次は普通の女の子として生きたい
冷たい雨が、私の体を容赦なく打ち付けていく。
体温と共に自分の生命力が奪われるのを感じながら、それでも私は立ち上がることができなかった。精神的にも肉体的にも、立ち上がる力はとっくの昔に使い斬っている。それだけではない。愛する人も、帰る故郷も、今の私にはもう存在しない。みんなみんな、失ってしまったのだ。もう私に、生きる気力はない。
涙に滲み、狭まっていく視界の中。私が考えたことは、ただ一つ。
もし生まれ変わることができるのなら、次は普通の女の子として生きたい——。
◇
「美味しーいっ!」
一口かじったクレープの味に、私は歓声を上げる。
ここは地元のショッピングモール。そのフードコートの一角で、私はチョコバナナクレープを口にしていた。黄金色の生地に包まれた、ふわふわの生クリーム。バナナの柔らかな甘みに加わるチョコレートのアクセント。シンプルながらその全てが究極のバランスで整えられた絶品、チョコバナナクレープの味に私は思わず感激してしまう。
「春花って本当に美味しそうに食べるねぇ。そんなに生クリームが好き?」
目の前に座る栗色の髪の少女、マキが半ば呆れたように私へ問いかける。
クラスメートであり、中学の時から付き合いのあるマキは私がいかに生クリーム好きであるかをよく知っている。それでもなお尋ねてしまいたくなるぐらい、今の私の顔は蕩けきってしまっているのだろう。
だが、それも仕方がない。私は生クリームが好きだ。かつての私が生きた時代のケーキと言えば、使っていたのはバタークリーム。固くてべたっとして、いつまでも口の中に居座るようなあまり美味しくない……というか、はっきり言ってまずいものだった。今の時代のバタークリームは改良されてかなり美味しくなったらしいけれど、それでも私の中でバタークリームは生クリームに勝てない。雪のように白く雲のようにふんわりとしたその食感は、バタークリームしか知らなかった私の心をがっちりと掴み、虜にしてしまったのだ。
そう、私には前世の記憶がある。
前世の私の名前は、藤田鈴子。享年十七歳、職業は当時住んでいた村の巫女だった。
鈴子としての私には、不思議な力があった。それは、簡単に言うと色々なものが「見える」能力。死んだ人や悪霊を見て、追い払うことができる。天気や冠婚葬祭など、これから村に起こる出来事をぴたりと言い当てられる。それらは霊能力とか千里眼とか色々な言われ方をしていたけれど、鈴子だった私はその力を使って村を守る巫女となった。
私のいた村は元々、瘴気が溜まりやすい場所だったのか何かと心霊がらみの問題が起こりやすかった。それゆえに私のように不思議な力を持つ人間は「巫女」として村を守り、その力を使って村人たちを守ることが使命であると義務づけられている。巫女になるには何かと制約が多く、自分の好きなこともできなくなるが村の守り神として尊敬される巫女への就任は何より名誉なことだった。だから当時の私は巫女になると決まった時は大喜びしたし、両親や友人にも祝福されたものだ。
私は、村も村に住むみんなのことも大好きだった。だからそれを守る力が自分にあるのは嬉しかったし、巫女として村を守るために毎日、一生懸命に働いていた。
そんな私、鈴子には「巫女になる」と決まった時に婚約した許嫁がいた。
彼の名前は草野政彦。村長の息子で大金持ち、文武両道で周囲からの人望も厚い。加えて、生まれ変わった今の私が見てもイケメンだと感じるほどの美男子。そんな彼が私の許嫁だったのは、「村を守る巫女が村をまとめる村長と結婚すればこの村は安泰」という何ともロマンのない理由だった。けれど私は彼のことを愛していたし、結婚できる日を心待ちにしていた。そして政彦からも同じように、私を「心の底から愛している」と思ってほしかったから巫女の仕事の傍ら、彼の立場を立てて良き妻となれるよう必死で努力した。
だけど……




