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6話。情報の共有は大事

「と、まぁこんなことがありまして」


「……なるほど。軍の監視ですか」

「へー、大変だね。暁秀は」


極々自然に先輩との会話を終わらせた後で速攻で寮に向かうと同時に、俺より先に入寮していた早苗さんと環を呼び出して、先ほど接触した東根先輩と交わした一連の会話を報告した結果がこれである。


早苗さんはともかくとして環の反応が軽すぎるのではなかろうか。


『自覚が無いんじゃろ』


なるほど。ではさっさと環にも現状を自覚して貰うとしよう。


「あのな、環」


「ん? なに?」


「お前にも監視は付いているぞ」


お前も不幸になるがいい。


「……うぇ!?」


「え? 気付いていなかったんですか?」


「そ、そんなの気付いているわけないでしょ!」


『またしてもなにもしらない鷹白環さん。(15歳)』


どうにかしてもインチキはできませんのであしからず。


「つーかなんで他人事だと思ったんだ」


いや、マジで。


「だ、だって、お嬢は普通にお嬢だから護衛とかが付くのは当たり前だし、暁秀は監視されて当然でしょ!? 私は関係ないじゃん!」


『監視されて当然の男』


嫌なフレーズだが否定できないのがなんとも言えんところよ。


「いや、向こうが暁秀さんを神殺しとして認識している理由は、暁秀さんが私と一緒に深度3の異界を攻略したという実績が元になっているんですよ? それを考えれば、私たちと一緒に深度3の異界を攻略している貴女だって軍から注視されるに決まっているじゃないですか」


「その通り。むしろ中津原家との繋がりが薄い分、俺よりも狙われやすいまであるぞ」


「うぐっ」


「加えて、家の格がある上に護衛がいる私や、術式で監視できないことが知られている暁秀さんと違って、貴女は簡単に監視できますからね。正面から監視していると告知する理由がないだけで、間違いなく監視されていますよ」


「うぐぐ!」


早苗さんの正論パンチが炸裂! 

こうかはばつぐんだ!


「か、監視ってさ」


「ん?」


「……の、覗かれるってことだよね? もちろん私生活も」


「そうですね」

「言葉を飾らずに言えばそうなるな」


思春期の少女にはつらかろう。そんな環に追撃だ。


「ちなみに今までも監視はされていたと思うぞ」


「え?」


「そうですね。環さんのご自宅には監視を阻害するような結界は張られていませんでしたし」


「え?」


「あと、こないだおあつらえ向きにトイレの工事とかしたからな。お前、中津原と繋がりの有る業者じゃなくて地元の業者に頼んだだろ? あれは駄目だぞ」


「え?」


業界の人間は皆どうにかして若くして深度3の異界に潜っている俺たちの情報を得ようとしているからな。そこに餌をやったらあかんよ。


『それが敵を釣るための罠とかならまだしも、こやつは何も考えておらんかったからのぉ』


結局緊張感が足りんのよ、緊張感が。


「あぁ、不特定多数の人間を侵入させてしまったのですか。そうなると間違いなくカメラや呪符が仕込まれていますよ」


「ですよねー」


「え?」


こうなるとトイレだけではない。

敷地全体が怪しくなる。


「まぁ、常時風呂やトイレを覗くような気合いの入った変態は極一部しかいないから安心しろ」


『常時覗いておったら父親が用を足しているところも見てしまうからの』


そういうこと。そもそも他人のトイレ風景を見たいなんて考えるのは一部の人間だけだからな。


環を監視している連中だって、術式に関係のないところを覗くような真似はしないはずだ。


部屋は……あきらめろ。


「えっと、それってさ。逆に言えば、極一部はそういう人がいるって……ことだよね?」


「いるなぁ」

「いますね」


「……否定してよぉ」

 

「無理いうな」


残念なことに、世の中にはそういうのを気にしない変態(強者)がいるのだよ。


『そういうのじゃないと監視役になれんともいう』


そうとも言いますね。


「あ、でも」


「な、なに?」


ここから明るい話題になると思ったか?


