召喚された聖女が死んだ 〜誰も救われない胸糞な話〜
やたら人が死ぬのでご注意ください
タイトル通りですご注意ください
王太子のベッドが血の海と化していた。
この国には伝説があった。
そもそもこの国は神が遣わした聖女が勇者と共に建国したと言うのだ。
世界は魔物が徘徊する森に覆われていたが、王国は結界によって守られ貧しいながらも平穏が保たれていた。
結界の外に一歩踏み出せば神の加護を受けた鎧なしでは生きられず、また普通の武器では魔物を倒すこともままならなかった。他国との交易なども冒険者を雇うか、騎士団などが護衛につく必要がある危険な旅だった。
そんなある日、王太子が魔術を駆使して聖女を召喚した。
聖女を召喚して国を豊かにした英雄になると言う私利私欲のために。
10人もの魔法使いの命と引き換えに。
ほぼ騙し討ちだった。術が発動した瞬間から魔法使いたちは踠き苦しみ息絶えた。
その遺体は干からびた様になっていた。
召喚された聖女の姿はこの国では珍しい容姿をしていたが、それは王家の人間に稀に見られる物だった。
喜んだ王太子は聖女にあれこれ要求したが、聖女はひたすら元の世界に帰らせろと要求した。自分が帰らなければ老いた母が独り死ぬことになると。
泣き続ける聖女に苛立った王太子は自分のものにしてしまえば言うことを聞くだろうと聖女を寝室に引きずり込んだ。それ以上近寄れば舌を噛んで死ぬと言う聖女を嘲笑った。舌を噛んだ程度で死ぬものかと。
そう言い終わらぬうちに聖女の口元からポロっと何かが落ちて、シーツを赤く濡らしながら跳ねた。激しく血を吹き出し痙攣する聖女。王太子は慌てたがそうかからずに聖女はピクリとも動かなくなった。
打ちひしがれベッドに腰掛けたまま頭を抱える王太子。聖女を死なせてしまったこともそうだが、ここまで拒絶されるとは思いもよらなかったのだ。美しい容姿と権力を持ちもてはやされて生きてきた王子は手に入らないものは無いと思い込んでいた。
すると、ノックが聞こえ、返事も待たずにドアが開く。
入ってきたのは王太子の婚約者で宰相の娘だった。
言い訳をしていると、最終的に聖女を愛していたからと言う話に行きつき、すっかり表情をなくし白い顔をしていた令嬢はどこからか取り出したナイフを自らの首に突き立てた。私は貴方をお慕いしておりました。そう言い残して。
鮮血が天井まで噴き上がり、毛足の長い絨毯を血の沼の様に変えた。
次に入ってきたのは騎士を連れた宰相だった。
変わり果てた自分の娘を見つけるとそっと抱き上げた。
既にその顔に表情はなかった。
既に全て手遅れだが一応報告はしておく、そう前置きをして告げられたのは王国を守っていた結界が消滅したと言う知らせだった。
「忠告させて頂いたと思います。聖女は道具では無い。神の愛し子だと」
何か言い訳をしようとしてその時宰相から言われた言葉を思い出して口を継ぐんだ。
『後で「どうしてこんなことに」とは言わないでくださいね。全ては殿下のしたことですから』
「我々はこれから死にに参りますが、殿下はこの宮殿から出られません様」
一緒に入ってきた騎士が告げ踵を返す。
この国の戦力の大半は魔法使いと魔法騎士だ。
神の怒りを買った以上、魔法使いなど農民以下、騎士はおもちゃの武具を纏った、ただの兵士だ。
半月後、最後の城壁が破られ全ての宮殿が倒壊し次の日には王都に静寂が戻った。