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13話。一体いつから呪いを仕掛けていたと錯覚していた?

なんやかんやで30万円稼げたので帰宅時にお土産としてちょっと贅沢なデザートを買い、夕飯後に家族全員でそれを頂いたことでみんなが幸せな気分になった次の日の朝のこと。


早朝からウチの神社に訪れたとある人が面白いことを教えてくれた。


『ほーん』


面白いこと、即ち「教会の日本支部長が失明した」と聞かされた神様の反応がこれである。


俺からすれば、本来であれば数日から一か月掛けて失明に至るはずの【祟り】が一日でそこまで進行したことに少なからず驚いたんだが。


『たまげたなぁ』


アッー! と驚く為五郎。


『どう発音するんじゃ、それ?』


ちなみに教会とは、欧米を中心に信仰されている聖四文字で表される神を唯一の神として奉っている宗教組織の総称である。


神の子が磔にされている十字架を象徴としていることから十字教とも呼ばれているので、一般的にはこちらの方が有名かもしれない。


『その所為で【信仰】が神の子やその母で止まっとるけどな』


祈りの方向性が迷子です。


主神の名をみだりに唱えないことの弊害である。今更だけど。


そんな彼らは第二次大戦の勝者として当時日本を霊的に守護していた神社や寺社を駆逐しようとするも、神は一柱のみという考え自体が日本人とは合わなかったのか、文化的な侵略には成功したものの、最終的に日本を宗教的な植民地にできなかったことに今でも不満を抱いている組織である。


彼らとしては玉音放送で当時の天皇陛下に『自分は神ではない』と言わせたことで日本人の信仰心をへし折ったつもりだったのだろう。そこに付け込もうとしたようだが、結論から言えばその目論見は綺麗に失敗した。


『新年に神社に参拝して。節分に豆を撒きながら恵方巻を喰って。バレンタインにチョコを送り。桃の節句で人形を飾ったかと思えば春の彼岸で墓と仏壇に花を手向け、夏には各地で祭りがあって、盆には墓に参り。秋の彼岸にはまたまた花を手向け、ハロウィンは仮装して。クリスマスに乱痴気騒ぎしたかと思えば年末は除夜の鐘を聞きながら蕎麦やうどんを食う。まさしくごった煮。多神教の柔軟性ここに極まれり、じゃな』


最近ではそれなりに厳しいお寺でも子供にクリスマスプレゼントを用意するくらいのことはするらしい。


ちなみにウチはなかった。宗教上の理由ではなく経済的な事情で。


昔から「信者と書いて儲かると読む」なんて言われていたはずなのにどうして……。


『神社だからさ』


悲しいなぁ。


とにかく、一般的な日本人にとって信仰なんざそんなものなのだ。

敬虔な人間であればあるほど理解できまいて。


『一般人にもそこそこの教養があったのも、この国で連中が布教できなかった要因の一つじゃな』


それもある。日本が文字もないような未開の国だったり、一部の人間が知識を独占していたような途上国だったのならば国民に与える知識を偏らせることで信仰先を変えることもできたのかもしれない。


だが、日本は一般人でさえ文字を知る国家であった。


まして、一般市民に教養を授けていた学舎の元になったのは寺子屋。つまりお寺さんだ。明治の頭に廃仏毀釈運動が行われたことで寺社は一時的に力を落としたが、神仏混合などで生き延びているところは意外と多い。


そんなところで育った人間に「神は一柱のみ! 寺や神社のいうことは嘘! 教会の言うことが絶対に正しい!」なんて言ったところで、納得する人間は少ないだろう。


それでも彼らはめげずに教化しようとした。だが、近代化によって世界の境界線が薄れてしまった結果、彼らは日本の教化どころではなくなってしまった。


『神が実在して一番困るのは宗教家。これ常識』


神の意志の代弁者が神の意志を取り違えていたことが判明したら洒落にならんからね。

中津原家みたいに。


世界中で顕在化した異界と実在した妖魔の存在によって生じた宗教的混乱により大打撃を受けた教会は、世界中で行っていた教会による宗教的植民地計画を取りやめることとなった。


『各地に散っていた連中からすれば梯子を外された形じゃな』


これにより半独立状態となった現地の教会勢力は、それぞれの判断で動くことになる。


そして日本に残された教会勢力の判断は『現地の宗教団体と競合せずに足場を固める』だったはず。


それが今回の件に関わってきた?


『妙じゃな』


冤罪の可能性は?


『ない。妾とて国を滅ぼしたいわけでもなければ、お主の周囲に無用な混乱を齎したいわけでもないからの。故に今回の祟りには“自覚”というトリガーを仕込んである。もちろん当事者に近い輩にはそんなん関係ないが。じゃから、それなりに距離があるはずなのに一夜で失明するほどの祟りをその身に受けた輩が今回の件と無関係ということはあり得ぬよ』


