バタークリームのような目眩
特設会場に、若い女の子たちがたくさん集まっている。
その中心には紫色のカーテンで、簡単な個室が作られていた。看板には若い男性の写真、書かれた名前は「星野ミコト」。なるほど、確かにマキの言う通りモデル雑誌から飛び出してきたみたいな華のあるイケメンだ。これなら女性が押しかけるのも無理はない。
案内の人に、病院の問診票のようなボードを渡される。どうやら血液型と星座、誕生日を書かなければならないらしい。星座って誕生日がわかればいいんじゃないの? あ、でも占星術とかするのなら最初から星座を書いたほうがいいのかな。でも血液型はさすがにいらないんじゃない? なんて色々考えながら、私は欄を次々と埋めていく。
「ねぇねぇ、何を占ってもらう? 私はね、素敵な彼氏ができないか占ってもらうんだ。春花はどうする?」
きゃっきゃっとはしゃぎながら空欄を埋めていくマキの隣で、私も考えてみる。
そもそも私に、占ってもらいたいことなんかない。クラスメートに気になる男の子の一人もいないし、学校生活でも特に大きな不満があるわけではない。数学が苦手とかお母さんが勉強、勉強と口うるさいとか小さな不満はあるけれど、そんなことは占ってもらうほどのことでもない。そもそも占い自体が好きじゃないのだから、別に何も教えてほしいことなんかない。それでも強いて何か聞かなければならない、というのなら。
「私はとりあえず、無難に全体運でも占ってもらおうかな」
当たり障りのないことを言ってほしいのなら、自分も当たり障りのないことを口にすればいい。今の私の夢はとにかくこのまま普通の女子高生として過ごし、普通の大学生になって普通の大人になることだ。それに横槍を入れてほしくないし、なんだかんだと不吉なことを言ってほしくない。だから曖昧なことを口にして、どうでもいい結果を適当に聞き流せばいいのだ。今から行く占いの目的はあくまで「ちょっと有名なイケメンを見てみる」。それはせいぜい、動物園にパンダを見に行くようなものだ。パンダに私の今生の目標を話したって意味がない。
でもパンダが占う姿は可愛いかもね、なんて考えながらマキと会話しているうちに列はどんどん前に進んでいく。紫の帳から現れる女性たちはみんなアイドルにでも会ったかのようにキャーキャー言っている。あの調子だとやはり真面目に占うものではないだろう、と安心していると、ついに私の番が来た。
「次の方、どうぞ」
近くにいたお姉さんに促され、私は一歩前に出る。この人は別に占いに関係ない、元々このショッピングモールで働いている店員さんのようだ。どことなく神秘的な雰囲気のある帳の向こうへ、私は踏み入れる。
天井中央から照らされた電気は灯火管制でもされているように、遮光具がつけられている。おかげで中は薄暗く、目に見えない誰かに見られているような不思議でミステリアスな感覚に陥る。
でも、こんな風に雰囲気作りばかり力を入れているあたり、やっぱり占いの能力の方はあんまり信用できなさそうだな・・・・・・不躾にそう思うと、問題の占い師と目が合った。
写真の通りに、人の目を惹く正真正銘の美形。けれど形の良い目は私の姿を映し、驚愕に見開かれている。死んだ人間が蘇ったか、自分の身に何が起こっているのかわからないとでも言いたげな目。
「君、鈴子だよね?」
問いかけられたその言葉に、私の心臓が止まったような気がした。
前世の私の話、藤田鈴子のことは生まれ変わってから誰にも教えたことがない。
話したところで信じてもらえないだろうし、誰にも話したくない辛い記憶だからだ。いくら村で人々の尊敬を集めていたとしても、それはあの小さな村での出来事だから歴史的な資料に残っているとは考えにくい。それでも気になって村のことを調べてみたら、あの村はとっくに廃村になっているはずなのだ。なら前世の私を、鈴子のことを知る人間はこの森野春花以外に存在するはずがない。
なのに。なのになぜ、この占い師は私の前世の名前を知っているの?
戸惑い動けなくなる私に目の前のイケメン占い師・星野ミコトは諭すように語る。
「鈴子、驚かないで聞いてくれ。俺は、生まれ変わった草野政彦なんだ。君の、前世の許嫁なんだ」
その言葉を聞いた瞬間。
私は前世で食べた脂っこいバタークリームのような目眩を感じた。




