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かみつき! ~お憑かれ少年の日常~  作者: 仏ょも
2.5章 Cランクの同級生
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7話。それ、あなたの価値観ですよね

「御神……体?」


神様の提案、それは御神体ッ!


「そう。御神体。もちろん譲ってくれというわけではなく、あくまでレンタルで。期間は最短で1年、最長で3年くらいかな。なんならレンタル料も支払いますよ。細かい数字に関しては実物を確認した後になりますが、少なくとも月に30万円くらいであれば……」


「さささ、30万円!? ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」


「もちろん。落ち着いて考えて欲しい」


正直俺も神様からこの意見を聞いたときは驚いたからな。


『神社の関係者にとって御神体とは文字通り神の体。それを貸せなどと、通常であれば喧嘩を売るどころか宣戦布告そのものじゃて。故にお主にもこの発想は浮かばんかったというわけじゃな』


ですね。


もし俺がその提案を受けたら、提案したやつを殴りつけた上で関係者全員を焼却しているくらい非常識な提案である。


俺の場合は神様が傍にいるからこそ余計にという部分もあるが、別に俺が特別というわけではない。


事実、今や早苗さんの従者みたいな感じになっている天津神系の二人組だって、早苗さんから『御神体の刀を貸してほしい』なんて言われたら、勝てないことを知った上で殴りかかるだろう。


『もしくは泣き落とし、じゃな』


そっちの方がありそうですね。

とりあえず我々にとってはそのくらい大事なのだ。御神体とは。


彼女が怒り狂わないのは、彼女自身が宗教家として染まっていないのと、そもそも神主である祖父が神社そのものを売ることまで考えていたという経緯があるからだと思われる。


『うむ。神が住む社を売るのであれば、必然的にそこにある神体も売ることになるからのぉ』


ついでに言えば、今も目の前で「御神体を貸す? それだけで月30万?」と呟いている彼女は御神体の価値を正しく認識していないのだろう。


これが祖父あたりであれば「御神体だけは絶対に渡さん!」と決意を固めて俺に挑んできたかもしれないが、神社の管理人でもない雫さんにそれを求めるのは酷というもの。


『妾たちはそこに付け込ませてもらう、というわけじゃな。いやはや、常に亡き息子の嫁が体を売るかどうか悩んでいるのを見せられ続けているだけでなく、同じ覚悟をキめた孫娘から「御神体を貸したら全部解決するんだよ!」と詰め寄られる祖父、か。義理の娘と孫娘に身体を売らせるような覚悟を背負わせた罪悪感と、見ず知らずの男に御神体を貸し出すという背徳感。その両方と向き合うことになる祖父は一体どんな顔をするんじゃろうなぁ?』


あら、今日もいい藤田顔ですこと。


この顔を見れただけで十分と言えなくもないが、貰えるものは全部貰うのが俺の主義なので、提案を取り下げるつもりはない。


ちなみにこの提案は、神様のような嗜虐趣味を持たない俺にとっても悪いモノではなかったりする。


当たり前の話だが、400年と少しの間だけとはいえ、神社という霊地の上にある祭壇で祀られていた御神体は、普通に高純度の素材であることが多いので、研究素材としては一級品(途中で売られていたり交換しているときがあるので、その場合は価値がない)だし、なによりモノによっては本当に神かそれに近い存在が宿っている場合があったりするのだ。


この場合は神様のオヤツになるか、俺の経験値になってもらうこともあったりする。

なので御神体とは俺たちにとって非常に美味しい存在なのである。


懸念があるとすれば、御神体に宿っていた神性が失われていることに気付いた祖父あたりから抗議される可能性があるということだが、そもそも祖父にそんな目利きができる眼があるのであれば、最初から神社や土地ではなく御神体を担保にして協会あたりから金を借りているだろうから、そこまで心配はしていない。


『そも、社を売り払おうとしとる輩に神体はいらんわな』


その通り。節穴の神主に代わって正しく価値を知る我々が有効活用させていただく所存である。


副次効果として、雫さんが御神体を差し出したという形を取ることで早苗さんや環からのヘイトを減らしつつ、他の弟子入り志願者を牽制できるという効果が見込めるのもいい。


『こやつは御神体を差し出すという覚悟を示した。お主らにその覚悟はあるのか?』


そんな感じですね。


つまるところ神様が提案してくれた『御神体の貸し出し』とは、俺が彼女を弟子にする理由としても、他の生徒などによる弟子入り志願を断る理由としても十分以上の価値があるということだ。


