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後編

16時投稿分です。

最終話‼︎


『我が名は、ライ・コーンウェル。聖女の神託の元に、異端たる転生者を始末する』


 ライのその言葉に、アレクセイはもう自分は逃げられないのだと悟る。

 自分は先ほどの攻撃で右足に重症を負っている。

 その状態で、フルメイル着用で追いついてきたこの俊足の騎士から逃げられるとは、到底思えなかった。

 種明かしをするのなら、この甲冑は聖教会の秘匿する特殊金属に特殊な加工をして作られたモノであり、羽の様に軽く、それでありながら強度は従来のモノと変わらないという代物であった。

 この装備が、粛清騎士の強さの一端を担っているといっても過言ではない。


「アイツらに【黄昏の獅子団】再建を託された身としては、ここで死ぬわけにはいかないな」


『命乞いは、無意味だ』


「まさか。命乞いなんかじゃないさ。ただ、最初にアンタに一言謝っておこうと思ってな」


 そういって、彼は腰に巻き付けてあったホルスターから、6本の短剣を抜き取る。

「これから、俺はちょっとズルをするんでな!」


 その瞬間、彼の眼に宝石のような光が宿る。

 宿った光を見て、ライは警戒を濃くし盾を構えなおす。


『やはり、異能チート持ちだったか』


 異能チート

 それは、転生者が稀に持っている生まれながらの特殊能力。

 空を飛ぶ、炎を操る、時を止めるなどの荒唐無稽な絶対権能。

 アレクセイは、その稀な異能持ちであった。


「――踊れ、剣の舞(ブレイド・ダンサー)


