基礎的な部分に関しては教科書で学び、わからないところがあったら先輩から教わるように伝えています」


「よろしくお願いします!」


「は?」


なんて?


「いやぁ。教職員が不足していてCランクの彼女に教育を施してくれる人がいないんですよねぇ」


「それは確かに気の毒だとは思うが……」


だからってなんで私? 

私は別に暇だからここにいるわけではないのだぞ。

お前の監視役という仕事でここにいるんだぞ。


もしかして、私がどこの誰とも知らんような相手にまで愛想を振り撒くような女だと勘違いしていないか?


そう思っていると、監視対象である西尾が内緒話をするかのように顔を寄せてきた。


「まぁまぁ。これは先輩にも得のあることですから」


「どこに?」


私には後輩に教えることで復習になる程度のことしか思い浮かばんのだが。


「まず彼女に恩を売れます」


「恩って」


ランクだけは同じCランクだが、片や明らかに力を隠している上に中津原家と強固な繋がりをもつ西尾と違い、本人にも実家にもさしたる力がない少女に恩を売って何になる?


「俺は彼女を在学中にAランクまで育て上げる予定です」


「……なに?」


Aランク。つまり深度3の異界に潜れるレベルまで育てる、だと? 

いまはCランクでしかない素人を?


世迷い事……にしては自信がありすぎる。

鷹白環のこともあるし、何か秘訣でもあるのか?


「そもそも彼女が俺に御神体を預けたのは、月々のレンタル料を支払うことに加えてこの約束をしたからです。もし無理だった場合は中津原家が持つ特殊な術具を進呈するという予定もあります。実際、早苗さんには彼女のフォローをお願いしていますしね」


「ほ、ほほう。中津原家のご令嬢が。それと術具も用意しているのか」


「ええ」


そんな約束をしたというのであれば、彼女や彼女の家族が御神体を一時貸し出すのも理解できる。


というか、中津原家謹製の術具が気になるんだが。


それってもしかして鷹白環や中津原早苗が風鬼ほどの鬼を倒しても【呪い】で死なないこととナニカ関係があるのでは?


訝しむ私に、西尾暁秀は続けて言い放つ。


「教科書の内容を教えるだけで将来Aランクになる退魔士に恩を売れるんですよ? 先行投資としては破格なモノではありませんか?」


「……まだAランクになるとは決まっていないが、中津原家との繋がりがある退魔士に恩を売れるというのは確かに悪くないな」


「そうでしょうそうでしょう」


投資といっても勉強を教えるだけであれば、たとえ彼女が大成しなくても損という損にはならん。


あと中津原家謹製の術具について詳しく教えて欲しい。


「もちろん先輩にも報酬を用意しますよ。軍人である先輩に現金は不味いと思いますので、術具になると思いますけど」


「喜んで引き受けよう」


そもそも監視役と言っても別に四六時中見張っていなければならないわけでもなし。


空いた時間で副業することは認められているのだ。


うむ。後輩を助けることで自分の復習とコネ作りになるだけでなく、貴重な術具を報酬として貰えるというのであれば、私に断る理由などない。むしろ喜んでやらせてもらう。


というか、是非やらせて欲しい。やらせろ。


そう決意した瞬間、どこかから『ちょろいのぉ』という声が聞こえてきた気がするが、きっと気のせいだろう。



閲覧ありがとうございました

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