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20話。無作法者たちの襲撃

修繕以外の使い道をあれこれ考えていた妹に「母さんと一緒に考えてきたら? 母さんも服とか欲しいだろうし」と言って母屋に向かわせた直後のこと。


『お、どうやら来たようじゃぞ』


ほほう、来ましたか。予想よりも早かったがセーフだな。

もう植田さんが乗った車は見えないし。


『もし見られとったら、妾たちの狙いが気付かれておったじゃろうな』


でしょうね。その場合は玉串料をもらえなかった、かな?


『一回一回解呪する意味がないからの』


最後に纏めて消せばいいってか。その通り。それが正解。


植田さんも今頃気付いているかもしれないけど、今更だ。そこは諦めてもらおう。


で、相手の数と所属はわかります?


『正面に3。森に6。匂いからして教会の連中じゃな』


教会から9人か。それが多いのか少ないのか。


『多いと思うぞ。お主の実力が“深度3の異界を攻略できる可能性がある程度”の場合であれば、じゃが』


つまり俺を殺すには少ないってことですね。ありがとうございました。


というか、神社を襲撃しに来て森に隠れるとか馬鹿なの? 連中の頭は大丈夫か?


『連中、神社にとっての()がどのようなものかを理解しとらんのじゃろうな』


所詮は伴天連。森は杜。神社にとって神域とは参道や御社殿だけではない。神社の周囲にある木々によって形成されている森もまた鎮守の森と呼ばれる神域であることを知らんとは。


コマンド部隊からすれば隠れやすい森も、神様からすれば庭の一端。つまり丸見えである。


さらに向こうにとって不幸なのは、向こうが隠れているところにある。


『隠れとる連中が行方不明になったとしても、お主らには一切関係がないものな』


そういうこと。

だって元からいたことを知らないんだから。

向こうだって「森の中に潜ませていたコマンド部隊が行方不明になった」なんて言えるはずがない。


俺の知らないところでナニカあったとしても、それは俺が関与するところではない。


だから、森の中に不法侵入している皆さんはここでサヨウナラ。


『いただきます。じゃ』


神様がそう告げると同時に声にならない声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。


さて、俺は正面からきたお客さんの相手をするとしようか。


「おはようございます。参拝ですか?」


黒スーツを着てサングラスをかけた、いかにもな三人組に声を掛ける。


日曜の朝っぽく朗らかな笑顔と口調を心掛けて告げた俺に向けられたのは、朗らかな笑顔と挨拶……ではなく、銃口と罵声。


「貴様があの呪いのっ!」

「貴様のせいで!」

「神の怒りを思い知れ!」


罵声と同時に銃を撃つ。無駄のない動作だ。これだけ見れば彼らはそれなりに鍛えているし、それなりの場数を踏んだ精鋭なのだろう。


だが駄目。それは対退魔士を想定した訓練ではない。


だって深度3以上の異界を探索するような退魔士に普通の銃は効かないのだから。


「なっ!」

「このっ!」

「なんでっ!?」


何もせずに突っ立っているだけの子供を殺せないことに焦る3人組。いや、この様子はそれだけではないような?


『ほむ。銃弾もそれなりに改良してあるようじゃぞ。使われているのは良くて深度3相当の素材程度じゃがな』


ほほう。つまり俺が深度3でうろうろしているような退魔士であればこれで殺せたのか。


それなら貴方たちは間違えていなかった。

退魔士戦の素人扱いして申し訳ない。


前提が違うから意味はないが。


基本的な話になるが、退魔士がそうでない人たちより強いのは、その身に魔力的な力を宿しているからだ。


故に退魔士を殺せる銃弾と通常の銃弾との違いは、銃弾に魔力的な力が込められているか否か。そして魔力的な力が込められているのであれば、それはどれくらいの濃度なのかという点にある。


当然素材の品質によって込められている魔力的な力の質が変わる。深度2の異界で取れるような素材で造られた銃弾であれば、深度2相当。最大で神様基準でいうレベル15程度の妖魔や退魔士を殺せるというわけだ。


この技術が開発されたことで、国防軍のコマンド部隊が深度2の異界を探索できるようになり、一部の退魔士に頼っていたために一定以上の量を確保することが難しかった【魔石】などの素材が安定して得られるようになったと同時に、退魔士に対する抑止力ができたことで、一般市民が退魔士を排斥しようとする動きが停滞するようになったそうな。


異界から取れる【魔石】や素材が値崩れしないのも、これが原因だ。


『対退魔士用の兵器はいくつあっても良いですからね』


その辺のことは追々語ることもあるだろうが、今は目の前で引き金を引き続けている三馬鹿である。


俺のレベルは55相当。異界の深度でいえば5だ。現状深度5相当の素材で銃弾を作れるような組織は存在しない。


だからこそ彼らが銃を取り出した時点で勝負は決まっていた。


『油断? これは余裕というやつじゃよ』


まさしくその通り。


「「「うぉぉぉぉ!」」」


つーか、撃ちすぎじゃね? 


