1話。プロローグ
他の作品の構想を練っている際にふと浮かんだので、忘れる前に投稿します。
不定期投稿。
とりあえず10万字くらいを予定。
二度の世界大戦と、その後に訪れた近代化の大波は従来の慣習を大きく覆した。
たとえば『ここに入ってはいけない』という山。
たとえば『神様が宿っているから切ってはいけない』という木。
たとえば『罰が当たるから壊してはいけない』という社。
たとえば『悪いモノを封じているのだから移動させてはいけない』という大岩。
諸々の『神聖なモノ』は急速に失われていった。それも世界規模で。
その結果、現世と幽世と呼ばれる世界の境界が揺らぐこととなった。
1990年代。オカルトだとか詐欺だと言われていた【霊的なモノ】が当たり前に現世に現れるようになった。
2000年代。それら【霊的なモノ】が異界と呼ばれる己の世界を構築することが当たり前と思われるようになった。
そして2020年代の今。人類は【霊的なモノ】は必ずしも排除しなくてはならない存在としてではなく、条件によっては共存することができる存在として認識するようになっていた。
―――
それは2010年。つまり今から14年前のことだった……。
とあるところに、妻の出産がとんでもない難産になると告知された男がいた。
最悪の場合は妻も、お腹の中にいる子供も命を失う可能性があると告知された男がいた。
男はとある神社の神主であった。
なので男は神社に祭られている神に祈った。
「子供が無事に生まれますように! 子供を産んだ後も妻が健康でいられますように!」
普通は一つ叶えば望外の幸せと喜ぶところ、男は二つ願った。
二つの願いが叶って初めて幸せなのだと、心から願った。
男はそれが欲深いことだと自覚していた。
そのため男は誠心誠意願った。
水垢離もした。
毎日した。
お百度参りもした。
一日一回、それを何日も繰り返した。
男は真剣に、それこそ妻と子供が助かるのであれば自分は死んでも良いと言わんばかりに祈りを捧げた。
神社の神主という立場を持つ人間が命懸けで行う祈祷。
それが祭神、もしくはそれに準じるモノに届いたのは偶然か必然か。
『ま、よかろ』
声が聞こえた、文面に映せば軽いと言わざるを得ない内容の声が。
だが男はその声に上位者の威を感じた。
男はその声が幻で終わらぬよう、その声の主に失望されぬよう変わらぬ祈祷を捧げることにした。
それから数日後。
男の妻は無事に子を出産することができた。
難産は難産だったが事前に予想された程のものではなく。
産後の肥立ちも医者が奇跡だと驚くほど順調で。
男が願った通り、母子ともに健康そのものであった。
ただ、生まれてきた子供は普通の子供ではなかった。
普通の子供よりも泣かず。
普通の子供よりも騒がず。
普通の子供よりも賢く。
なにより普通の子供が見えないモノが見えている。
そんな子供だった。
だが男も、男の妻もその子供を、傍から見れば不気味極まりない子供を忌避したりはしなかった。
むしろその子供が普通でないことを喜んだ。
だってその子は神様の加護を受けて生まれた子供なのだ。
普通なはずがないではないか。
神と人が近い世界で、神の加護を与えられて生まれた子供がどのような生を辿ることになるのかはわからない。
だが夫婦は自分たちの子供がどのような道を歩もうとそれを妨げるつもりはなかった。
何故なら我が子を愛しているから。
「というかさ、自分で願っておきながら生まれた後で神様に目を付けられているから嫌だとか不気味だとか可哀想だとかは言えないからね」
「ぶっちゃけやがったよこの人」
『うむ。素直なのは美徳じゃが、もう少しオブラートに包むなりなんなりするべきじゃな。まぁ妾は気にせんけど』
「俺が気にするわ」
――これは、溢れんばかりの愛ゆえに生まれる前から神に目を付けられた少年が紡ぐ物語である。
閲覧ありがとうございました。




