3話
「ありゃ、殺し過ぎちゃったかな」
人間の姿に戻るってみると村人は一人のこさず殺した後だった。
どうやら変身すると興奮しすぎて理性が効かなくなるみたいだ。
あちこちに飛び散った血や千切れた肉片が村を彩っている。
取り敢えず現状の把握は十分にできた、あとは近くに街でもあればいいんだが。
村の商店や裕福そうな家を漁ってみると幾らかの銀貨や銅貨を見つけることができた。それに返り血まみれの服から清潔なシャツとコートに着替えることもできた、なにより村の中でも一番大きな屋敷からはなかなかの品質のサーベルを手に入れることができたのが嬉しい。
さて、後は街がどの方向にあるか探すだけだがどうしようか。
いっそのこと勘で歩いていこうかと考えていると頭上に大きな鳥が飛んでいることに気付いた。
「あれは大鷲か?」
ゲーム時代でもよく森で見た魔物だ。そして飼い慣らせば便利な空の足になることでも有名だった。
やがて大鷲は高度を下げてゆっくりと失速していく、その背中には一人の鎧を着こんだ男が乗っている。
「なんだお前は、領主の騎士か?」
全身鎧を着込むのは騎士くらいのものだ。
男は村の惨状を見ると腰の長剣を抜いた。
「そうだ、この村の人々を殺したのはお前だな、隠そうとも全身から血の臭いが漂っているぞ」
騎士がそう言いながら長剣を構える。俺も先程手にいれたばかりのサーベルを鞘から抜く。しかし面倒だな全身鎧をサーベルで斬ったらせっかくのサーベルが折れてしまうだろう。
「ああ、殺したのは俺だよ。もっとスマートなやり方がしたかったんだけどな、次からは気を付けるよ」
俺がニッコリと笑ってそう言うと騎士から殺気が溢れだす。兜で表情は見えないが恐らく怒りに顔を歪めているだろう。
「人の姿をしていてもお前が怪物だということが俺には分かる、お前はここで殺さなければならないようだ」
「へぇ、やってみろよ」
お互いに間合いを計りながら視線を動かし隙を伺っている。この騎士すごいな人間としては大分上位に入る実力があるだろう。
だけど所詮人間、いくら鍛えても限界がくる。
俺はサーベルを振り上げて斬りかかる、本来なら数歩の距離を筋力にものをいわせて一歩で詰めた。
「ぬううううッ!!?」
騎士はなんとか反応できたようでサーベルを長剣で抑えている。この人間なかなかの怪力だな、だが俺の方が膂力は上だ。現に騎士はサーベルを抑えているが段々と押されていっている。
「おいおい、胴体ががら空きだぞッ!!」
騎士はサーベルを意識し過ぎている、サーベルの力を抜くと騎士の体勢が崩れた。すかさず胴体に蹴りをいれる。
だが吹き飛ばされることはなく数センチ後ろに下がったところで押しとどまった。
サーベルを構えようとすると胸に激痛がはしる。視線を下げると俺の胸にナイフが深く刺さっていた、どうやらあの騎士が蹴られると同時にナイフを抜いて投擲したらしい。
胸からナイフを抜いて捨てる、傷はすぐに塞がり始めた。
「グハッ、化け物めッ!」
騎士が血を吐きながらこちらに剣を向けてくる。どうやら蹴りで内蔵がやられたらしいな。立っているのも辛そうだ。
「あぁ、俺は怪物だよ。だから怪物らしくお前を殺してやるよ!」
俺もサーベルを構えてゆっくりと騎士に近づいていく。あと少しで間合いに入るというところで騎士が何かを取り出して俺の足元に投げてきた。瞬間、視界が真っ暗になる、なんだこれはどうなってるんだ。
首に衝撃がはしる、そして鎧の金属音と大鷲の羽ばたく音が聞こえる。
どうやら逃げたようだな、正常な判断だろう。そして首に刺さった長剣を引き抜く段々と視界も戻ってきたようだ。
「《盲目》の呪文か」
恐らくあれは《盲目》の魔術が込められた魔道具だったのだろう、さすが領主の騎士だな貴重な物を持っている。
まだぼやけているが空を見上げると大鷲の影が遠くに小さく見える。
「街はあっちか…」
そうあの騎士はわざと逃がしたのだ。目を潰されても聴覚と嗅覚である程度の行動はできる。あの騎士の首を斬り落とすくらいはできたが逃がせば街の方角が分かるだろうと考えたからだ。
サーベルを鞘に戻すと村からかき集めた金が懐に入ってるのを確認し街の方角へと足を進めた。
森を歩き始めて二時間ほどだろうか日が暮れかかってきた頃に街の外壁が見えてきた。夜になる前に着けてよかった。
街の入り口には村と同じように衛兵が槍を構えて見張りをしている。
「止まれ、身分を確認できるものは持っているか?」
門を通ろうとすると衛兵に止められた。聞くと商業ギルドや冒険者ギルドのギルド証や役所から発行される身分証明書など身分確認ができるものが必要だそうだ。
周りのをみると通行人はみな衛兵に軽く見せて通っていく。
これが無いと賞金首でないかの確認などで時間がかかるそうだ。
「悪いが持っていなくてね、そうだちょっとこっちを向いてくれるか」
そう言うと近くの衛兵が俺の方を向く。今だ、吸血鬼の技能の一つ《魅了》を発動する。視線を合わせた人間一人を操る能力だ。
あっさりと門は通ることができた。大通りを進んでいくとまさにファンタジーといった中世風の町並みが広がっていた。地面は石畳で整備されていて建物は殆どが四階建てか五階建てと大きい。
外壁という土地の制限があるから縦に広げるしかないのだろう。
さて、街についたらやることはある程度道中で決めていたから行動するとするか。俺が一人で好き勝手に暴れて虐殺してもすぐに国から騎士団が出てくるだろう、さっきと同程度かそれよりも上の実力を持った騎士が隊列を組んできたらさすがに厳しい。
なによりも魔術師が心配だ。連中は数がとても少ないが一人で数人分の戦力になる。
そのためにもまずは仲間…いや部下が必要だ。俺に忠実な兵隊を集めて組織を作らないといけない。俺がある程度好き勝手にしても黙らせられるくらいの影響力が欲しい。
さぁ、やることが一杯だ。これからのことを考えると自然と笑みがこぼれた。