 その声に合わせて6本の短剣が、彼の手を離れ宙を舞った。


『さしずめ、刀剣類を自在に操る異能チートといったところか』


「敵に答える訳ないだろ。団長たちの仇、取らせてもらう!」


 アレクセイのその声に合わせて、6本の短剣が空を走る。

 直進してきたソレを、ライは盾で弾くが、弾いた短剣は空中でもう一度態勢を立て直して襲い掛かる。

 それどころか、全方位に散らばった短剣は、それぞれが多角的にライに襲い掛かった。

 数分間の一方的すぎる攻勢。

 それをさばききるのみで、ライは一切アレクセイに近づくことができずにいた。


『――』


 次の瞬間、何故かライは盾と共に短剣を払うのに使っていた片手半剣を、盾に納刀した。

 そして、飛来してきた短剣の内の一本を空いた右手でつかみとると、刃を下にして地面に叩きつけ、刺したソレを上から踏みつけ更に深く地面に突き刺した。


「なっ!?」


 この行動に驚いたのは、アレクセイだ。

 動揺したアレクセイは、その隙を突こうと次々に刃を差し向ける。

 しかし今度は盾をも地面に投げ捨てたライは、次々にその刃を捕まえては地面に刺していく。

 そしてここで、アレクセイも気が付く。

 こんな短期間で、自身の異能の弱点をみやぶられたということに。


『短剣の動きを見てわかった』


 ライはそう言って、最後の短剣を捕まえ地面に刺した。


『この短剣上下左右と前方には、動かせるが、真後ろには動かせないだろう』


 事実、地面に刺された短剣は操ろうとしても、まったく動かなくなっていた。


「そ、そんな馬鹿な! こんな短時間で俺の剣の舞(ブレイド・ダンサー)の弱点を見切るだなんて!?」


『十五人』


 ひどく動揺するアレクセイに、ライは端的にある人数を答えた。


「え?」


『十五人。それが僕が今まで殺した異能持ちの転生者の数だ。何もない一般人を倒してばかりいたお前とは場数が違う』


 そういって、ゆっくりと動けないアレクセイに近づくライ。

 キッとそのライを睨みつけるアレクセイ。


「俺が、俺たちが一体何をしたっていうんだ!!」


『何もしていないのだろうな』


 アレクセイの叫びをライが、そう一蹴する。


『だが、何かをするかもしれない。だから、何もしていないうちに、殺す』


 そして無慈悲にライは告げる。

 お前の罪は、生まれたことだと。

 ライの脳裏には、焼き付いているのだ。

 力に溺れた転生者が起こした、自称革命軍に焼き払われ略奪の限りをつくされた故郷の姿が。

 ゆえに、ライは粛清騎士となった。

 これ以上、自分と同じ境遇の子供を生まない為に。

 ――そして、自身の中で猛り狂う暗い衝動を満たす為に。

 ライは、逃げることのできないアレクセイの首に手をかけ、力を込める。

 ギリギリと締まる首に手をかけ必死に抵抗するアレクセイだが、鍛え上げられたライの握力は万力のように強く引き剥がすことは到底できそうになかった。

 酸欠で薄れゆく視界の中で、アレクセイはライの肩越しに、あるモノを見つけた。

 それは、オオカミが魔物化した魔狼という凶暴な魔物で、大きさは優に4mは超える巨大な影が音もなく近づいてきているところだった。

 その存在に、ライは気が付いていない。

 薄れゆく意識の中、アレクセイは心の中でほくそ笑む。

 今ここで自分は殺されるだろうが、殺す貴様にも明日はないぞライ・コーンウェル!

 そう最期に心の中で勝ち誇って、アレクセイはこと切れた。

 そして、音もなく忍び寄った魔狼が、ライの首筋にめがけて飛びかかったのもほぼ

同時だった。

 ライは、背後の魔狼の存在に気が付いていない。

 哀れ、粛清騎士ライの命運はここで尽きた。










 ――俺が、いなけりゃな?


 そういって傍観者兼語り部に徹していた俺は、重い腰を上げる。

 なんとまぁ、手のかかる相棒だなっと。

 そんなことを考えながら、俺はライの意識を乗っ取り、肉体の主導権を奪う。

 牙を剥いて飛び掛かってきた魔狼の顔面に、振り向きざまに回し蹴りをぶちかます。

 顎の骨が砕ける音がして、魔狼が地面に転がる。

 その隙を見逃さず、俺は瞬時にさっきライが投げ捨てた剣と盾のもとに走り、剣を抜くとすかさず投擲。

 寸分たがわぬ精度で、魔狼の眉間にぶっ刺さり絶命さしめた。

 一仕事終えた俺は、兜を脱いで一息をつく。


「ふう、流石に今のは危なかったな。読心の異能持ちの俺じゃなかったら死んでたわ」


 そう、粛清騎士ライことライ・コーンウェルは、転生者である。

 ただ、他の転生者と違う点が二つある。

 一つが、今世の人格であるライと、前世の人格である俺が完全に分離しているという点。

 二つ目が、俺がライのことを心底気に入っていて、肉体と人生の主導権を完全に譲っているという点だ。


「まぁ、ライが危ない時だけは流石に助けに入るけどな」



 俺は、ライという主人公を心底気に入っているのだ。

 だからこそ、普段はライのなかで物語を見ているだけ。

 無論、ライ自身は自分が転生者であることも、俺という人格があることも知らない。

 ソレが多分、いや絶対アイツにとって幸せだろう。


「だから、これからも頼むぜ相棒。面白い人生を見せてくれな?」






 この物語は、聖教会の戒律を守護する粛清騎士ライの――いや、ライ・コーンウェル(オレタチ)の道化じみた復讐の人生ストーリーである。






以上で、一先ずの完結です。

読んでいただき、ありがとうございました。

もし、この物語をもっと読みたいとお望みの方がいらしたら、評価等をお願いします。


それでは、機会があれば、またどこかでお会いしましょう。


ーーーーーー

※追記4/22

反響が良かったので、来月連載化します。

連載開始したら、こちらでもお知らせしますので、ブクマ外さないようにお願いします!

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