画家
今より昔。あるところに一人の男がいた。
その男、実は後の世に多くの名画を遺す、名だたる画家だったのだが他の偉人たちの類に漏れずそのほとんどが彼の死去、暫くしてから評価されるものばかりだった。
生前、彼は多くの作品を描き、有名になるのを夢見て努力を続けた。
しかし、彼が描いた多くの絵画は作品とみられることはなく、ガス灯の柔らかく照らす街路の隅に広げられた彼の絵画たちに人々は目を止めることなく街を行き交っていた。
やがて彼は死に、魂は天へと召された。
白く漂う雲の上、彼は空蝉を見下ろす。
時は流れ、時代は変わり、建物は高いビルが建ち、街は電気の眩い明かりに包まれていた。地上では車が走り、上空では飛行機が彼の目下をかすめて行った。
やがて彼は自身の描いた多くの絵画が長い時を経て人々に名画と称賛されていることを知った。
彼の遺した作品はどれも高額で取引され、美術館に飾られた絵画は多くの人の足と目を止めさせた。
人々は彼の作品を見て、口々に芸術的感性や生前の彼の偉業を語る。彼の人生は美化され、人々に認められずにいた貧しい日々は哀愁を誘い、作品の価値をさらに高めた。
彼は自身の作品が世間に認められたことを心から喜んだ。木が打ちつけられる音が鳴り響くたび、自分の描いた絵画が価値あるものだと実感できた。
それと同時に彼は心から悔やんだ。
生前にもっと評価されていれば。
自分は貧しく苦労したのに自身の努力して描いた絵画で大金を得る人がいる。
自分は才ある人間だったにも関わらず生前にそれを認められなかったことを呪った。
そんなある日、薄い箱に映し出された人が一枚の絵画を紹介していた。
その番組、俳優や歌手、果ては芸人など今人気の有名人たちを集めて彼らに絵を描かせ、その絵画がどれほどの価値があるのか評価、およびオークション形式で売買するという番組だった。
多くの絵は取るに足らない物ばかりで大して高額にはならなかった。
しかし、中には掘り出し物があり、かなりの高額で取引された物もあった。
ある大御所俳優は天才と称され、ある新人歌手はこんな才能もあったのかと驚かれ、ある変わった芸風の芸人はやっぱりとその特異な感性に頷かれた。
後日、番組による宣伝効果もあってか好評だった作品たちは瞬く間に人々の関心を集め、その価値をさらに高めた。ネット上は大いに賑わい、人々は作品や作者である有名人たちを褒めそやす書き込みを飛び交わせた。
俳優は老後の蓄えができたと喜び、歌手は人気に火がつき仕事が増え、芸人はいつの間にか絵を描く方が本業になってしまった。
皆一様に、たった一枚の絵画によって絵の才能を認められ、明るい人生を手に入れたのだった。
そんな光景をただ一人、雲の上から見下ろす彼だけは頬を膨らませて不服そうに見ているのだった。
一言: 時代が変わって人々の感性が変わったのか、技術の進歩で多くの人の目に触れられるようになったのか。どちらにせよ、名だたる偉人たちも、もっと宣伝ができていれば……