柴咲さんの真意①
柴咲さんと交際を始めてから、早1ヶ月が経とうとしていた。
会社の同僚などには秘密にしているが、勘のいいヤツは俺達の関係について気づき始めている。
ただ同時に、白鳥さんとの関係について追及されることも増えてきた。
彼女は献身的に俺に尽くしてくれているため、誤解をまねきやすいようだ。
「あ、主様、ご飯粒がついてます」
白鳥さんはそう言って俺の口の横についたご飯粒を取り、そのまま口に運ぶ。
漫画やアニメなどではありがちなシチュエーションだが、実際にやられると反応に困ってしまう。
「……ありがとう、白鳥さん」
「これも忍びの務めですので」
とりあえず礼を言ってみたのだが、そんな返しをされてさらに困惑する。
今どきの忍者は、そんな世話までするのか……と。
「…………」
そんな俺達のやり取りを、柴咲さんが冷たい視線で見ていた。
やはり恋人として、今の行動は看過できなかったのかもしれない。
「ちょっと、いいですか」
「……なんだろうか」
そっぽを向いてそんな視線を楽しんでいると、柴咲さんがチョイチョイと袖を引いてくる。
その仕草が可愛くてついつい頬が緩みそうになったが、努めて平静を装う。
「……あの、今夜、ウチに来ませんか?」
「「っ!?」」
その大胆な誘いに、俺だけでなく白鳥さんまで過剰に反応する。
「……それは構わないが、いいのか?」
「はい」
これは、OKサインというヤツだろう。
1ヶ月目にして、いよいよというワケだ。
◇
「今日は、二人だけでお話があって家に来てもらいました」
「そんなことだろうとは思っていた」
嘘ではない。
半分くらいは、こうなることを予想していた。
「……もしかして、変な期待させちゃいましたか?」
「しなかったと言えば嘘になるが、少し違和感があったからな」
柴咲さんが、あんな大胆な誘いを、わざわざ白鳥さんの前でするというのは性格上ありえないと思った。
となると、そこには意図があると踏んだのだ。
「本当は、凄く恥ずかしかったんですよ。でも、あの場で誘えば、静香ちゃんはついてこないと思ったので……」
白鳥さんはポンコツ忍者なので、男女の営みが想定される場合、監視もできなくなる。
今頃は一人で悶々とした夜を過ごしているだろう。
「それで、今日の話は、いい加減手詰まりになってきたので協力しないか……ってところか?」
「っ!? 気づいてたんですか?」
「あれだけワザトらしく白鳥さんを挑発してれば、普通気づくさ」
こう見えて、俺は敏いのだぞ。