私はロマンチストではない
鈴子としての私が亡くなった、正確な年月日は覚えていない。
ただはっきりと覚えているのは年号が「昭和」だったことと戦争——第二次世界大戦が既に終わっていたことだ。それに前世の断片的な記憶や現代の知識を合わせて推測する限り、西暦で言えば一九五〇年代から六十年代頃になるのではないかと思う。
政彦は私より三つ年上だったから、私を村から追い出した当時は二十歳だったはずだ。六十歳前後で寿命を迎えたとしても、死んだのは一九九〇年から二〇〇〇年代あたり。このイケメン占い師の年齢は二十代半ばか後半ぐらいのようだから一応、ありえない話ではない。
だけど鈴子としての私が亡くなってから、この時代に転生するまで数十年かかっているのだ。政彦だけが亡くなった直後に生まれ変わる、なんてことがありえるのだろうか?
「前世の俺は、君がいなくなってからすぐに死んでしまったんだ」
私の疑問に答えるように、目の前の星野ミコトが口を開く。
「君にも、前世の記憶はあるだろう? 俺は草野政彦だったけれど、様々な間違いを起こした。あのあと俺の、正確には政彦のいた村は呪われた村になってしまった。ひどい災害や事故が続いて、どんどん村から人がいなくなってしまったんだ。残った村人が俺のことを責めて、俺は自殺したように見せかけて殺されてしまった。けれど、それももう遅かった。たくさんの人が死んで、数少ない生き残りも村を捨てていってしまって廃村になってしまったんだ」
いかにも申し訳なさそうに俯きながら話す政彦、ではなく星野ミコト。心底反省しています、というのを強烈にアピールしているようなその姿に、私は眉をひそめる
私がいなくなった後の村がどうなるか、あの頃の私は考える余裕もなかった。だけど冷静になれば、その後どうなるかなんてわかりきっていたことだろう。
私が巫女として懸命に働かなければならなかったのは、それだけあの村に霊がらみの事件や災厄が多かったからだ。それを解決できる人間がいなくなり、今まで避けることのできた災いが避けられなくなったら村は混乱に陥るに決まっている。その責めが、私を追い出した政彦に向くのはおかしなことではないだろう。はっきり言ってそれは、政彦や何も考えず政彦に従った村人たちの自業自得だ。
けれど、だからといって今の私の前にいるイケメン占い師・星野ミコトがかつて私を追い出した草野政彦だということを受け入れることはできない。私は物憂げな星野ミコトにじろり、と疑いの目を向ける。
今日、ここに来たのは偶然だ。たまたま政彦の生まれ変わりと遭遇し、お互いに前世の記憶を持ってるなんて到底考えられることではない。「袖すり合うも多生の縁」なんて諺はあるけれど、それを素直に信じられるほど私はロマンチストではない。
「俺は前世のことを謝りたい。そして今生では君を、幸せにしてあげたいと思ってる。それが今の俺にできるせめてもの償いになるから。今度はもう絶対に君の手を離さない。今日の出会いは運命なんだ。今生は、俺と一緒に生きていこう」
黙ったままの私に、星野ミコトはそれだけ言ってそっと私の手を握ろうとする。イケメンがこうやって優しく近づいてきたら、ほとんどの乙女はときめくだろう。
けれど、私はその手を咄嗟に振り払った。