肉体を強化して防いでいるのではなく肉体の周囲に展開している魔力そのものによって銃弾を防いでいるんだから、眼を狙おうが口を狙おうが意味はないぞ。


『無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁ!』


まったく深度3相当の素材を使って造られた銃弾がもったいないとは思わんのかね? 


『死んだらそれまでじゃからな。そらエリクサーだって使うじゃろ』


俺は使わないで持っておく派なのでその気持ちは分からない。


しかし、十分に訓練されたエージェントに改造された銃を持たせた上で、コマンド部隊まで配置していたのは、どうしてだろう?


俺の実力を知っているのであれば過小。知らないのであれば過大なのだが。


『お主が力を隠しておる可能性や、中津原の関係者が援軍として現れることを警戒しとるんじゃろうて』


なるほど。納得。


「ど、どういうことだ!?」

 

彼らがキョロキョロ周囲を見回しているのは、俺を殺せないことだけではない。


本来であればこの時点でコマンド集団が俺を襲うか、家族を襲撃する予定だったのだろう。それが来ないからこそ慌てているのだ。


目の前の敵が、自分たちでは絶対に倒せない敵だと理解させられた上で援軍が来ないとなれば彼らが焦るのも無理はない。


『知ったこっちゃないがの』


その通り。いきなり銃をかましてくるような敵に容赦する必要はないし、そのつもりもない。


「だから、とりあえずぶちのめす」


西尾神拳の恐ろしさを知れ。


「とりあえず? 舐めるな!」

「そう簡単にやられると思うなよ!」

「くたばれ!」


悪党(異教徒)の言い分は聞こえんな。


殴る。「アベッ!」

殴る。「グボッ!」

殴る。「ガハッ!」


これが西尾三回拳だ! 


『三回殴っただけじゃろうに。しかし、簡単にやれたのぉ』


そりゃね。今の俺の身体能力を以てすればただの案山子ですから。


ただまぁ、潰すのは簡単だが、問題は処分方法なんだよな。


なにせ彼らはコマンド部隊と違って正面から来ているから、目撃者がいる可能性がある。その場合、行方不明にしたら不自然さが残ることになる。


『かといって殺しも駄目。正当防衛なので罰せられることはなかろうが、こ奴らが持ち込んだ銃弾で主が殺せないことがばれるのはよろしくない』


ですね。あ、コマンド部隊以外の監視役についてはどうです?


『少なくとも境内の中にはおらんな。外にいたとしても、外からは音も聞こえんし、映像も見えんようにしておるからそちらについては問題ないぞ』


ありがとうございます。

さて。そうなるとこいつらをどうするか。


『中津原家に投げたらどうじゃ? 連中も教会に対して色々言いたいこともあるじゃろうし』


それはいいかもしれない。なら証拠の銃や銃弾は全部回収しましょうか。


あと中津原家に送るのであれば、彼らの両腕と魂はいらないと思いませんか?

肉体があれば身分を照合できるし、それだって一部がなくても十分だと思うんですけど。


名付けてタケミナカタの刑である。


『ふむ。情報の漏洩と逃亡や反撃防止じゃな。確かに中津原の連中は妾のことを知っておるから、襲撃者の腕と魂がなくなっとっても違和感は覚えないじゃろうな』


でしょう? 中津原家の連中に対する警告にもなりますし。あとこいつらって深度3の魔物と戦える装備を持った連中ですから、その体や魂も神様にとってそこそこ良い栄養になるのでは?