『残念だったな。外れじゃよ』


「たとえ映像は見ていなくても、声とか音はずっと聞かれていると思いますよ」


「…………」


そうね。祝詞や術式の解析をするために絶対に聞かれるね。


そういう意味では一人の空間になるトイレや風呂こそ危ないと言える。


結局、俺から言えることは1つだけだ。


「まぁ、なんだ。向こうが少女の私生活を監視することに性的興奮を覚えないような、仕事人タイプの人間であることを祈れ。仕事として割りきるタイプなら少しは我慢もできるだろ?」


同性とかな。


「そ」


「「そ?」」


「そんな我慢は嫌だぁぁぁ!」


あ、壊れた。


『そらそうよ』


―――


鬼気迫る表情で「今までウチを覗いていた連中と今もウチを覗いている連中を纏めて見つける術式と、そいつらを纏めて殺す術式を教えて! 今すぐ!」と嘆願してきた環に「まずは中津原家から業者を回してもらって監視用の機械や術式を取り除け」となだめること数分。


「少しは落ち着いたか?」


「……正直まだ怒ってはいるよ」


『ここで怒ったところでどうにかなるもんでもあるまいに』


理性と感情は別物なんですよ。

だって人間だもの。


「うーん。環さんの気持ちも分かりますが、正直今回の件は迂闊すぎた鷹白家の皆さんの自業自得だと思いますよ?」


まさしくその通り。


「いや、どう考えても覗かれる方より覗く方が悪いでしょ!?」


それも間違ってはいない。


ただまぁ、一般常識としては環の言い分が正しいけど、退魔士的な常識としては早苗さんの方が正しいのよな。


退魔士的な視点で見れば今の鷹白家は、風呂場の壁を全面透明度の高いガラス張りにしたうえで、窓を全開にしながら風呂に入っているようなもんだからな。


そら覗かれるよ。


『生き馬の目を抜くような連中のたまり場で隙を晒す方が悪い』


なんやかんや言っても、結局はそこに帰結する。


特に自然界に於いて顕著な理屈だが、油断慢心とは安易に隙を晒しても周囲から襲われないだけの力を持つ絶対的強者にのみ許された特権なのである。


『カバとかな』


ヤツはライオンより強い。(確信)


翻って環にそれだけの強さがあるかと言えば……ない。


だからこそ普段から隙を晒さぬよう警戒を怠ってはならないのだが、いかんせんこれまでの環にはその自覚が足りなかった。


『ま、これで少しは改善されるじゃろ』


環の自覚云々以前に、物理的にも呪術的にも改善されますからね。


期せずして鷹白家の現状が改善されることになったのは良いことなのだが、本題は何一つ片付いていないんだよなぁ。


なので話を戻そう。


「で、軍の監視に関してなんですが」


「元々はそのお話でしたね」


「えぇ。環が暴走したせいで脱線しましたが、元々はこの話です」


「……私はわるくないもん」


なおもむくれている環を一時放置して、早苗さんと話を続けることにする。


「向こうの使者、あぁ、二年生の東根咲良先輩という方ですが、彼女からは悪意などは感じませんでした。少なくとも現時点では軍としても俺や早苗さんと敵対するつもりはないものと思われます」


あの先輩も中津原家が絡むと面倒になりそうだから、俺が一人でいるところを狙ったって言ってたしな。つまりは俺との接触を秘密にする気はないってことだ。


「我々に無断で暁秀さんを引き抜くのであれば中津原家に対する挑戦ですが、監視だけなら妥当。そんなところでしょうか?」


「おそらくはそうですね」


「なるほどー」


俺も早苗さんも国からの監視対象になること自体は納得しているからな。


だから問題は、連中に何処まで見せて、どこから隠すかって話になる。


『大きすぎれば危ぶまれ、小さすぎれば侮られ、中ごろであれば利用される。なんとも悩ましいことよな』


確かに面倒ではありますが、まぁ多少はね。


人間社会で生きるための税金みたいなもんだと思って割りきるしかないでしょう。


『あくまで多少、じゃろ?』


当然。干渉の度合いが常識の範囲内であるなら税金だと思って諦めるが、干渉され過ぎたらその限りではない。


俺が「一線を越えた」と判断したと同時に全部まとめて爆殺してくれるわ。


『連中にバレずに殺す方法なんざいくらでもあるからの』


へへへ。神様の力を使うまでもなくヤれますぜ。


レベル56相当(ここ数か月の探索でレベルが1上がった)は伊達ではないということを教えてやろう。


……実際は俺がやったとバレないようにやるつもりだから教えることはできないのだが。


『中津原家が理解しておればそれでよかろ』


ですね。裏切ったらお前もこうなるぞって感じの脅しにもなりますし。


『真っ先に脅されるのは目の前の娘っ子じゃがな』


そのための早苗さん、でしょう?


