占い、かぁ……
そして私は、生まれ変わって森野春花になった。
物心ついた時にはもう自分に前世の記憶があること、そしてそれが本来はありえないことだということを理解していた。
だから私の周りに、私が鈴子だったことを知る人間はいない。かつての村のような閉鎖的空間と違って今はどこにでも行けるし、たくさんの人に出会うことができる。だから私は前世の自分のことはなるべく考えないようにして、今の人生を思いっきり楽しむことに決めた。巫女としての職務に追われ勉強も遊びもできなかった鈴子と違い、今の私の人生はとても楽しいものだ。
太陽の光をたっぷりと吸い込んだようなオレンジ色のボブヘアーは、私の自慢。前世の地味で重たい黒髪ロングと違って華やかだし、毎日の洗髪も楽だ。色んなヘアピンやカチューシャでヘアアレンジできるのも楽しい。可愛さで言えば鈴子の方が上だったかもしれないけれど、髪飾りの一つもろくにしたことのなかった鈴子と違って今の私ははたくさんオシャレができる。そんな森野春花になれた自分を、私は素直に喜んでいた。
そして今は、かつての私が命を落とした十七歳だ。
森野春花は鈴子と違ってどこにでもいる普通の女子高生だ。巫女として尊敬されることもなければ、周囲から感謝されることもない。けれど私は、それでいいのだ。私はもう前世のような目に遭いたくないし、このまま平凡な少女として生きていきたい。その願いが叶うのなら、過ぎたことは望まない。
私はこのまま森野春花として、新しい人生を生きてみせる。クレープの甘みを噛みしめながら、私は密かにそう決意していた。
「ねぇ春花、占いに行かない?」
かぐわしい生クリームの余韻に浸る私に、ふと思いついたようにマキが口にする。そういえば、入り口にそんな看板がかかっていたっけ。
この商業施設にはイベント用の特設コーナーが存在する。普段は子ども向けのヒーローショーや中元・お歳暮の販売が行われているその場所に、今日は現役ユーチューバーのイケメン占い師が来ているらしい。
「占い、かぁ……」
ワクワクしているような表情のマキから、私は目を逸らす。春花は占い信じないの? と不思議そうに首を傾げてみせるマキに私は曖昧な言葉を返す。
正直、気は乗らない。ユーチューブ自体はわりと見る方だと思うけど占いのちゃんねるは一度も見たことがないし、特に興味も無い。だからその専門のユーチューバーが来る、と言われていてもあまり心を引かれない。
別に、占いを信じていないわけではない。それでも占いを避けたい、と思うのはかつての自分がそういう不思議な力を頼られていたからだ。
本来、占いに必要なのは知識や結果の解釈力であって霊力が直接、関わってくるわけではない。けれど巫女という立場があったせいか私は村人たちからよく占いをしてほしい、とせがまれていた。そんな記憶を思い出してしまうから正直、占いは苦手だ。血液型占いや星座占いのような軽いものでも、できれば遠慮したい。
それに今、オカルトなことに関わるとまた鈴子のようにまた自らの力を頼られるようになってしまうのではないか、という不安もあった。
普通、霊力や魔力といったスピリチュアル系の力は遺伝や譲渡によって受け継がれるものだ。今の私、森野春花の両親や親族は鈴子のような力を持っていない。にも関わらず、私は森野春花になった今でも前世と同等の霊力を隠し持っている。私の能力はどうやら魂に染みついているものらしい。
だけど現世の私は、その力を封印している。今の世の中でも私の力を必要とする人はいるだろうし、それを利用して商売などもできるだろう。けれど、今の私は普通の女子高生だ。霊力を使うつもりなんて毛頭ないし、何よりまた霊力を発揮して前世のような目に遭うのはごめんだ。
とはいえ、そんなことを知らないマキはキラキラと目を輝かせている。できれば霊的なものと遭遇したくないと考える私と違って、マキはオカルトが大好きだ。その守備範囲は幅広く幽霊に都市伝説、宇宙人に未確認生物と何でもござれ。もちろんその手のテレビ番組や雑誌が欠かさずチェックしているし、スマホにはお気に入りのオカルトサイトが常にブックマークされている。
「占いもだけどね、その人すっごくイケメンなんだよ! だから見に行こうよ!」
がくっ。そういえばマキ、オカルトだけじゃなくってイケメンも好きだっけ……。
肩を落としながらも、呑気に笑うマキの姿にちょっとだけほっとする。
占いが当たるかどうかより、イケメンで有名になるぐらいだ。たぶん、占い能力の方は大した力がないのだろう。そもそも占い自体、経験を積めばある程度はできるようになるものだ。もちろんそこから一流になるかどうかは本人の腕がかかってくるけれど、今の私にそれは関係ない。
「そうね、イケメンなら見てみたいかな」
「でしょでしょ! 見に行こうよ」
ぱぁっ、と輝くような表情を浮かべるマキに苦笑いしながらも、私は幸せを感じていた。
前世の私は巫女として頼られる一方で、どこか周囲から壁を作られているところがあった。だから、こういう何でも言い合える親友ができたのはとても嬉しいことだ。雑誌やテレビの話で盛り上がって、他愛もない話で転がるように笑って。平和な日常が、今はとても愛しい。
こんな穏やかな日々が、これからもずっと続けばいい。今の私は巫女じゃなくて、普通の女子高生だから。
無邪気に笑うマキの顔を見ながら、私はしみじみそう思った。




