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かみつき! ~お憑かれ少年の日常~  作者: 仏ょも
2.5章 Cランクの同級生
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10話。弟子の教育についてのあれこれ②

弟子を育成するに当たって最初にしなければならないこととは何か。

それは育成方針と目標の擦り合わせである。


『普通じゃの』


普通だからこそ大事なのですよ。

もしかしたら向こうに何らかの希望があるかもしれませんし。

そういうのを無視して鍛えた結果、後から文句言われたら嫌でしょう?


『舐めた真似をしたら潰すのは確定じゃが、そもそもそんな真似をされないに越したことはないってことかの?』


そういうことです。

神様にも納得して頂けたようなので、話を戻そう。


「さて。これから雫さんを鍛えるわけですが」


「はい!」


「基本は放課後や土日などの休日に修行を行います」


「はい!」


この学校。授業では最低限の知識しか教えないが、逆に言えば最低限の知識は教えてくれるのだ。


最近退魔士としての力を得たためこれまで退魔士としての教育を受けてこなかった雫さんにとっては、こうした授業で得られる知識だって大事な知識なのである。


『素人に一から教えるのがめんどいだけでは?』


そうともいいます。

そもそもその辺の教育をするために教師がいるわけですし?


本人たちがどのようなつもりで教鞭を執っているかは知らないが、彼らは学生を教導するために集められた人員だ。


そのために国から給料が支払われている以上、俺たちには彼らを使い倒すくらいの厚かましさがあっても良いと思う。


『教わることがあるうちはそうじゃな』


そういうことです。


『で、肝心の教員がいない件は?』


あ~。


そうだった。例の陰陽師大量失踪事件からまだ1か月程度しか経っていない今、未だに教職員の数は回復していない。


そのためCランクはもちろんのことBランクの授業にも差しさわりが出ている状況である。


こんな状況で「教師を使い潰せ」とはとてもではないが言えない。


でも俺が一から鍛えるのも面倒な話。

うーむ。どうしたものか。

悩んだ末に出した答えは……。


教科書を覚えさせましょう。


『ぶん投げおった』


いや、こういうのは読むだけでも違いますから。

その上でわからないところがあったら東根先輩あたりに聞けば最低限の知識は得られるはず。


あとは本人にやる気があるか否かだろう。


『自主性を尊重と言えば聞こえは良いが、やっとることはただの放任じゃな』


そもそも俺は教師じゃないし。


師匠として俺が彼女に教えるのは、学校では習わない知識と、卒業後に使える技術だ。


レベリングは最低限の知識を身に着けてから。


ただし、何の説明もしないまま「レベリングをしない」なんて言ってしまうと彼女の意気を削ぐことになりかねないので、きちんと目標は明確にしておく必要があるだろう。


「当座の目標は、在学中にAランクまで昇格させること。それでいいですか?」


「はい! よろしくお願いします!」


よし。第一段階クリア。


『ちなみに、駄目と言われてたらどうするつもりだったん?』 


駄目の内容によりますかねぇ。


『というと?』


ここで「レベル30まで上げて欲しい!」と言われたら断るしかないです。

物理的に無理なんで。


『そらそうじゃ。ほんなら「キツいのは嫌だ!」って場合は?』


その場合はBランクで我慢してもらう感じですかね。

やる気がないのは育てられませんから。


『その言い様じゃと、芹沢何某のときみたく半ば無理やりレベリングしたりはせんのか?』


人聞きが悪いですねぇ。

でもまぁ、そうですね。

芹沢嬢のようなパワーレベリングはしない予定です。


『なんでよ? どうせやるなら一気にやった方が面倒がなくて良いじゃろが』


夏休みの宿題を初日に全部終わらせる感じですね。

わかります。

でも今回に関してはそうもいかない理由がありまして。


『理由とな?』


えぇ。まず急激にレベルアップさせてしまうとどうしても油断してしまいがちになるじゃないですか?


『あぁ。環がそうじゃったな』


雑魚が油断慢心なんてしたら事故が起こるのが当たり前でしょう?


『じゃな』


異界を無礼(なめ)たら死ぬ。これ常識。


せっかくレベリングした雫さんにあっさり死なれてしまうと、それまでにかけた時間が無駄になるというだけでなく俺の教育方法に問題があるように思われてしまうではないか。


『まぁ、評判は悪くなるじゃろうな』


そうなんですよ。

社会で生きるためには大事ですからね。評判。

あと妹が入学したときに悪評が流れていたら困る。

家族から冷たい視線を向けられるのは嫌だぞ、俺は。


『結局お主の感情なのな』


そりゃそうでしょう。


次いで、雫さんだけでなく東根先輩も鍛えなければならないというのがあります。


『それが何か関係するんか?』


するんですよ。雫さん一人だけでも怪しいのに、二人も急速にレベルアップさせてしまった場合、軍や国は俺に育成させる能力があると判断するでしょう?


『するじゃろうなぁ』


そうなったら、軍や国からどんな扱いを受けるかわからないのが怖いんですよね。


『いや、そもそもの話、東根をそこまで鍛える必要はないじゃろ? その辺にある深度2の異界を攻略程度では駄目なんか?』


神様。


『なんぞ?』


もし俺が先輩を放置して雫さんと深度3の異界に潜っていたら、軍から俺の監視を命じられている東根先輩の評価はどうなると思いますか?


『ん? まぁ「使えんヤツ」って感じになるんじゃないかの?』


ですよね。現状東根先輩が監視役として機能していると思っているからこそ軍は大人しいのであって、監視役がきちんと機能していないということがバレたら面倒な感じになりそうじゃないですか?


『あぁ。そういうことかや』


そういうことです。


今更他の監視役を差し向けられても面倒なので、最低でも東根先輩が卒業するまでは、彼女に俺と雫さんを監視できる位置にいて欲しいんですよ。


『軍の思惑と別にして、アレが抱く渇望は、自分が【呪い】で死なぬための護符、もしくは自分が【呪い】で死なぬという保証じゃ。そういう意味では操りやすいものな』


望むモノがわかっているので買収は簡単です。


今すぐだと信用が薄いので無視でしょうが、一年も一緒に行動していれば気付くでしょう。

俺が、彼女と雫さんが【呪い】で死ぬことを考えていないことに。


『気付くじゃろうな。で、向こうからその理由を聞いてきたときが買収のチャンスってわけか?』


えぇ。少なくとも在学中に軍と敵対するつもりはありませんからね。

早めに軍の監視役を取り込むことができれば後々楽そうですし。


『ふーむ。多少迂遠な気がしないでもないが、まぁお主の人生じゃ。好きに生きよ』


あざます。



閲覧ありがとうございました



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