『ホホホ、違いない』


神様にとって中津原家は護るべき存在ではなく、あくまで自分が現世で面白愉しく過ごすための補助役である。


ゆえに、彼女らの仕事に満足すればそれなりの褒美を与えることも吝かではないし、実際に褒美を与えることもあるが、そうでないなら簡単に消すだけ。


その程度の価値しかないのである。


これは、ある意味で神様とニンゲンの正しい力関係と言えよう。


例えるなら雨ごいだろうか。


神に雨を降らせてもらいたい民衆が神に捧げものをし、神がその捧げものに納得すれば雨を降らせる。


その反面、捧げものに納得しなければなにもしない。それだけの話だ。


雨が降らなければ「貴重な捧げものをしたのに雨を降らせなかった!」と神をなじる者も居るかもしれない。


だが、人間にとって貴重かどうかなど神には関係ない。神が欲する物を捧げることができるかどうかが重要なのだ。


そして、そのことは早苗さんを始めとした中津原家の幹部は全員が知っているので、こういう話をすると必然的に……。


「あの、暁秀さん?」


「なんでしょう?」


「元々中津原家はどこまで周囲に情報を開示するかを定めていますので、軍の監視があろうとなかろうと特にやることに変わりはありません。環さんに関しても私に準じる形で良いと思います。ですが……」


「ですが?」


「暁秀さんが関わるとなると話は変わります。この件について御社様(オヤシロサマ)はなんと仰っているのでしょうか?」


こうなるんだよな。


早苗さんがいう御社様とは、当然どこかの村で祀られている幼女みたいな外見をした神様のこと……ではなく、ウチや中津原家で祀ってある神様、つまりは現在俺の腕に抱きつきながらカナカナとヒグラシのように鳴いている神様のことである。


『綿じゃ、川に綿を流せぃ! お気に入りのレコードと一緒にな!』


こんなことを言っているが、中津原家にとって神様は絶対の存在だ。


なので馬鹿正直に「神様は仰いました『川に綿とレコードを流せ』と」なんて伝えたら、彼女たちは本心では「なんで?」と思いながらも粛々とそれを実行するだろう。


それほど神様とは絶対的な存在なのだ。


だからこそ彼女らの前では滅多なことは言えないのだが、そもそも俺に神様の声を捏造する趣味はないし、なにより早苗さんたちに無用の混乱をもたらすようなことを伝えたことはないので、今まで特に問題に発展したことはない。


『ネタにマジレスされても困るからの』


ですね。


これでも長い付き合いなので、神様が冗談で言っているか本気で言っているかくらいは分かるのだ。


そんなわけで今回の件、神様はどうするべきだと思います?


『そんなん、お主の好きにすればよかろうが』


うん、知ってた。そうなりますよね。


でもね、なんでもいいのが一番困るんですよ。


『晩御飯のオカズ扱いじゃな』


似たようなもんでしょ。  


『確かにの。あ、そういえば妾、肉が食べたいかも』


昨日食べたでしょ。

それも野生の鹿を三頭も。


『それはそれ、これはこれ、じゃよ』


そう言われたら仕方ない。


あとで肉の調達についての擦り合わせをするとして、まずは早苗さんの質問に返答します。


そんなわけで、今回の件における神様の判断は『俺に一任する』ということでファイナルアンサー?


『ファイナルアンサー』


はい。決定。まぁ大体の場合はこうなのでいちいち聞かなくても問題はないのだが、確認は大事だからね。


しかして、これを正直に早苗さんに伝えると今度は俺に対して必要以上に委縮してしまうので、そういうのを求めていない俺からはこう伝えることになる。


「早苗さんの判断に任せる。だそうです」


こういうのは無視が一番きついからね。だからこそ、こうして神様が早苗さんたちをちゃんと認識しているように伝えるのが大事なのだ。


「そ、そうですか! それが御社様の思し召しであるならばこの中津原早苗、いえ、中津原家は総力を上げて尽くさせて頂きます!」


早苗さんのやる気が上がった。

やったぜ。


『え? これ、捏造じゃない? 妾の意志、捏造されてない?』


嫌だなぁ神様。さっき俺に一任したでしょ。

任せるってこういうことよ?(藤田顔)


『くっ。こうして神の声は歪められてきたのじゃな!』


多分そんな感じだと思います。

過去のことは知らんけど。

情報の共有(主に環が監視されていることの周知)


閲覧ありがとうございました。



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