カナブンジュン
夏休み。
ジュンは虫とりアミを手に、家の近くにある児童公園にやってきました。
公園の木々の葉っぱが夏の光に輝いています。
――あっ、カナブンだ!
ジュンは木の幹にいたカナブンを見つけました。
アミを近づけます。
けれどもう少しというところ、カナブンは羽を広げて飛びたち、それからジュンのおでこに向かってぶつかってきました。
「いたい!」
声をあげ、しりもちをついたと同時に、ジュンはなにやら黒っぽいモノを見ました。
それはモソモソと動いています。
――なんだろう?
手でさわろうとすると、それもいっしょになって動きました。さらに先の方には、小さなギザギザがうじゃうじゃついています。
――わあっ!
それは自分の手と足でした。
それに背中も丸く緑色になっていました。
いつのまにかジュンは、小さなカナブンになって地面にひっくり返っていたのです。
――どうして?
ジュンは起き上がろうとあばれました。
するとなぜか体が宙に浮き、かってに羽が動いて空を飛んでいました。
ブランコや砂場が見えます。
そして木の下には、地面にあお向けにたおれた自分がいました。
公園に救急車がやってきて、ジュンはすぐさま運びこまれました。あわててかけつけてきたおかあさんもいっしょに乗りこみました。
救急車が走り出します。
カナブンになったジュンは、サイレンを鳴らして走る救急車のあとを追いました。
屋根の上を飛んで追いかけました。
救急車が病院につくと、ジュンはおかあさんにだかれて病院の中へと消えました。
――どうしよう?
カナブンでは病院の中まで入れません。
カナブンジュンは庭の木の枝にとまり、おかあさんたちが出てくるのを待ちました。
病室のジュンのそばでは、おかあさんが心配そうにつきそっていました。
「あらっ!」
おかあさんがジュンの手をとりました。
ジュンが目をあけたのです。ところがおびえたように、手と足をモゴモゴと動かすばかりです。
「ねえ、気分が悪いの? おかあさん、先生を呼んでくるからね」
病室をとび出したおかあさんは、すぐに先生をつれてもどってきました。
でも、ジュンがいません。
なぜか病室から消えていたのです。
「どこに行ったのかしら?」
ジュンを探しに、おかあさんが病室を出ようとしたときでした。
ガサッ。
ベッドの下で音がしました。
「いま音が!」
先生がベッドの下をのぞくと、ジュンがそこで小さくちぢこまっていました。
「ジュン!」
おかあさんはジュンに手をのばしました。
ところがもう少しで届くというところ、ジュンに手をひっかかれました。
ジュンがいつものジュンとちがいます。
「ジュン、どうしたの?」
おかあさんはジュンをやっとのことでつかまえ、ベッドの上にもどしました。
先生が腕に注射をします。
それからしばらくすると、ジュンはおとなしくなって、ふたたび眠ったのでした。
カナブンジュンは、ジュンの病室のそばにある木の枝にとまっていました。そして窓をとおし、今のようすをずっと見ていました。
――そうだ!
カナブンジュンは公園でのこと、おでこにカナブンがぶつかってきたときのことを思い出しました。
――あのとき入れかわったんだ。
カナブンジュンは窓から病室に飛びこみました。
めざすはジュンのおでこです。
一直線にいきおいよく、カナブンジュンはジュンのおでこにぶつかっていきました。
「あら、気がついたのね」
キョロキョロしているジュンのもとに、おかあさんがいそいでかけよりました。
「ここ、どこなの?」
ジュンはなにもおぼえていないようです。
「病院よ。あなた、公園でたおれていてね。それで救急車でここに運ばれてきたのよ。先生、熱中症だろうって」
おかあさんが入院までのことを教えました。
そのときです。
窓から飛び出す小さなものがありました。
その小さなものは空を飛び、すぐに夏の光のなかに消えてゆきました。




