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ロージア ~悪役霊嬢に聖女の加護を~  作者: けっき
第13章 激突、神殿裁判(中)
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証人探し②

 生家に忍び込むのはこれで何度目だろう。今までで最も注意深く、人の目に触れないようにロージアは屋敷をうろつく。

 コソコソしている理由は一つ。父や異母妹には今こちらが見える状態だからだ。婚約パーティーで飲ませた聖女の涙の効能は数日に渡って続く。敷地内にロージアが潜り込んでいることが知れたら二人はハルエラの処分を急ぐかもしれなかった。


(ここにもいない。一体どこに隠したの?)


 本邸、別邸、従業員寮に騎士寮、倉庫や馬屋や練兵場も点検したが探し人は見つからなかった。天井裏を覗いてみてもそこには埃が舞うだけだ。

 一番怪しいカニエの小館は隅から隅まで確認したのに成果なし。空が明るく白むまで粘ったけれど結局ロージアは手ぶらで神殿に帰還した。


「見つからなかった?」

「ええ、クローゼットや水瓶の中まで覗いたけれどどこにも。ひょっとすると手持ちの別の物件に監禁しているのかも……」


 大神官邸の執務室。アキオンの持ち込んだ書類を並べて裁判での立ち回りを熟考するエレクシアラに報告する。

 嫌な展開になってしまった。たとえ今すぐ命の危機には晒されずとも明日の正午にハルエラが不在であれば陳述の中身を変更せざるを得ない。それは暗にエレクシアラが証人からの積極的な支援なく、たった一人で公爵家との舌戦に挑まねばならないことを意味していた。


「公爵邸以外の別の物件か。申請書さえ書いてくれれば午後には騎士を遣れると思うが……」


 大神官の申し出にロージアは首を横に振る。


「公爵家が王都に所持する不動産は一つや二つではありませんから。そちらは抜けのないようにわたくしが回ります。騎士の方々には現時点で最も疑わしいカニエ・ツルムの住居と本邸を重点的に探させていただけますか」


 役割分担の提案にセイフェーティンが「わかった」と頷いた。今日は神殿の騎士としてアークレイ家を訪ねる予定のガルガートとミデルガートも真剣な目でこちらを見つめる。


「よっしゃ、カニエの家と本邸だな?」

「使用人にも少し探りを入れてみます。外から人を拉致してきたなら何かしら普段とは違う動きがあったはずです」


 頼もしい二人に「お願いね」と託す。

 ぐずぐずしている暇はなかった。ロージアは一日ですべての物件を回るべく急ぎ窓辺から飛び立った。

 悲しいかな、探しても探してもハルエラは見つけられなかったけれど。




 ***




 ぶるりと震えた弾みでハッと目を覚ます。瞼は開いているはずなのに視界はどこまでも真っ暗だ。己がまだ非常事態にあることを否応なく悟らされる。


(ここはどこ……?)


 重い頭をなんとか上げてハルエラは目を凝らした。しかし闇はあまりに深く、輪郭を見取れるものは何もない。辺りには人の気配すら漂わず、今がどういう状況なのかは自分で推測する以外にはなさそうだった。


(確か私……、助けた女の子に首を絞められて……)


 気絶する直前、金髪碧眼はアークレイ家の当主と次女の特徴だと考えたのを思い出す。それではやはり己は敵の手に落ちてしまったのか。

 起き上がろうとしたけれどリボンで腕が縛られており閉口した。後ろ手ではなく口元に結び目を持ってこられたので悪戦苦闘の末に戒めは解けたが。

 脱出口を求めて壁や床を伝う。けれど部屋には暗黒のほかは何もなかった。まるで巨大な棺のようだ。窓も扉もどこにもない。


(やっちゃったなあ)


 帰ると言ったのは間違いだった。はっきり自覚して肩を落とす。

 時間短縮を図るには最善の行動だと思ったのに、証人がいると知られていたなら愚行中の愚行である。

 役に立ちたい。そう思って焦りすぎたのかもしれない。今更反省しても遅いが。


(無事に帰してはくれないよね……)


 大声で助けを呼ぶか、体力を温存するか、迷ってハルエラは後者を取った。最初に目覚めた場所まで戻ると横になり、静かに寝たふりをする。握りしめた手に深く爪を食い込ませて。

 連れてこられてどれくらい経過したのかも、はたしてここに人が来るのかもわからなかった。しかし今自分にできるのは機会に備え、それを逃さないことだけだ。

 死んではいない。ならばまだ終わりではない。


(アキ君……)


 きっと心配しているだろう伴侶を瞼に思い浮かべる。

 せめて彼が王女の手に仕事道具一式を渡してくれていますように。

 説明なしに気づくのは難しいけれど、それでもそこには勝利に繋がる重大なヒントが隠されているから。


(聖女様、どうかお守りください)


 一心に祈りを捧げる。己だけでなく夫や王女やロージアにもペテラの加護があるようにと。

 外には朝が来ていたが、ハルエラの耳に鳥のさえずりは届かなかった。ただ天井から時折重い足音がかすかに響くのみだった。






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