ポテトフライジャンクション
僕がポテトフライジャンクションで働き始めて四日が経つ。その間に分かったことが二つある。一つは、世間は僕が思っていたよりもポテトフライを求めているということ。もう一つは、ポテトフライジャンクションのバックヤードには、僕が読んだことのない本がたくさんあるということだ。店長いわく、本を読めば落ち着いてポテトを揚げることができるらしい。
僕の指導をしてくれているケビンは、ゲイだ。ケビンは僕が入ってきた初日に、君はゲイかい? と僕に聞いてきて、違います、と答えると、君は僕の対象から外れた、と言った。あけすけな人だな、と僕は思った。
ケビンには弟がいて、弟はゲイじゃないらしい。同じ親でもゲイばかりが生まれてくるわけじゃないんだ、とケビンは言った。親を恨んでいるかい? と僕が聞くと、少しね、と笑って答えた。
ポテトフライジャンクションで働き始めて、一ヶ月が経った。僕はその間に、よくこの店に来る女の子の顔を知った。僕は毎日働いているわけじゃないけれど、二日に一度くらいは彼女の顔を見ている。彼女はいつも困ったような顔をしていて、ポテトなんてウンザリよ、とでも言いそうな口で、Lサイズのポテトを注文した。その彼女が今日も来ていて、メニューを見ている。小鼻がツンとしていると僕は思った。彼女は意を決したように顔を上げた。それから、あんたがジャンクションに来てからポテトが塩っ辛いのよ! と僕の顔を見て言った。僕は、彼女がポテトの食べ過ぎを気にしているのだと思っていたから、突然のことにびっくりした。僕が、塩はト、と言いかけたところで、うるさい! と言って、彼女は店を出ていってしまった。店長が来て、僕の代わりにレジを打ってくれた。
バックヤードに戻った僕は、ドストエフスキーの悪霊を読んでいたケビンに、塩はトントン? と聞いた。塩はトンだぜ、とケビンは手を一回打って、乾いた音を立てた。