7話。そして模擬戦へ
短めです
「……どうしてこうなった」
『はん? お主が早苗に一任したからじゃろ?』
ぐうの音も出ない。
藤田顔の神様から繰り出された正論ビンタで論破される俺氏。自業自得とはこのことか。
……監視やら何やらに対しての処置を早苗さんにお任せしてから今日まで数日間、特に何も異常がないまま迎えることになった入学式の日。
入学式は、まぁ普通だった。新入生総代の目が妙に血走っていたし、職員たちの目もどこか怒りに満ちていたような気もするが、やったことは新入生41人が講堂に集まって、校長やら生徒会長やらの話を聞くだけで終わったのだから、まぁ普通と言ってもいいだろう。
そんな感じで入学式が恙なく終わったと思ったら、中津原家の人に「オリエンテーションがあるので第二演習場へお越しください」と言われたので演習場に赴いたところ、そこにはなにやら仕事着であるはずの改造巫女装束を着ている早苗さん&環と、完全武装をしているうえ異様にやる気に満ちた表情を浮かべている数十人の少年少女たちがおりましたとさ。
めでたしめでたし。
『現実を見ろ。現実を』
現実と言われましてもねぇ。
今の俺に見えるモノと言えば。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマンッ」
「万象一切灰燼と為せッ!」
妙に気合の入った真言宗の方と。
「布留部・由良由良止・布留部」
「高天原に坐し坐して……マイナーな国津神を奉じるマイナー神社の連中に天津神の偉大さを教えてやる!」
妙に気合の入った神道系の方と。
「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」
「神の教えを冒涜する土着の悪魔どもに審判を下すのだ!」
妙に気合の入った教会系の方と。
「急急如律令!」
「陰陽師がマイナー? 永年皇居を守護してきた我々を無礼るなよ!」
妙に気合が入った陰陽師系の方しかいないんですけど。
「いや、なんぞこれ?」
『おーおー殺意が漲っておるわ』
殺意がどうこうじゃなくて。これはなんですのん?
「ふふふ、雑魚はいくら集まっても雑魚だと教えて差し上げますわ」
「乙女の秘密を覗く輩ども。連中には死すら生温い」
ナニカ知っているはずの早苗さんに状況を確認しようとしたが、彼女は彼女でやる気満々だし、環に至ってはなんか違う人がインストールされているし。
……どういうことなの?
「あ、暁秀さんは御社様と共にここでご照覧下さい! 連中ごとき私と環さんで片付けますので!」
いや、なんの説明にもなっていないのだが。
もしかして理解できない俺がおかしいのか?
『鈍いのぉ。見ればわかるじゃろ。早苗が他の連中を挑発したんじゃよ』
挑発って、何のために?
『そりゃ格の違いを教えるためじゃろ。それ以外にあるまい』
格の違いを教えるって、何のために?
『阿呆な連中が干渉してくるのを防ぐためじゃな』
あぁ、最初にガツンとやることで馬鹿の暴走を防ぐためですか?
『そういうことじゃな。ついでに教師たちや上級生にも自分たちの実力を見せつけ、誰がこの学校の支配者なのかを教え込むつもりじゃろうて』
支配者云々はまぁアレだが、一応神様が言いたいことと早苗さんがやりたいことは理解した。
問。監視に対する対処法とはなにか。
答。監視させないようにすればいい。
実にわかりやすい理屈である。
そして向こうが覗きをする理由を考えた際、中津原家は「自分たちが無礼られているから」と考えたのだろう。そこから「ならば無礼ている連中を全員分からせてやればいい」と判断を下したわけだ。
うん。間違ってはいない。
『あとは中津原としての矜持もあるじゃろうな』
あぁ、それはありそうですね。
神道の主神が天津神の天照大御神であることから、神道系の中では国津神の系列が下に見られている傾向がある。例外は天照大御神の弟であり国津神の祖とされる素戔嗚尊や、その子孫にして国津神の元締めとされている大国主くらいだろうか。
彼らの基準ではそれ以外は概ね雑魚である。特に建御雷に負けたとされる建御名方なんて露骨なまでに負け犬扱いされたりしているし、ウチの白蛇や環の実家の白鷹など神とさえ認められていない。
同じ神道でもこんな感じなので、宗教関係者の中には中津原家を名門と認めながらも、どこか「所詮は国津神系列」と侮っている連中も少なからずいる。
中津原家としても、昔なら負け犬の遠吠えと聞き流していただろう。
だが、今は中津原家が祀っている神様が顕現している。
この状況で中津原家への侮辱は神様への侮辱と同義だ。
それを許すほど腑抜けてはいないということだろう。
いや、もしかしたら「神様を侮辱されているのを黙認していたら自分たちが粛清される」と考えたのかもしれない。
そんなことはしないと言いたいところだが、中津原家の人たちが手を抜いた結果、神様に面倒が回ってきた場合、神様は普通に切れる。そして俺に切れた神様を止める気はないので彼女らの判断は間違ってはいない。
『本来妾としてはニンゲンどもからの評価なんぞどうでも良いことではあるのじゃが。妾やお主が侮られることで実害が出るとなると話は別よ』
実害どころか、テレビやネット動画を見ている最中に邪魔された程度でも切れるからな。この神様。
『当然飯の邪魔と睡眠の邪魔も許さんぞい!』
ひと昔前の引き篭りかな? 気持ちはわかるけど。
『床ドンしないだけマシじゃろ』
床ドンされたら穴が開きますからね。
ウチに実害がないだけマシではあります。
いきなり呪われた側がどう思うかは後で当人たちに聞くとして。
早苗さんが本気で他の生徒を潰すつもりなのは理解した。
環はまぁ、上手く言いくるめられたのだろう。それはいい。
問題は俺だ。
「ご照覧下さいって言われましてもね。そもそもこの模擬戦? のルールを聞いていないんですけど」
狙われたら反撃しても良いんですかね?
『ざっと見たところ、連中のレベルは高くても10相当ってところじゃな。おぬしが反撃するとしたら、相当手加減せんと蒸発するぞ』
おいおい。その程度のレベルで早苗さんと環を雑魚扱いした挙句あんなに敵愾心を燃やしているのか?
偉そうなことを言うつもりはないが、この業界で彼我の実力差を測れないのは死活問題だろ。
身の程を弁えないと死ぬぞ、マジで。
閲覧ありがとうございました。