それがおかしい
斉木先生に職員室へ呼び出されたあの日。
何も言わない私のことを心配したらしい斉木先生は、唐突に私の前に一枚のプリント用紙を差し出した。
「もしその占い師にお前が何か言われているんなら、そのやりとりをできるだけ正確に思い出して紙に書いてみてくれないか? もちろん、お前が言いたくないようなことがあるなら無理にとは言わない。でももしお前が二宮と同じように、占い師から何か言われて悩んでいるのなら二宮の時みたいにそのインチキを暴いてやる。だから、ちょっと書いてみてくれないか?」
眼鏡の奥から真っ直ぐに私を見つめる斉木先生。その目は自分が受け持つ生徒の一人、森野春花を見る目だった。考えてみれば当然の話だ、斉木先生は藤田鈴子のことなんて知るはずがない。私に不思議な力があることだって知らないし、そもそも信じるかどうかも怪しいだろう。
だから鈴子を追い出した村人たちのように、政彦に扇動されて私を追い詰めるようなことなんてしない。それを理解した瞬間、私は急に肩の荷が下りたような気がした。そうだ、斉木先生は信じられる。気に病む必要なんてないんだ。
私は自分が藤田鈴子の記憶を持っていることは伏せて、星野ミコトとの話の内容を書き出してみた。「なんだこの少女漫画みたいなストーリーは」なんてぶつくさ言いながらも斉木先生は宣言通り、政彦の生まれ変わりだというインチキを暴いてくれた。
「『本当は繊細で傷つきやすい性格なのに、周囲を心配させまいとして気丈に振る舞っている』。そんなの、誰だってそうに決まってる。月もレンゲ畑も、恋人同士なら見ることは想定できる。そうやってあなたは、さも前世で本当に私と恋人同士であったかのように振る舞い、政彦のふりをしたんでしょう?」
星野ミコトは最初、「何を言われたのかわからない」という顔で目をしばたかせる。けれどすぐその表情を取り繕い、穏やかに口を開く。
「疑われるのは仕方が無い。でも、本当のことなんだ。だってそうじゃなければ、鈴子のことも村のことも、知るはず無いだろう? 俺は確かに政彦で、君と同じ村にいたんだ。あの村が廃村になってしまっても知ってるだろう?」
「そう、それがおかしい」
くどくど言い訳を並べようとする星野ミコトを一言で制する。不躾な態度に気分を害したのか彼は訝しげな目でこちらを見つめた。でも、私は負けない。
「政彦は村人に殺されて死んだ。そこまでは、正しいかもしれない。でも、なぜ死んだ政彦が廃村になったことを知っているの?」
斉木先生が真っ先におかしい、と口にしたのはその点だった。
死んでしまえば、その後何がどうなったかなんて知る由がない。
「怪談の初歩的なミスだ」と斉木先生は呆れていたが、それに気づかない私もバカだった。斉木先生の言うところのバーナム効果だけではない。政彦の名前や村の巫女だった話を出されてしまい、前世の藤田鈴子に戻って私は思考停止してしまった。結局、私が自分自身の藤田鈴子を振り切れないからこんなことになったのだ。結果としてマキを危険に晒し、斉木先生にも迷惑をかけた。
いや、二人だけじゃない。私が藤田鈴子としての過去に囚われることなく、最初から冷静な判断をしていれば救えた相手がまだいる。
「星野ミコト。あなたは政彦じゃない。でも前世の私、藤田鈴子を知っている誰かに取り憑かれている。そしてその相手に、操られている」
自己嫌悪を振り切りながら、私は星野ミコトに尋ねる。ぎゅっ、と自分の拳に力が入り、背中には汗が流れるのを感じた。虚を突かれたような表情の星野ミコトを見つめながら、私はごくりと生唾を飲み込んだ。




