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21話。とりあえず幕引き……のはずが

「死にたくないですぅ。死にたくないですぅ」


「「「……」」」


さて、中津原家に襲撃犯という物的証拠を引き渡した後のことを簡単に説明しよう。


まず中津原家では、とある分家の次男坊が眼球ごと視力を失うという痛ましい事件が発生するとほぼ同時に、今回の件に関与した間抜けが全員確保されたそうだ。


確保された間抜けどもは尋問のあとで中津原家が管理している異界にボッシュート。

それ以来そいつらを見た者はいない。


尋問の結果判明した今回の流れの概要は以下のようなものだ。


まずその連中は今の当主、つまり早苗さんの伯母さんと、前当主、つまり早苗さんの父親が不仲だと思っていたらしい。


『まぁ、普通に考えればそうだわな』


詳細を知らない人間からすれば、いきなり当主が交代したと思ったらその後任が他家に嫁いだはずの姉だもの。円満に譲渡されたとは思わないだろう。


その点で勘違いをした件の連中は、まず現当主である伯母さんにとって前当主の娘である早苗さんは、彼女の権力を確固たるものとするために邪魔となる存在だと考えた。


『これもまぁわからん話ではない』


嫡流である早苗さんが生きている限り当主の座を奪われる可能性があるもんな。


そこでその連中の代表、面倒だからAとするが、Aは早苗さんを罠にかけて殺すことを考えた。


これだけなら伯母さんに対するすり寄りでしかない。

だがこのAはもっと小賢しいことを考えていた。


なんとAは、早苗さんが死んだらそれを伯母さんのせいにしようとしたのだ。


『菅理の不行き届きとかそんな感じを予定しとったらしいの』


そうすれば、それを口実にして前当主を担ぎ出そうとしている一派が伯母さんを排除するために動くと考えたわけだ。


『ここまではまだなんとか理解できなくもない』


そうして現当主派と前当主派を争わせ、双方が疲弊したところに、教会の力を借りたAが現れる。


『ここからがわからん』


このとき双方に力が残っているのであれば両者の間を仲立ちすることで自分の権威を高める。そのあとは徐々に本家を乗っ取っていく。双方に力が残っていなければ、両者ともに滅ぼして自分が中津原家を掌握する。そんな筋書きだったらしい。


『いや、全体的に弱体化しとるから教会に乗っ取られるだけじゃろ』


普通に考えればそうなんだよな。なので、現当主も前当主もAの裏をしっかり調べたらしいが、何もなかったらしい。


『調査に手を抜いたわけもなければ何者かに忖度したわけではなく、本当にそれ以上の裏がなかったのよな』


教会が警戒して情報を渡さなかったのか、それともこれだけで十分行けると判断するようなぼんくらだったかは不明だが、これ以上叩いても何も出てこなそうだったのでAは仲間と共にボッシュートされたらしい。


中津原家の内側に関してはこんな感じである。


外側に関してだが、まず例の異界は中津原家の関係者が討伐した。関係者というか、前当主が直接攻略に出張ったらしい。ちなみに異界の主は赤い猩々だったそうな。


『猩々、お前だったのか』


その際一部の地域では中津原の精鋭が数人死んだと話題になったらしいが、深度3で死ぬ程度の人材が数人消えたところで中津原家からすればそれほど大きなダメージではないそうだ。


『そもそも前当主を担ごうとしとった連中じゃしな』


むしろこれらが消えたことで、当主交代から続く混乱を収めるのに役立ったらしい。


また、前当主が率先して動いたことで現当主との間に軋轢がないことを内外に示すことになった。


『元々前当主からすれば馬鹿の思い込みから始まった陰謀に巻き込まれただけじゃしな。死にたくないが故に頑張っただけじゃて。無論、妾たちの決定に隔意が無いことを示す意味もあるな』


今回に限ればあの人も被害者ってわけだ。

だって前当主の隠居を決めたのは神様だからね。

逆らったら魂まで溶かされて死ぬんだから、そりゃ必死に働くよ。


で、ことが済んだ後はウチと鷹白家に相応の品を持参しつつ誠心誠意謝罪して終了。


ウチが貰ったのは深度4相当の異界で取れる素材を加工して造った術具で、鷹白家は現金だったらしい。


鷹白家がいくらもらったかは知らないが、環から「これでウチもトイレを新しくできるよ!」という連絡が来たのでそれなりの金額だったと思われる。


『どこもかしこもボットンボットンと……』


世知辛いねぇ。


あとは協会やら教会に抗議をしているらしいが、そのへんは俺には関係ないから放置の一択。


とりあえず中津原家はこんな感じとなっている。


次いで協会。


まず襲撃の翌日に植田さんが再度来訪し、協会の東京本部に所属している人間が俺に術式を飛ばしていたことを明かして謝罪。

さらに中津原家から連絡があったのか、彼女も教会からの襲撃を受けたことを知っており、それに関しては自分たちは一切関係ないと弁明してきた。


ちなみにこの時点で田中さんは首になっていた。

物理的に。


『ハラキリ!』


「責任を取るから家族にまでは累を及ぼさないでくれ」と自発的にやったのではなく、普通に上の人間の癇癪で首にされたというのが救えないところだが、そのままいても周囲から叩かれていただろうからこれはこれでよかったのかもしれない。


