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9話


「だいぶあたし達も有名になったね」


アイリーンが赤いコートを翻しながら大通りを歩く。


俺たち『夜の血族(ミディアンズ)』のトレードマークであるこのコートもスラムの住人にここ数週間で知れ渡ったようだ。


「当然さ、スラム街はもう俺の物なんだ。持ち主が誰かしっかり分かって貰わないとな」


たった一ヶ月程でスラムの犯罪組織を纏めあげスラムにあるほぼ全ての賭博場や娼館、金貸しなどの経営を行っている俺たちは裏の世界では今トレンドらしい。


ちなみに俺たち幹部は赤いコートを着ているが構成員は体にどこかに逆さ十字と瞳を組み合わせたギルドマークの刺青を入れさせている。おかけでスラム街で馬鹿な連中に絡まれることは無くなった。


「最近は面白いことも無くなってきたな」


トラブルに巻き込まれないということは俺が暴れる機会がないってことだ。憂さ晴らしに横領したり娼館の女に乱暴した客を見せしめにするのも飽きてきた。というかそろそろ俺の拷問のレパートリーが無くなりそうだ。


「うーん、面白いことじゃないけどあの件はどうするの?」


アイリーンが小首を傾げながら尋ねてくる。


「あの件?どれだっけ?」


記憶を思い返してみるがどれだか分からない。最近は報告書などの事務処理はアイリーンに任せきりだったからな。


アイリーンを見てみると案の定じと目で俺の方を静かに睨んでいた。


「また報告書読んでないでしょ。あたしが一昨日言ったやつだよ!」


一昨日、あぁ思い出した。


「酒場の売上が強盗にあったってやつだろ」


「そうだよ!もう二度も襲われてるんだよ、ただでさえ経済難だってのに!」


たしか酒場の売上を事務所に運んでいる途中で数人に襲撃を受けて金を奪われたって事があったらしい。まぁ所詮スラム街だからな手を出しちゃいけない相手かどうかも理解できない馬鹿は一定数いるもんだ。


「どうせ馬鹿な強盗だよ、フランクに任せたからすぐに片付くさ」


「むぅ、フランクさんなら確かに大丈夫だと思うけどさ」


アイリーンは少し不服そうだがフランクの仕事っぷりは信頼しているらしい。


まぁ、俺もフランクを信頼しているから任せたんだが。


屍肉喰らい(グールズ)』の連中とポーカーをしているときに聞いたんだがフランクは元々軍人だったらしい。フランクの直属の部下達は軍人時代からの部下だそうだ。


「だろ?もう今日の仕事はおしまいにしてビールでも飲もうぜ」


「その前に報告書と書類に目を通してくれよな!」


アイリーンの小言を軽く流しつつ事務所に入ると廊下を歩いていた青年に呼び止められる。


たしかセレストのところの冒険者だったか。


「ボス、よかった帰って来て!広間でフランクさん達が争ってて!」


彼の心音からだいぶ焦っているのが伝わってくる。急いで広間に向かうとフランクとセレストはテーブル越しにお互い冷たい視線で睨み合っていた。彼らの後ろには互いの部下達が武器を持って立っている。というかフランクとセレストも長剣に薙刀と愛用の武器をテーブルに立て掛けている。


今にも殺し合いをしそうな雰囲気を醸し出している。始まったら俺もしれっと混ざろっかな。


俺に気づいて皆があいさつをしてくるのに軽く答えながら最近増設したバーカウンターに座り肘をつく。


アイリーンは予算の都合上ごねたがアジトにバーカウンターは絶対必要だと押しきった。


フランクの部下の一人がカウンターの下からビールを取り出して俺の前に瓶を置いてくれた。

一口飲んで喉を潤してセレスト達の方を向く。


「それでどうしたんだ二人とも、まさか痴情のもつれとか言ってくれるなよ」


俺の質問にセレストが不快そうに鼻をならして応える。


「私にも選ぶ権利くらいあると思うけどね。それと君の期待に応えられなくてすまないがもっとビジネス的な問題だよ」


「ええ、ボスこの女のせいで無駄な時間を食っているんです。どうやら彼女はビジネスで一番大事なのは時間だと理解してないようで」


だめだなこれは、お互い引く気は無いらしい。そもそも俺は事情すら分からないんだが。


「とりあえず何があったんだ?」


俺の隣に座っているアイリーンもビールを片手に事情を聞きたそうにしている。


「申し訳ありません、ボス。妖精が盗まれました」


それを聞いてセレストは不機嫌さを増したようだ。


そして、一番反応を示したのはアイリーンだった。


「はああぁぁ!!?どのくらい盗まれたのよ!?」


「だいたい四百五十万レウ相当の妖精が盗られてしまったよ。この間抜けのせいでね」


セレストの言葉を聞いてアイリーンは頭をかきむしって悲鳴をあげた。どうやら会計係としてはショックな損失だったようだ。


ちなみにレウはこの世界の貨幣単位だ。まぁ多少の差異はあるがだいたい円と同じくらいだ。


しかし、妖精か。たしかセレスト達『巨人の腕』が捕まえてきた保護指定生物だったかな。闇市(ブラックマーケット)で物好きな貴族や魔術師に高値で売れるらしい。ゲーム時代では妖精の死体を材料に霊薬(エリクシール)を作れた筈だ、この世界でも錬金術師とかいるのだろうか。


「フランクの部下が妖精を運んでたのか?」


「はい、闇市の会場まで妖精を運搬していたんですが途中で全員殺されたようで」


「素人に負ける兵隊とはね、今度から私の部下たちが代わってやろうか?」


セレストは妖精を盗られてだいぶ頭にきているみだ、仕方ないだろう彼女達は密売と密輸をビジネスにしているのだから。


「素人ではなかった。死体は的確に急所を刺されてた、滅多刺しにして偽装していたようだが俺の目は誤魔化せない」


フランクのいうことが本当なら敵は妖精を狙って襲撃してきた可能性もあるってことか。だが言い争いをしていても仕方がない。


「襲撃犯どもは捕まえたのか?」


犯人を捕まえれば解決するだろう。


「yes、ボス。俺の部隊を向かわせました」


「私のところも銀級冒険者を何人か捜索に廻しているよ」


フランクの部隊と銀級冒険者ならそう時間もかからずに捕まえられるだろう。


それまでビールでも飲んでますかね。


横では発狂したアイリーンが六本目のビールに口をつけているところだった。

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