第一章 7
放課後の図書室は閑散としていた。
そこにひっそりと浮かびあがる西尾さんの姿に息をのむ。
辺りを見渡しても、僕と西尾さん以外の姿はなく、物寂しい空気が流れていた。
西尾さんは読んでいた本をぱたんと閉じて立ち上がる。
西日が作り出す影がこちらにすっと伸びてきて、僕の足元でとまる。
「私見ちゃったんだよね」
教室では見せないような鋭い目つきと煽るような口調はまるで別人のようだった。
「何を」
「空田くんさ、やっぱりなんか隠しているでしょう?」
質問を質問で返されてどぎまぎしていると、再び西尾さんが口を開く。
「パンケーキは美味しかった?」
西尾さんの右手にはスマホがあった。その画面に映っているのは、紛れもない僕と篠田さんとのツーショットだった。
「それは脅しのつもり?」
西尾さんはすぐさま首を横に振った。
「そんなことはしないわよ。ただ、どうして彼女が学校に来なくなってしまったのか同じクラスメイトとして知りたいの。本当に、それだけ」
「はらっちが言っていたことを気にしているの?」
西尾さんはふんと鼻を鳴らす。
「いやいや、あんなオカルト話を真に受けたとかそういうんじゃなくて。私は彼女に興味があるのよ。もし、本当に何か病気なら、何で周りに言わないんだろって思わない? あれほどクラスのみんなは心配しているのに」
じわりと背中に汗が伝う。
「西尾さんは色々なことを考えているのかもしれないけど、僕は本当に何も知らないんだ」
「そう」
これほどの証拠を掴んでおきながら、西尾さんはあっさりと納得した。
「なら、簡単な話ね。篠田さんの病院は知っているわよね?」
表情を殺した西尾さんの言葉に、僕は頷く。
「そう。じゃあ、今週の土曜日に案内をお願いしてもいいかしら。道を訊いても、初めて行くところはどうも迷ってしまうのよ」
「でも、今は面会謝絶だよ」
「じゃあ、面会できるようになってからでも良いから」
「それなら、まぁ」
僕がそう言うと、西尾さんは頷いて、こちらに歩みだす。
僕の横に並んだ瞬間、彼女は耳元で囁いた。
――私、けっこう空田くんのことが好きなのよ。
額には汗が滲み、鳥肌を立たせた。
ドアが閉められる音と共に、僕は思わずその場にへたり込んだ。