『どうでもいいともいう』


うん。そうね。


植田さんからは「東京本部を含む関係者各位に広がっている干眼の呪いを解呪してほしいが、今解呪しても教会方面経由で再度呪われるので、その辺の問題が片付くまで少し時間が欲しい。できればその間は呪いの威力を抑えて欲しい」と言われたが、これに関しては「調節できるタイプの術式ではない」という理由で拒否。


『呪いの調節ができることは知られん方が良いからの』


そういうこと。目が痒いのは我慢してもらうしかない。


頼んだ植田さんとしてもダメ元だったらしく、俺に拒否されたと同時に弱弱しい笑みを浮かべながら「ですよねー」と言ってうなだれながら帰路に就いた。なんとも悲しい背中であった。


最後にすべての元凶である教会。


襲撃犯3人とコマンド部隊6人を失った教会は、その報告が届くと同時に再度俺を襲撃する計画を立てたらしい。だが即日中津原家や協会からの抗議がきたため、再度の襲撃計画を断念した。


頭が固くて有名なあの教会が、地元の組織から一度や二度の抗議を受けた程度であっさりと計画を断念したことに植田さんや早苗さんは頭を捻っていたが、なんのことはない。


彼らの心は、抗議が来る前に折れていた。

ただそれだけのことである。


『その計画を企てておった阿呆どもの目がなくなったからの。伴天連どもとて妾の呪いに負けたとは言えん。じゃから抗議は連中にとっても渡りに船だったわけじゃな』


そら計画を企てただけで(その間も情報を集めるために散々術式を飛ばしていたらしい)目がなくなったら心が折れる。誰だってそうなる。俺だってそうなる。


『いや、お主はどうじゃろな? 心眼剣とか言って面白がりそうな気がするんじゃが』


眼がいらないとは言わないけど、鍛えれば魔力で代替できるからね。

狩人×狩人の円みたいな感じで。


『一騎討ち用の技術。(笑)』


4Mで限界とか言っていたのに、そのすぐ後に半径300M展開できる暗殺者さんたちが来たのは驚きだった。


『達人でも50Mだったはずじゃったのにのぉ』


その点あの猫さんは凄いね。2キロ先までぎっしり詰まっているんだもの。


『アレは円形ではなかったがの』


そうだった。というか話が脱線しすぎたので戻そう。


教会の面々の心が本当の意味で折れたのは、協会から呪いの性質についての説明を受けたあとのことだ。それ以前の教会は、俺を殺して呪いを解く、もしくは俺を脅して呪いを解かせることを目的として再度我が家を襲撃しようとしていた。


だが協会関係者から呪いに関する細かい情報を得たことで、彼らは襲撃や調査をやればやるほど実行犯を失うと同時に自分達に罹かっている呪いが悪化することを知り、心が折れたのだ。


その結果襲撃を断念すると共に、俺に探査系の術式を飛ばすことを止めたのである。


これにより再度の呪いに罹る心配がなくなったと判断した植田さんが、協会と教会を代表して謝罪。ついでに解呪の儀を受けて帰っていった。


なお玉串料は協会が300Mで、教会が500Mである。


『溜め込んどるのぉ』


税金の流用じゃないことを切に願う次第である。


代表して解呪の儀を受けていった植田さんがめちゃくちゃ怯えていたが、ここに至るまで一体どれだけ上司に絞られたのやら。


かわいそうな植田さん。もしかしたらあの人が今回の件における最大の被害者なのかもしれない。


なお、中津原家に関してはもっと早くに早苗さんと現当主から謝罪と解呪の依頼が来ていたのでさっさとやっている。玉串料は100M。


これにて一連の事件は解決。


うちに合計1G相当の玉串料が奉納されたうえ、呪いに罹っている人もいなくなった。

めでたしめでたしである。


もちろん眼球や視力を失った人たちのそれが治ることはないが。


『悲しいけど、これ争いなのよね』


そりゃ(自宅をコマンド部隊に襲撃されたら)そう(戦争)よ。


事の顛末としてはだいたいこんな感じだろうか。


それらを踏まえた上で、現在発生している問題に向き合おうと思う。


『お、やっと現実逃避は終わったか?』


えぇ。終わりましたとも。


『そんじゃ、前、見ようか』


了解。


「助けてぇ。助けてぇ」


うん。やっぱりいるね。


『そらいるじゃろうよ』


すぐにでも俺が向き合うべき問題。それは……。


「な、なにとぞお許しくださぃぃぃぃ」


教会から差し出されてきた謝罪の品。

即ち神様宛の人身御供をどう扱うか、である。


「お願いします! 蛇に飲ませるのだけは勘弁してください! もちろん死にたくもないです! でも蛇の子供も生みたくないです! 他でなんとかしてください! 助けてくださいお願いします何でもしますから!」


『ん? 今、なんでもするって言った?』


言いましたねぇ。でもちょっと待ちましょう。


通常であれば少女を気絶させてから麻袋にいれて本殿に運びこみ、最低限の味付けをしてから奉納一択……なのだが、問題は妹が彼女を認識してしまっている点にある。


「おにいちゃん……」


問。人身御供として差し出されてきた同年代の少女を奉納した場合、現時点でその少女に若干感情移入しつつある妹に与える心理的影響の大きさを答えよ。


『控えめに言って、子供に、生まれたばかりのアレを麻袋に突っ込んで河に流すところを見せるようなもんかの』


影響大。止めておけってことですね。

うん。知ってた。

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