13話
祝2000PV突破!!
慌ただしく準備をしたダリア君を連れて部屋を出ようと廊下への扉を開けるとそこにはフランクの部下達が待ち構えていた。
「何処へ行かれるので?」
「…」
俺は無言でドアを閉めると自室に戻った。ちくしょう、フランクの部下には賄賂も脅しも効かないから厄介だ。
「諦めましょうよ、フランクさんとこの人達って何か怖いし」
ダリア君は逃げ腰に俺に敗北を勧めてくる。俺は何とか別の方法は無いかと部屋を見渡すと丁度人一人通れるくらいの窓が目に入った。
窓を開けて外を見ると裏路地に面していて人通りは少ないし、地面までは数階分の距離しかない。
「ダリア君、俺について来るんだよね?」
「勿論ですよ」
「何がなんでも?」
「何がなんでも」
頑なについてこようとするダリア君をこのまま置いていくのも可哀想だろう。俺が逃げたことを知ったら怒られるのはダリア君だしな。
「オーケー、君の覚悟はよく分かった!」
俺はダリア君を素早くお姫様抱っこすると、窓を蹴り開けてそのまま外にダイブする。
「えぇぇ!!?ちょっ、ボスゥゥゥウ!!?」
ダリア君の悲鳴が耳元で響きながら俺は地面に着地した。多少の衝撃がくるが俺はともかくダリア君に怪我は無いようだ。
ダリア君は涙目になりながら縮こまってプルプルと震えている。まるで小動物のようだ、冒険者としては度胸が足りないと思うのだが。
少し大きな音がしたが部屋の音を聞くかぎりフランクの部下にはバレていないようだ。ダリア君を降ろしてコートの襟を直す。
「さぁ、ダリア君行くぞ!夜までには戻ってこないとセレスト達に怒られるからな」
「は、ははいボス。すみません腰が抜けちゃって」
ダリア君は地面に座り込んだまま動かない、本当に腰が抜けてしまったようだ。
このまま置いていってもいいのだが見た目が良い彼を昼とはいえスラムの裏路地に放置するのは良くないだろう。世の中には特殊な趣味を持った人間というのもいるものだからな。
「はぁ、ほら掴まれ。急がないと置いてくぞ」
ダリア君が差し出した俺の腕をとって、なんとか立ち上がるが上手く立てないのか俺の腕に抱きついたままだ。
端から見たら羨ましい状況に見えるだろうがダリア君も冒険者だけあって服の下は筋肉質な体がある、腕に伝わってくる感触は一言でいうとゴツい、だ。
「しゅ、しゅみませんボス…」
流石に泣きそうな顔を見て離せとは言えず、そのまま歩き始める。しばらく裏路地を進みアジトから離れた所で大通りに出た。
酒場や娼館がちらほらとあるが、まだ昼間ということでどこも『close』の札が下がっている。
すると前から憲兵が歩いてくるのが見えた、流石に俺の顔が知られている事はないだろうが警戒するに越したことはない、俺はダリア君を抱き寄せて恋人同士を装いながら憲兵とすれ違う。
鋭い視線を感じるが問題なくすれ違うことができたようだ。
「あ、あの…」
横を見るとダリア君が顔を真っ赤にしながらか細い声をあげていた。
おい、何で紅くなるんだ。俺にそんな趣味は無いぞ。
「上手く憲兵を誤魔化せたようだな」
俺の言葉で状況を理解したのかパッと腕からダリア君が離れた。どうやらもう一人で歩けるようだ。
さて、これからどうしようか。ぶらぶらと大通りを進むと道の途中に人だかりが出来ているのが目にはいる。
喧嘩だろうか、と思いながら向かうとガラの悪い男が少女の腕を掴んで怒鳴り付けていた。
「おいクソガキが!俺は『夜の血族』のザンバノ様だぞ、ぶつかっといて詫びもねぇのか!!?」
