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かみつき! ~お憑かれ少年の日常~  作者: 仏ょも
2.5章 Cランクの同級生
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6話。何でもしますとは言っていない

「んー」


答えを求められた俺は彼女から受けた提案について考える。


まず借金云々についてだが、これに関しては特に思うところはない。


むしろその叔父の妻とやらが新興宗教の関係者で、最初から、それこそ「家を建てる」云々の前から河北家が狙われていた可能性について確認せず、それどころか結婚の段階できちんと背後関係を確認しないまま結婚させた祖父が悪いとしか言いようがない。


『お家の乗っ取りなんざよくある話じゃからの』


そのとおり。神社関係は特にそうだ。


貧すれば鈍するというが、俺たちは常に金が無いゆえに常に鈍している状態だ。


よって神社の関係者は、自分たちが獲物として狙われていることを自覚しなくてはならない。


事実、ウチや環の実家がどれだけ貧困に喘いでいても金融機関から借金をしなかったのは、こういう事態になることを防ぐためでもあるのだから。


『土地と建物以外に担保になるもんが無かったともいう』


そういう一面があることも否定しない。


とにかく、乗っ取りを警戒しなければならない立場にあるにも拘わらず、神社の土地と建物を担保にして金を貸すようなところから金を借りるなどという迂闊な真似をした阿呆に同情の余地はない。


同時に、借金云々はあくまで彼女の祖父や叔父の問題にしてそれを抱えると決意した父親の問題であって、当時も今もなんの決定権もない彼女に非があるわけではないのもまた事実。


『まぁ、そうじゃの』


ここまでが彼女の事情。


これからは俺の事情。


問・俺自身が彼女を鍛えることについてどう思っているか。

答・別にどうとも思っていない。


これだ。

まず彼女が望む知識や技術の伝授、さらにはレベリング自体は簡単にできる。


芹沢嬢や千秋のことを考えれば、卒業までの約3年あれば、よほどのことが無い限り彼女を深度3の異界を攻略できるレベル帯まで鍛えることはできる。できるのだが。


『問題はそれをしてお主になんの得があるのかって話よな』


そうなのだ。


今まで俺が育ててきたと言えるのは、環と早苗さんと芹沢嬢と妹の千秋の四人だが、彼女らを鍛えたのにはそれぞれ理由があった。


まず環は、同年代の少女に同情したというのもあるが、それ以外にもいずれ妹に行う予定だったレベリングのテストケースであったり、荷物持ちであったり、一般の退魔士の常識などを知るために有益だった。


早苗さんは、神様絡みなので是非もない。

加えて中津原家との縁を保っておきたかったという下心もあった。


芹沢嬢は、妹の付き人として、また拾った以上は自分の食い扶持を稼げる程度にする必要があった。


千秋は普通に妹だから。それ以上の理由はない。


『でた、シスコン』


いや、他の人より身内を優先するのは当たり前ですから。

まして相手は妹だ。

力があるとわかっている妹を鍛えない兄がいるだろうか、いや、いない。


『自己完結しおったわ』


翻って、河北さんはどうか。


別に彼女の家が断絶しようが、彼女が新興宗教の関係者に嫁がされようが、まったく違う宗教団体に買われて人柱にされようが俺には何の関係もない話である。


むしろ俺が彼女を鍛えたせいで彼女が深度3の異界を攻略できるようになったら、他の連中も俺にレベリングを頼んでくるかもしれないではないか。


『間違いなくそうなるじゃろうな』


ですよねぇ。


そうなると正直めんどい。


「ふーむ」


これは俺の持論だが、人を育てるということはただレベリングをすれば良いというわけではない。

育てた人間が道を踏み外さないよう、最低限の責任を負わねばならないと思っている。


今回の場合だと、俺が雫さんを鍛えることは新興宗教側の狙いを潰すこととイコールだ。

そうなると今後彼らと河北家のゴタゴタに巻き込まれれるリスクも負うことになるわけで。


『リスク? ナニカあったら潰せば良いだけでは?』


いや、地方とはいえ、金融機関を潰したら巻き込まれる人とか多そうじゃないですか? 


いくら爺さんが呆けていても、あからさまに怪しい金融機関から金を借りることはないだろうし。


『たーくしょっく!』


うん。そんな感じの地方銀行なんじゃないですかね。

さすがにあそこまで大きくはないでしょうけど。


で、それを潰したら大変でしょう? 

正直そんな責任を負いたくないです。


『つまり、リスクを甘受できるリターンがあれば良い。そういうことじゃな?』


そうですけど。

なんですか? 妙に乗り気ですね?

身体とかはいりませんよ?


『相変わらずじゃのぉ。じゃが今回はそっちではないぞ!』


ほほう。神様は、今の彼女に身体以外に差し出せるものがある。そうお考えで?


『まぁの!』


なんだろう。少なくとも俺には想像できないが。


『任せよ! 妾にいい考えがある!』


それ、駄目なやつでは? 




