第4話 仏恥義理
私の早着替えに一堂静寂ですわ。南東連合はもはや許してはおけません。手加減無用。
一時たじろいだ南東連合のみなさんでしたが、すぐに体勢を整えました。
「竜巻の。アンタ、兵隊はそれしかつれてきてないのかい? 戦は数さね。この南東の精鋭百人をたった三人で潰せると思ってか!」
南東連合の総長シンディの号令のもと、あちらの兵隊たちが総攻撃を仕掛けて参りましたわ!
王都総連ナメんぢゃねぇ!!
私は、余裕気に左右の二人に尋ねます。
「私は五十。エミリア、ミウ。あんたたちは?」
それにミウはすぐさま答えます。
「二十はいけますぜ、姐さん!」
そしてエミリアは自信を持って一歩前に出たのです。
「あたしだって四十はいけますぜ、姉き!」
なんて頼もしいのかしら。では私が手に余した分はエミリアが手伝ってくれればいいんだわ。
私は王子殿下を見やると、殿下は少しだけ悲しそうな顔をして目を背けました。それに私も悲しくなりました。
ですが、私は王都総連の総長、竜巻おアリアです!
これが私の戦場なのですわ!
「かかれぇーーーッ!」
シンディの掛け声に南東連合のみなさんの動きが加速しますが、ミウの目が光ります。
「王都総連特攻隊長、番傘のおミウ! いざ参る!」
ミウは単車に常設してある番傘を引き抜いて跳びかかる敵に向かって開くと、開かれた番傘に弾かれて跳びかかって来たものは吹っ飛んで行きましたわ。
続いて閉じて、真っ直ぐに突く。この打撃に耐えれる根性は常人にはございませんわ。案の定、二人ほど目を回しました。
そこから番傘を開いて激しく回すと、辺りに飛び散る血吹雪。さすがミウ。
そして本日はとても調子が良いようで、番傘の激しい回転によって体は宙を舞い、そこからの空中戦闘を繰り広げております。まったくもって頼り甲斐のある特攻隊長です。
おっと。ミウの戦いに目を奪われている場合ではありませんね。とてつもない地響きが私の横からいたします。
「王都総連親衛隊長、人呼んで巨象エミリア。死にたいものは前に出な!」
ズシンズシンと足を鳴らして、エミリアは自身の二メートル、二百三十キロの巨体を揺すりながらの強烈な張り手! これで四人ばかり吹っ飛んで行きました。
「この前は拾ったお菓子に薬盛られて不覚をとったが、実戦じゃ負けやしないよ!」
そう叫んでから空に飛び上がったかと思うと、全身を広げて空中から敵に向かって押し潰し攻撃ですわ! これぞ名付けて巨体重圧! 下敷きになったものは哀れ、骨は砕け、お煎餅のようになってしまいます。願わくば天国に召されるよう祈るばかりですわね。
「どこ見てやがる、おアリア!」
おおっと。お二方の戦いぶりを見ていたら、自分の斗いを忘れておりました。
迫ってくる南東連合のみなさんは、まるで怪物のように猛り狂って顔も恐ろしいですわ。なんて哀しい。暴力と暴走しか信じられない、哀れな人たち。
「おアリアの首を取って名を挙げるんだ!」
ヒドい。そんなことをされたら、私死んでしまいます。ここは正当防衛と言うことで……。
私はエミリアやミウよりも高く飛び上がって空中で三回転。そこから脚を伸ばして蹴りの構えです。そこに体を横回転させることによって出来上がる旋風はまるで竜巻のよう。それは一つや二つではありません。この採石場全体に竜巻がぶつかり合う程です。
そしてそのまま南東連合のみなさんが固まっている場所へと蹴りの形のまま着地。強烈な蹴りによって大地は爆裂し、炸裂した岩や石に被弾した者は数知れずといったところですわ。
これぞ名付けて竜巻烈風脚!
あらあら、あちらさんの敵将であるシンディの顔面も蒼白といった感じですが、なにやら手の指の関節を鳴らし始めました。
「決着をつけようじゃないか、おアリア!」
「望むところよ、シンディ!」
「気に入らねぇんだよ! アンタの存在がな!」
「それでいいんだ、シンディ! どうせアタシらは拳でしか語り合えない!」
激しい爆音! さすがはシンディ、やりますわね。爆発シンディの名は伊達じゃありません。普通の人なら吹っ飛んで空中分解するほどの正拳突きですわ!
そう、普通の人なら。ですが私は普通じゃありませんことよ!
シンディも然る者、私の拳を受けてもなおも立ち続けております。私のお召し物も多少汚れてしまいましたわ。
「次の互いの技で勝負が決まる!」
「面白いシンディ! 受けて立つよ!」
「爆裂正拳!!」
「疾風雷拳!!」
私たちの拳が互いに交差します。途端、シンディの腕がスローモーション。彼女の拳は私の顎を的確に狙っておりました。
しかし軍配は私に上がりましたわ。シンディの拳より先に私の拳が彼女にヒットし、彼女は王子殿下の近くへと吹っ飛んで行きました。
両軍水を打ったように静かになりました。南東連合のみなさんは戦意喪失して、その場にへたり込んでしまいました。
私はシンディの方に体を向けたまま。そちらの方には、もちろん縛られたままの王子殿下も。私はそちらに向けて歩き出しました。