なるほど。


退魔士の常識として、呪いを防ぐということは呪いを返すことと同義である。


返された呪いは仕掛けた方へ倍、とまでは言わないが結構強化されて返されることになる。


だから、もし呪いを掛けたのが俺であれば、呪いを返された際に俺が大ダメージを負う可能性があった。


しかしながら、今回のこれは俺が仕掛けた呪いではない。


これは神様が仕掛けた祟り、即ち条件を満たした時点で回避も防御も不可能な神罰なのだ。


『まぁ、同等以上の力で相殺すれば防げるがの』


それとて自分に祟りが向かってきていることを認識しないと対処はできないので問題なし。


まして今回のように神様の祟りを俺からの呪いと勘違いしているニンゲンに防ぐ術はない。


ちなみに俺が早苗さんにも呪い云々と言っているのは、中津原家にいるかもしれない阿呆に対してミスリードを誘うためでもある。


『大人は嘘つきじゃ』


大人だって間違えるんですよ。


『それ、埼玉県産のサワラ(海産物)を見た後でも同じことを言えるかの?』


あれはただの産地偽装(犯罪)だから。千葉県産伊勢海老(固有名詞)とはわけが違うから。


『伊勢はどこ? ここ?』


(σ・ω・)津


『顔文字!?』


三重県の位置と、過去に犯した過ちが大きすぎていまだに完全に信用ができない中津原家に関しては早苗さんに何とかしてもらうとして。


祟りの怖いところは多々あるが、今回のこれの最も厄介な点は、その効果時間に限りがないところにある。


故に、時間が経ったからといって油断して結界の外に出たら即アウト。


無論、祟りを警戒してずっと結界の中にいたとしても安全ではない。


何故なら結界の上で積り積もった祟りはいずれ結界以上の力を得て、結界の中にいるからと油断している対象に突き刺さるのだから。


『雪が積もって屋根を潰すようなもんじゃな』


最初は軽くても積もれば重くなる原理ですね。

わかります。


ともかく、中途半端に防いでしまったせいで結界の上に積もった祟りには、神様が初期に設定した力を上回る力がこもってしまう。


それをモロに受けてしまえば、一発で失明に至ってしまうこともあるわけだ。


だから一晩で失明に至ったというその人が、日本支部長という立場から常にそれなりの強度がある結界に護られていたせいで意図せずに神様の祟りを防いでしまい、結果として効果が強まった祟りに襲われた可能性があるのでは? と思ったのだが、神様が明確な根拠を示したうえではっきりと否定したことで冤罪の可能性は無くなった。


なので俺は、今回の件で絵図を描いていた黒幕は件の日本支部長かその周囲にいる人間と認定する。


『違っても別に困らんからの』


おそらく黒幕は、神器か何かに分類されるモノを使って俺が仕掛けるであろう【呪い】を防ぐ算段を立てた上で俺にちょっかいをかけてきたはずだ。協会の職員は……捨て駒だろうな。


『舐められたもんじゃのぉ』


向こうは神様のことを知りませんから。


その結果、色々と勘違いしてちょっかいをかけてきた相手は視力を失うことになった。


やはり周囲に神様の情報を隠すのは正解だったようだ。


『情報を制する者は世界を制する。至言よな』


ごもっとも。


とはいえ、今回の出来事はこちらが意図して行ったことではない。

はっきり言えば想定外の出来事である。


『アレは時間をかけて進行するからこそ解呪の余地があるというのに……』


その通り。流石に失明してしまうと解呪しても意味はない。

いや、まぁ渇きと痛みはなくなるので全く意味がないわけではないが、一度失った視力が戻ることはないのだ。


当然こうなると解呪料はもらえない。

もらえてもかなり安くなる。


ついでに逆恨みされる。


『ついで……ついで?』


今回のコレ、逆恨みされますかねぇ。


『されるじゃろうな』


やっぱりそうか。元々教会と仲良くするつもりはないが、敵対するつもりもなかったんだがなぁ。


『喧嘩を売ってきたのは向こうなんじゃが?』


喧嘩を売ってきたと言っても、相手がメインで狙ったのはしがない神社の長男でしかない俺ではなく、日本有数の宗教的名家であるものの代替わりで混乱している中津原家とその関係者だと思いませんか?


『じゃろうな』


つまり喧嘩を売られたのは俺ではなく中津原家なのでは?


『お主も売られとるから問題なし!』


問題ないのか。ならいいや。


教会が中津原家の混乱に乗じて手を伸ばしてきたのは、国内に於ける影響力を高めるためだろう。


そのための標的となったのが、ここ数年になって表に出てきた早苗さんだ。


『年端も行かぬ世間知らずの小娘なんぞ、誰がどう見ても狙い目でしかないわな』


殺すもヨシ! 誘拐するもヨシ! 洗脳するもヨシ! 男を当てて篭絡するもヨシ!


『薄い本のネタには事欠かんの』


使い道は色々想像できるが、経緯としては彼女と直接相対したことがある協会職員あたりがいらんことを吹き込んだのだろう。


だから教会からすればメインは早苗さんで、俺はあくまでついで。

もっと言えば、俺も環も早苗さんの周囲にいる護衛程度の認識だったのだろう。


だが協会の人間が余計な告げ口をした結果、俺も調査、もしくは排除対象になった。

そう考えれば一応の辻褄は合う。


随分と粗が大きい推理だが、今のところはこのくらいでいい。


『教会が絡んでいるのであれば近いうちに向こうから何かしらの接触があるじゃろうて。結論はそのときまで持ち越しでよかろ』


そうですね。


しかしまぁ、日本支部限定とはいえ世界最大級の宗教組織と敵対するとか面倒すぎるな。


『じゃが泣き寝入るつもりはないんじゃろ?』


当然。ウチは神様を祀っている神社ですので。

伴天連にくれてやるものなど玉砂利の一粒もないわ。


『ほほほ。ならば良し、じゃ』


それはどうも。


後で顔を見せにくるであろう連中については後で考えるとして。


「お待たせしました。お久しぶりです植田さん。しかし入間支部の支部長さんともあろう御方が、こんな時間にウチのようなしがない神社に来るとは、驚きです。なにやら重大な問題でも発生したのでしょうか?」


「……っ!」


とりあえず今はこっちの協会と話をつけましょうかね。

サブタイでも呪いとかいってたくせに実際は呪いじゃないという罠。


閲覧ありがとうございました。

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