もし他の生徒が御神体を貸すと言ってきたら? 喜んで借り受けますとも。


借りた後だって、もちろんきちんと返却するつもりはある。


ただし、借りた後に多少の実験は行うが。


『借りたモノは返す。返すが、その中身が変質しないとは言っていない』


人聞きの悪いことを。


精々が神性が宿っているかどうかを調べたり、神性が宿っているのであればそれを触媒にしてなんらかの神や妖魔を呼び出せるかどうかを調べたり、呼び出した存在が経験値として以外に活用できるような存在か否かを調べるくらいしかしないでしょ。


『経験値以外の使い道がなければ喰われて経験値にする。何らかの価値があれば交渉して素材や情報を得る。それだけの話と言えばそれだけの話じゃが、御神体を台無しにされるという意味では一緒じゃな』


一応、空になったモノには最低限の力を込めてから返しますから。


この場合俺が返却した御神体にはそれなりの神気が篭るので、素材という意味でも霊地の鎮守に必要な要石という意味でも、現状のように無能力者がなにもしないまま飾っているよりもずっと価値が上がるのだ。


『まぁ、そうじゃの』


これにより、俺は御神体の研究ができて嬉しいし、向こうだって月々のレンタル料が貰える上に孫娘を鍛えて貰えるだけでなく、返却された御神体が霊的に覚醒しているという御褒美を得られて嬉しいという、所謂winーwinの関係になるわけだ。


『神体が色んな宗教団体に狙われることになるが?』


それを護れるかどうかは今後の雫さん一家次第でしょうね。


尤も、俺が御神体に関わったことを知った中津原家が確保に走る可能性が高いと思いますけど。


『なるほどのぉ。そうやってなし崩し的に中津原の関係者にしてしまうわけか』


です。一度あることは二度あるし、二度あることは三度あるとも言いますからね。


今後雫さんが結婚した場合、その相手や、いるかどうかわからない親族関連のトラブルに巻き込まれて借金まみれになっても困ります。


でも中津原家がバックに居れば新興宗教の連中も簡単に手は出せなくなるでしょうし、どうしても金に困ったら中津原家に神社なり御神体なりを売れば済む話ですからね。


『悪くはないと思うぞ。中津原とてそれなりに鍛えられた退魔士はいくらおっても良いじゃろうし、妾関連の素体は確保したかろう。何よりお主との繋がりを強化できるからの。喜んで傘下に収めるじゃろうよ』


ですよねー。


「貸出するだけで月に30万。その間に鍛えて貰える? 私たちになにか損はある? ちゃんと返却されるなら損はないよね? お爺ちゃんはなんていうかな? いや、そもそもお母さんのことを考えれば駄目なんて言うはずがなくない? もし駄目だって言われたら盗ん……いや、一時的に私が預からせてもらえば……。いやいや、それなら最初から言わない方が……」


『おーおー。だんだんと黒い方向に偏っていくのぉ』


ブツブツと考え込む雫さんだが、ことが彼女の体ではなく彼女の家で祀っている御神体に関わることである以上、最終的な決定権は彼女の祖父にあるので、彼女がここでいくら考えたとしても答えを出すことはできない。


それを知りつつ俺から葛藤する彼女に対して「一度家族に聞いてみたら?」と極々常識的な提案をしないのは、偏に暗黒面に陥りつつある雫さんを見る神様が楽しそうだからだ。


彼女には悪いが、無償どころかこちらから金を払って鍛えるのだからこのくらいの戯れは許してほしいところである。


「……お爺ちゃんが。……でも30万だし。それだけ貰えればお母さんも私も助かるし、ユースケにも服とか靴を買ってあげられるし……」


かなり傾いているな。


これから河北家の中でどんな会話が成されるかは知らんが、せめて俺と神様が楽しめるような選択をして欲しいものである。

閲覧ありがとうございました



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