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11話


倉庫を出ると入り口の脇に外階段を発見した。周りの建物を見る限りどうやらここはスラム街の外のようだ。だがここまでは予想通りなため慌てはしない。そもそもスラム街全域にわずか二月程で支配権を広げた『夜の血族(ミディアンズ)』を敵にしようという人間も組織もスラムにはもう存在していない。


外階段の先は倉庫の二階部分に繋がっているようだ。窓からは明かりが漏れている。耳を澄ませると二階からは複数の人間の心音が聴こえる、それと一緒に金属音もするのでおそらく武装しているのだろう。


「早めに済ませないと憲兵に通報されるな」


ここはスラム街の外だ。今までのような治外法権地域とは違って法律とそれを遵守させる憲兵隊がいる。さすがにまだ貴族、しいては国を相手どれる程の影響力も兵隊もいないため憲兵とやりあうのは避けたい。


俺は緩んでいたネクタイを絞め直すと階段をゆっくりと上がっていく。


そして、ドアに思いっきり蹴りを叩き込んで蝶番ごと木の板を吹き飛ばした。静かにやるのはしょうにあわないし、何よりもストレスが溜まるからな。


「な、何だてめぇ!どこのギルドの(もん)だッ!!」


「夜の支配者だよ、豚ども♪」


中にいた男達は口々に俺に罵声を浴びせながら剣を構える。


べちゃくちゃ喋る暇があるんならとっとと斬りかかってくればいいのにアホとしか思えない。フランクなら俺がドアを蹴破った瞬間クロスボウで射つか、投げナイフを投擲してくるだろう。


「ほらほら俺は丸腰だぜ、何ビビってんだ?」


にやにやと笑いながら大袈裟な仕草で武器を持っていないことをアピールすると一番近くにいた男が剣を振りかぶって向かってきた。


「死ねやぁぁぁぁ!」


セレストの冒険者やフランクの元軍人達に比べたら失笑するしかない腕前だ。


軽く体を反らして剣を避けると同時に男の頭を掴んでそのまま膂力に任せて捻切る。ゴキンという乾いた音とブチブチという筋繊維が千切れる音がやけに大きく聴こえる気がした。


首を失った体は切断面から噴水のような血を吹き出しながら床に倒れ落ちる。


俺は生首から滴り落ちる血を貪るように飲むと真っ青な顔をして固まっている哀れな豚どもに視線を向ける。


「アハハハッ、クッソ不味いな♪柄の悪さが味にもでてる」


俺の軽いジョークにクスリともせず、男達はやけくそになった表情で武器を構えて突っ込んできた。







現実では決死の覚悟を決めようとも、漫画のように怪物を倒してハッピーエンドとはいかないものだ。


それが主人公でもない脇役どもともなれば体のよい盛り上げ役としての役割(ロール)しか使い道は無いだろう。


だが、俺はゴミの分別もしっかりしてリサイクルする男だし、料理するときも野菜の皮や葉っぱなども捨てずに調理する。


まぁ、何が言いたいかと言うと俺は利用できるものは利用するということである。


「さて、よく分かってくれたかな。俺はお前が役に立ってくれると信じている、だから期待を裏切らないでくれよ♪」


唸り声をあげるのは先程、俺を殺そうとしてきた男達の最後の一人だ。そこら辺に転がっていた椅子に縛って猿轡を嵌めさせている。そして、こいつ以外の残りの連中は全員部屋中に散らばっている。勿論バラバラの状態で。


俺は皆殺しにせずに敢えて一人だけ残しておいた。


木箱の隙間から見ていたが、襲撃の実行犯は足のつきそうな物は一つも身につけておらず、気配の消し方や襲撃までの流れを見る限り全員手練れだと分かった。


だが強奪した荷物を管理していたのはチンピラ同然の雑魚どもだ。今までの襲撃犯と別物かとも考えたが先ほどの倉庫の中には前回奪われた妖精の死骸などもあった事から違うだろう。


その疑問を解決するためにこいつを生かしておいたのだ。本当は《魅了》を使えば自白剤いらずで洗いざらい聞き出せるのだがそれだとちょっと風情に欠けるからな。


「さあ、先ずは最初の質問だ。お前達の所属しているギルドは?」


男の猿轡を外す。男は顔を青ざめさせながらも震える声で俺に怒鳴ってきた。


「ざ、ざけんじゃねぇぞッ!この化け物め、とっとと殺しやがれッ!!」


まぁ、この反応は想定内だ。けれど、ここからが楽しい時間だ。


俺は人の肉など簡単に切り裂ける鋭い爪をゆっくりと男の左目に近づける。そのまま涙袋をツツっと軽くなぞってやる。


「前から疑問だったんだが、人間って眼球を抉られるとき、どの瞬間まで視力があると思う?眼球が眼孔から抜き取られる時?眼球の視神経が千切れる瞬間?それとも完全に引っこ抜かれた後も数秒ぐらいなら見えてるものなのかなぁ?」


俺がやろうとしている事が分かったのだろう、男は悲鳴をあげながら指先から逃れようと必死で暴れる。


「分かった!しゃ、喋るからやめてくれ!!」


「いいねぇ!素直な事は良いことだよ、嘘を吐くと目やら舌やらを引っこ抜かれるとも言うしねぇ」


男は涙目になりながら自分の眼球かわいさにべらべらと喋り始めた。


なんでもこいつらは『血濡れの乙女(ブラッディ・メイデン)』というギルドの連中だそうだ。この街の色街を取り仕切っている連中だそうで『夜の血族(ミディアンズ)』が力を勢い付いてきたから潰そうとしてきたらしい。


俺達のギルドがスラムの外への影響力をつける前に潰したい奴らは多いらしく襲撃犯は他の組織の奴らだそうだ。なるほど闇ギルド同士で同盟を組んだわけだ。


他の組織の手を借りてまで潰したいかとも思ったが、この世界の犯罪ギルド・闇ギルドと呼ばれる連中は、メンツを重んじるヤクザよりも、利益の為ならメンツなんぞ犬に食わせろという思考を持った海外マフィアに近い。将来的に俺達が与える損害を考えれての行動って訳だ。


「なぁ、俺が知ってることはこれで全部だ。他の組織の事は知らされてねぇんだよ…上からは運ばれてきた荷物を管理しろってだけで……」


男はすがるような視線を俺に向けてくる。まぁ嘘では無いだろう。こいつはどう見ても末端も末端の下っぱだ。


「ああ、ありがとう素直に話してくれて嬉しいよ」


俺がにっこりと優しく笑いかけると男も安心したのか肩の力が抜けたようだ。どうやら解放して貰えると勘違いしているらしい。


「後は喋らなくていいぞ、ここからは尋問じゃなくて俺の探究心を満たす為のただの実験だからな!」


男の頭を掴んで指を眼球に近づけていく、何をされるのか理解し必死で逃れようとするが、俺がガッチリと押さえてるんだ逃げられる筈が無い。


数秒して男の絶叫が部屋に響き渡った。











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