『所詮深度3相当の栄養じゃが、まぁ無いよりはマシじゃの。さっきのコマンド共もそれなりではあったし』


ならよかった。神様の栄養補給に役立つのであればこいつらも浮かばれるだろう。


そうと決まればさっさと本殿まで運ぼうか。

奉納は本殿で。それが神社の常識であるからして。


『様式美じゃな』


「凄い音がしたけど……おや、その人たちは?」


「あぁ、これ?」


銃撃の音を聞きつけたのか父親がエントリーである。


普通であれば隠すのだろうが、こういうのは隠すと面倒になることが確定しているので、俺はできるだけ隠し事をしないようにしている。


『無警戒のまま出かけられて人質とかになられても困るからの』


そういうことだ。


「これはウチを襲撃しにきた人たちだよ」


「ほう?」


連中の素性を明かしたら温和な表情が一変したが、自分の家を襲撃された父親としては当然の反応だろう。


「神様が気絶させてくれたけど、見ての通り銃を持ってるでしょ? 起きた時に反撃されたりしないように、今のうちに腕とか魂の一部を神様に奉納しておこうと思ってね」


「それはいい。是非そうしなさい。あぁ本殿に運ぶのか? 手伝おう」


「ありがとう。助かるよ」


「はは。気にするな」


これが気絶している三人を前にした親子の会話である。


一般人からすればサイコパスそのものな会話かもしれないが、実のところ退魔士業界としてはあまり珍しい話ではない。


誰だって超常の存在に襲われたらその力を無力化しようとするだろう?

これが軍人や傭兵なら【腕を折る】となる。

退魔士はその方法が【腕を奪う】となる。それだけの違いでしかないのだ。


まして父親からすれば、相手は日曜の朝から襲撃を仕掛けてくるような輩である。

まともな人間であろうはずがない。


加えて言えば、連中の狙い通り、もし俺が何もできずに殺されていたら自分や妻や娘だって殺されていた可能性が極めて高い。


そう考えれば、父親の中に襲撃犯の腕を奪うことに対する躊躇が生まれないのは当たり前の話である。


「神様に奉納するのは腕と魂の一部だけで良いのかい?」


神様が白蛇の化身と知っている父親は、神職として神様に彼らを奉納することに否はないのだろう。

ただ純粋に、中途半端は神様に悪いんじゃないかと考えているようだ。


相変わらず信心深いことだが安心してほしい。


「神様の許可は取っているから大丈夫。それとこの襲撃犯どもは中津原家に送るからね。重要証拠に死なれたら困るんだよ」


森の中に6人いた? 知らんな。


「へぇ。中津原家が関係しているのか。ちなみにこいつらの所属はもう判明しているのかい?」


「教会だってさ」


「教会か。なるほど。だからさっき植田さんが来ていたのか」


「そういうこと」


おそらく父親の中では植田さんが警告をしに来てくれたということになったのだろう。


俺としてもそう思ってくれた方が楽なのでわざわざ訂正したりはしない。


隠し事はしないのはどうしたって? 知ってもしょうがないことを明かしていないだけだからセーフ。


「そんなわけだから、これから数日は教会がうるさいと思う。でも神社の中なら神様が護ってくれるから、あまり出ないようにして欲しい」


「了解。千秋の学校はどうする?」


「んー」


そこなんだよなぁ。

父親と母親はここが職場だから数日篭るのも問題ない。

だが小学生の千秋には学校がある。


いくら孤高に目覚めているとはいえ、ウチの事情で休ませるのはよろしくないと思うんだが……。


『どうじゃろな。むしろ休ませた方がよいのでは?』


そう思います?


『友人がおらんのであればやるべきことは勉学のみ。それなら両親に教えさせればよかろ。なにより寺子屋なんぞ命の危険を顧みずに行くようなところでもあるまいて』


確かに。あと昔は給食を食べさせるって目的があったが、今は家でもちゃんとした食事ができるから無理に学校にいかせる必要はないのか。


『そういうこっちゃな。孤独云々に関しては両親に内緒にしておるようじゃから、その辺は触れないようにしてやれ』


了解です。


「休ませよう。襲撃の危険性を考えれば小学校にいかせるべきじゃない」


「それもそうか。ウチの都合で学校を休ませるのは心苦しいけど、その辺は我慢してもらうしかないね」


「だね。千秋には俺から言っておくから、母さんと学校への説明は頼んでいい?」


「わかった。適当な理由を見繕っておくよ」


さすがに宗教的に対立しているところから襲撃されたから休ませる。は物騒すぎるからな。その辺の言い訳を含めた社会的なあれこれはこの人に任せておけば問題はない。


金や退魔士としての能力はなくとも、社会的な立場や信用は俺なんかよりもよっぽど持っている人なのだから。

殺伐としている主人公一家ですが、この世界における退魔士たちの価値観はだいたいこんな感じだと思って下さい。


閲覧ありがとうございました。

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