―――



河北雫side


「んー」


私の事情を聴いた西尾さんは、なんとも悩まし気な表情をしながら考え込んでしまった。


彼の気持ちはよくわかる。


誰だって他人の借金事情に口を挟みたくはないだろう。


その上、新興宗教が絡んでくるとなれば面倒ごとに発展すること間違いなしである。

そんな地雷案件とは距離を置きたがるのが普通だろう。


まして今の私に提示できるものなんて何もない。

敢えて言うのであれば私の体くらいだろうか。


ちなみに、自慢ではないが、私の発育は年齢の割にそこそこいい。


中学時代も男子からはそれなりに欲の篭った視線を向けられていたし、新興宗教の連中からも舐めるような視線を向けられたことがあるから、男の人から見て全く魅力がないというわけではない……と思う。


とはいえ、どれだけ発育がよかろうが、同年代の男子にモテようが、妖魔が蔓延る異界では性別や外見にはなんの意味もない。


いや、若い女子が妖魔の苗床になりやすいという意味では無意味ではないかもしれないが、それに何の救いがあるというのか。


だから最後の手段、というか、彼から「何か見返りはないのか?」と聞かれたら、私は迷わず自分の体を差し出すつもりである。


……彼には先ほど「身売りはしたくない」と言ったが、あれは嘘だ。


正確には「その辺のオッサン相手に一回いくらで身売りしたくはない」となる。

もちろん人柱として使われるような場所に自分を売るのはもっと嫌だが。


どうせ身を売るのであれば一回限りの魚を恵んでもらうのではなく、魚を捕る方法を教えてもらいたいのだ。


だからこそ西尾さんだ。


彼は同年代の男子でありながらその辺のオッサンとは違ってこの業界に詳しいし、なにより私よりも実力がある。


そういう意味では他の同級生もそうなのだが、入学式の当日に行われたオリエンテーションで中津原さんや鷹白さんに一蹴された彼ら彼女らに、他人の面倒を見ている余裕なんてものは存在しない。


彼ら彼女らは少しでも自分を高めるために、また少しでも中津原さんや鷹白さんのようになるために必死なのだ。


加えて、私たちにとって同級生とは将来の商売敵である。


中津原さんのような名家が相手であればその傘下に加わるという選択肢もあるだろう。


鷹白さんのように一般の神社ではあるものの、秀でた実力を示したのであれば、囲い込むという選択肢もあるのだろう。


家にお金があるのであれば、お嫁さんとして迎え入れるという選択肢もあるのだろう。


だけど、今の私にはそのどれもない。

家の歴史は400年と少し程度。

実力は底辺そのもののCランク。

家は借金塗れというだけではなく、新興宗教に目を付けられている。


こんな女にだれが近寄るというのか。

私だって他人なら距離を置いている。

事実、教職員でさえ私とは距離を置いているようだし。


文字通り八方塞りである。


その上、私には時間すら無い。


今のままでは異界に潜って生活費を稼ぐという従来の計画を実行することはできない。

でも私が家に仕送りができなければ、ただでさえ厳しい家計がさらに厳しくなることは明白。


お母さん曰く「多少の蓄えはあるから、無理しなくて良いからね」とのことだったが、私はそれが嘘であることを知っている。


お爺ちゃんから聞いた限りでは、せめて今年中にBランクの評価を得られる程度まで鍛え、異界を探索してそれなりの仕送りができるようにならなければ、実家が大変なことになってしまうらしい。


具体的には、お母さんが夜のサービスをするお店に働きに出ることになるそうだ。

お爺ちゃんは止めているが、お母さんはすでにその覚悟を決めているんだとか。


その際にはもちろん私も家計を支えるために同じ仕事に就くつもりだが、できることならそんなことはしたくないし、お母さんにもして欲しくない。


「ふーむ」


そういうわけで、私としてはなんとしても彼に弟子入りしなくてはならないのだけど、その彼はまだ悩んでいる。


でも、悩んでいるということは全く興味がないというわけではないのだろう。


もしかしたら、私に差し出せるものが私の体しかないことを理解しているが、実質的に今日が初対面の同級生に対して体を要求することに抵抗があるのかもしれない。


普通ならそうだろう。しかも彼は中津原さんや鷹白さんと親しいようだし、猶更そういう提案をし辛いのかもしれない、


もしそうなら私の方から提案するべきだろうか?


でも安売りするような感じになったら嫌だし……。

そもそもそう言うのを求められていなかったとしたら、とんだ自意識過剰ってことになるし……。


「……条件がある」


あーだこーだと考えていたら、西尾さんの方から声を掛けてきた。

乗るしかない、この流れに。


「条件、ですか」


「そうだ。それを飲むなら君を鍛えても良い。少なくとも今年中にはAランク、深度3の異界を狩場にできる程度にはなれると約束しよう」


「Aランク!?」


それは一流と呼ばれる退魔士だけが到達できる領域。


基礎も何もない私がその領域に?


「まぁ、深度3の異界を攻略するのではなく、探索できる程度ならそんなに難しい話じゃないからな」


「そ、そうなんですか?」


「そうなんですよ」


こともなげに言うその姿からは、嘘を吐いているような雰囲気は感じられない。


また、Sランクとして深度4の異界に潜ることができる中津原さんや鷹白さんが傍にいることを考えれば、彼が深度3の異界がどのような世界なのかを知らないということはないだろう。


つまり現実を知らぬが故の大言壮語というわけではない。


まさか、本当に?


もし深度3に潜れるようになれるのであれば、収入は桁違いになる。

もちろん私もお母さんもそういう仕事をする必要はなくなるだろう。


借金だって10年も掛からずに返せるようになるかもしれない。


本当であれば是非お願いしたい。

何がなんでもお願いしたい。


でも右も左もわからない私をそこまで育ててくれるのは何故? 

その見返りは? 


……決まっている。今の私に支払えるものは一つしかない。


「じょ、条件を教えてください」


答えはわかりきっている。

だから、あとは覚悟を決めるだけ。


「うん。君にはとても言い辛いことなんだが、落ち着いて聞いてほしい」


「……かまいません」


やっぱり。でも不特定多数の人の相手をするくらいなら彼一人の方がマシだよね。


「そうか。では遠慮なく」


「はい」


何を言われても嫌な顔をしないようにと構えていた私に、彼は私が想定していなかったモノを要求してきた。


「君の家で祀っている御神体を貸してほしい」


「やっぱりそう……え?」


御神体? 私の体じゃないの?


閲覧ありがとうございました。


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