取り憑かれている
最初に「目に見えない誰かに見られているような不思議でミステリアスな感覚」を持ったことで、違和感に気づくべきだった。
いくらマキが星野ミコトの占いを信じていたとしても、その言いつけを全て守れるというのは異常だ。仮にマキが全てのアドバイスを完璧に実行していたとしても、星野ミコトが狙った通りの災厄が次々に降りかかるというのもおかしすぎる。そこには何か、第三者の霊的な力が介入していたと考える方が自然だ。斉木先生には口にできなかったが、私にはその確信があった。
だがそれは星野ミコト本人の力なのか? と考えると答えは違うだろう。公式ちゃんねるやSNSの日付がかなり前からものだったところを見ると、星野ミコトに占い師としての本職があること自体は間違いない。けれど、占いはあくまでこれから起こる出来事を予測するものだ。災厄を引き起こす力など持っているとは思えない。
鈴子だった時の私は、それとよく戦っていた。瘴気を撒き散らし、災いを引き起こすもの。死してなおマイナスな気持ちに執着し続けた霊は悪霊や怨霊となり、そんな存在になってしまうのだ。
「悪霊の中には怨念の力によって特定の相手に不幸を呼び寄せることができるものがいる。あなたはそれに、取り憑かれている」
言いながら、私は目の前の星野ミコトの姿に目をこらす。
星野ミコトの背後に、黒くぼんやりとした影が見えた。後ろに立っているのではない、ほとんど星野ミコトの背中に重なり一体化しているようにも見える。髪の長いシルエットからして女性だろうか? ゆらめく蜃気楼のような姿からは、どんな顔をしているのかわからない。けれどその姿から放たれる不穏な空気は、まさしく悪霊のそれだ。
けれど、星野ミコトは一切気がついていないのだろう。そうでなければ、悪霊から無理矢理気づかないようにされているか。どちらでもかまわないが、何も知らない星野ミコトは人を小馬鹿にしたような表情で笑ってみせる。
「おいおい。確かに俺は占い師なんて職業をしているし霊的な世界のことを信じてはいるけれど、そんなことありえるはずがないだろう?」
「悪いけれど、科学的な説明はすることができない。でもあなたが本当の星野ミコトじゃない、別の何者かになっているのは間違いない。動画のあなたはしきりに前髪をなおしていたのに私と出会ってからのあなたはそんな仕草を一回もしたことがない。一人称も私と話している間、『俺』と『僕』でしょっちゅう変わっている」
「そんなの、誰でもあることだろう? たったそれだけで悪霊に取り憑かれてるなんて……」
「じゃあ、あなたはなぜ利き腕が変わっているの?」
ぴたり、と動きを止める星野ミコト。その直前に一瞬、右腕が動いたのを私は見逃さなかった。間違いない、と私はさらに彼へと詰め寄る。
「動画の中での星野ミコトは、いつも左手で前髪をなおしていた。身振り手振りの時も説明中でジェスチャーをすると時も、使うのは左腕。本来の星野ミコトは左利きなのよ。でも、私と会ったあなたは私の手を右手で取ろうとして、連絡先も右手で渡した。今だって、腕時計を左腕にはめている。あなたが左利きなら右腕に腕時計をはめるはず、なのになぜ今のあなたは左腕に時計をはめているの?」
前髪をなおすとか、一人称とか、そういうものは確かに同じ人でも日によって変わることはあるかもしれない。けれど、利き腕がころころ変わる人なんてそうはいないはずだ。最も、それに気がついたのは斉木先生に占いのインチキを暴いてもらってからだった。もしそれを完璧に隠しきっていたとしても、私が最初から冷静に自分の力を使って星野ミコトを見ていればすぐに気づけたはずだ。
結局は、藤田鈴子としての自分を振り切れなかった私のせいだ。我ながら情けない、と考えていると目の前にいた星野ミコトが急に笑い出した。
「まさか気づかれるとは思わなかったよ。あんた、『藤田鈴子』の時よりは賢いみたいだな」
その笑顔は、先ほどまでのイケメン占い師としての顔ではない。相手を見下し貶めるような、ただただ醜悪な笑み。だけどその言葉に私は引っかかるものがあった。毒気のある表情に怯みそうになりながら、それでも私は尋ねた。
「あなた、まさか茜なの?」
鈴子と政彦、そして村のことを知っている女性。だけどそのほとんどの人は、私のことを「巫女様」か「鈴子様」としか呼ばない。そもそも巫女になった時点で私は家を出て、ほとんど名字を名乗らなくなったのだ。村人の中には私の名字を知っている人間の方が少なかっただろう。そんな私をフルネームで呼ぶのは、悪霊を追い払うべきと再三にわたって注意したにもかかわらずそれを全て撥ね除けた茜ぐらいだ。