スラム街では日常茶飯事の揉め事だ。だが相手は幼い少女の上にその子は目に包帯を巻いている、どうやら目が見えないらしい。
「おい、誰か止めてやれよ」「無理だよ、今の聞いただろ。スラムを仕切ってる犯罪ギルドだぞ」「あんなガキ相手にひでぇな」
野次馬どもは騒いでいるが止める気は無いらしい。
俺はザンバノといった男を観察するがどうにも見覚えが無い、幹部連中の直属の部下にしか接しないから末端の人間の顔を覚えていないだけという事もあるが。
「なぁ、ダリア君。あいつ見覚えある?」
俺はダリア君に聞いてみるが彼も男に見覚えが無いのか顎に手を当てて悩んでいる。
どっちにしろ俺が止めるしかないだろう、俺たち『夜の血族』はただのチンピラ集団じゃなくマフィアだ。島では揉め事を起こさず解決するのが仕事だ。その見返りとしてスラムの住人はみかじめ料やショバ代を払っているのだから。
野次馬を押しのかながら騒いでいる男のもとへ向かう。俺の深紅のコートを見た連中が慌てて道を空けてくれた。
「よぉ、お兄さん。昼間っから威勢がいいねぇ」
俺は片手をあげながらフランクな口調で話しかける。
「あぁ!?なんだてめぇは!!」
「ありゃ?俺の顔知らない??」
「知るわけねぇだろ!馬鹿にしてるとてめぇも殺るぞこらぁ!!」
俺はこれでも賭博場や娼館、酒場など組織が経営している店によく顔を出している。金貸しに至っては数回取り立て業務も暇潰しにしたことがある。なのに俺の顔を知らないどころかこの深紅のコートを見ても無反応とは。
「おいおい、お前こそ馬鹿にすんなよ。人のシマ荒らしてただで済むと思ってんのか?」
「あぁ?」
距離を詰め、男の首を掴んで《魅了》を発動する。そのまま眠らせると男は地面に倒れ込んだ。
「はいはい、みなさん解散ですよー。とっとと散ってくださーい」
手をパンパンと叩いて周りの野次馬に散れと合図すると、全員すぐさま居なくなってしまった。スラム街の住民は逃げ足が速いな。
俺は何が起きたか分からず混乱している少女の手に硬貨を何枚か握らせる。
「お嬢ちゃん、お駄賃をあげるから今日はもうお家に帰りなさい」
「怖い人、もういない?」
「あぁ、悪者はお兄さんがやっつけたからね」
少女は俺にお礼を告げてよたよたと歩いていった。
「ボス、こいつどうします?」
ダリア君が眠りこけている男を足で小突く。彼の目は「指示があればいつでも首をはねますよ」と語っている。
見た目が中性的なダリア君だが犯罪ギルドの片棒を担いだ現役の冒険者だけあって荒事に臆する事は無い。
「もちろん見せしめになって貰うさ、俺らの名前使って勝手な事したらどうなるか分かるようにな」
太陽が沈みかけて辺りが薄暗くなってきた夕刻。俺が自室でダリア君と小説を読んでいると部屋にショーンが訪ねてきた。
「ありゃ?」
不思議そうな顔で俺とダリア君を見つめている。
「おい、坊主。ボスはちゃんと一日部屋にいらっしゃったのか?」
ショーンがダリア君に訪ねるとダリア君は自然な表情で頷く。
俺はそれを見てさも不思議そうな顔を作ってショーンの方を向いた。
「どうしたんだ?」
「いえなに、先ほど川の辺りで死体が見つかりまして」
「ここいらじゃ珍しくないだろ」
「それが太い木の杭でケツから頭まで生きたまま串刺しにされたみたいでして」
「俺は今日はずっと部屋にいたぞ、廊下のフランクの部下達に聞いてみれば分かる筈だ」
「へぇ、失礼しやす」
ショーンはそう言って部屋を出ていった。俺はダリア君の方を見てウィンクすると彼は少し驚いた表情で親指をたてて返してきた。




