本当にすまなかった
「俺はもともと、霊に取り憑かれやすい体質だっんだ」
酸欠になり、動けなくなった私を救護室に運んでくれた星野ミコトはいきなりそう語り始めた。
文字通り憑き物が落ちた星野ミコトは、顔立ちこそ整っているが表情は至って穏やかなものだった。彼は私に今までのことを謝罪し、「一体いつから茜に取り憑かれていたのか」と問いかけた私にぽつぽつと話し始める。
「子どもの頃から色んな霊に取り憑かれることが多くて、両親には心配をかけた。だから俺がきちんと自分の力をコントロールできるように、て言って霊能力者だったじいちゃんのところで修行をさせるようになったんだ。でもじいちゃんは『自分の力を金儲けに使うのは良くない』って言って、いつも貧乏暮らしをしていてさ。修行もキツくて嫌だったし、子どもだった毎日が不満だった。それで高校進学を機に、じいちゃんの家を飛び出したんだ」
いわゆる「霊能力」にも色んな種類があって、私のように祓うことができる人もいればただ見ることしかできない、という人もいる。星野ミコトはどうやら取り憑かれやすい、という厄介な方面の力を持っていたらしい。もちろんそれも磨けば役立てることはできるけれど、その修行の道のりが険しいのは想像に難くない。そして、それに嫌気がさすのも予想できることだ。頷いてみせる私に、星野ミコトはさらに話を続ける。
「家を飛び出した俺はそれまで学んでいた能力を使ってスピリチュアルユーチューバーをやることにしたんだ。自分で言うのも何だけど、正直見た目が悪くないのはわかってたからね。最初は小遣い稼ぎぐらいにしか思ってなかったけれど、どんどん再生回数が伸びていくのが面白くて気がつけばのめり込んでいた。好きなことをやって金を稼げる俺ってすごい、って天狗になってたよ。けれど、結局は未熟だったんだろうね。君を襲った茜に取り憑かれたのは、そんな時だった」
自らの力にのぼせ上がり、これこそが自分の価値だと思い込む。それはまさしく前世の私、藤田鈴子のことだった。だからこそ茜は星野ミコトに取り憑いたのだろう。苦い表情を作る私と、同じような顔で話を続ける星野ミコト。そこから先は君の見た通りだよ、と自嘲するように呟くと星野ミコトは頭を下げる。
「茜にほとんどの行動を支配されて、自分が自分じゃなくなる感覚は恐ろしかったよ。君のおかげで助かったけれど、君と君の友達には迷惑をかけた。謝って済む問題じゃないとは思うが、それでも謝らせてほしい。本当にすまなかった」
「いえ、私もなんだか吹っ切れました。これからはもっと明るく、前向きに生きられそうです」
口にするその言葉は、星野ミコトへの労りだけではない。
今回のことでマキや斉木先生には心配をかけてしまったけれど、それでも晴れ晴れした気分なのは藤田鈴子との完全な決別ができたからだろう。前世の記憶があっても今の私は森野春花だ。藤田鈴子の感情に固執し、しがみつかなくていい。森野春花は、森野春花の人生を生きるべきなのだ。そんな当たり前のことに、初めて気がつくことができた。今までの「前世のようになりたくない」と望みながらそれでも藤田鈴子であることを捨てきれなかった自分から、今度こそ本当に生まれ変わることができたような気がした。
「僕はじいちゃんに頭を下げて、もう一度きちんと修行をやり直そうと思う。それから、今度は他の誰かを助けられる力を身につけようとおもうよ。さっきの君みたいにね」
はにかんでみせる星野ミコトの表情はやっぱりイケメンだ。けれどその顔は茜に取り憑かれていたときはもちろん、ユーチューブで見た時よりも爽やかで明るいように思えた。この人もまた、これから自分の人生を生き直す決意ができたのだろう。
頑張ってください、と返す私もまた気がつけば、星野ミコトと同じように朗らかな笑顔を浮かべていた。




