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プロローグ

連載試作品です。


評価反響があれば、連載作品化したいのでよろしくお願いします!



 それは、眩いばかりに満月の輝く明るい夜だった。

 

「はぁ、はぁっ! クソっ、俺が、俺たちが何をしたっていうんだよ!?」


 ルバウス王国の西方にあるカイウスの森にて、その男は鬱葱としたその森の中を全力で疾走していた。

 だが、その男の様子は尋常ではない。

 いくら月が明るかろうと、このような日が落ちた時間に、魔物――邪神・邪精霊の加護を受けて変異した動物――が住まうカイウスの森を疾駆するという事情も尋常ではないし、その青年の容貌が、銀の髪に赤の瞳、そして高い身長と端正な顔立ちという、神に祝福されたかのような尋常ではない美貌を持っていたこともそうだ。

 しかし、なにより尋常ではないのは、彼の走る速さであろう。

 暗く、木の根や陥没などの凹凸の多い、走りにくいその森の中を、彼は100m4秒という普通の人間ではありえない速度で走り抜けていく。

 神に祝福された美貌、神に愛された身体能力。

 そんな、天に二物を与えられた傑物たる彼――傭兵団【黄昏の獅子団】副団長 アレクセイ・クラッツヴァーリは、必死の形相でひた走る。


「死にたくない、死ぬわけにはいかない!!」


 アレクセイは、ただの人間ではない。

 別世界での前世記憶、そして異能(チート)を保持する転生者であった。

 没落貴族であるクラッツヴァーリ家に生を受けた彼は、前世で得た賢さゆえに出来の悪い弟にそうそうに家督を押し付け奔走、新進気鋭の傭兵団【黄昏の獅子団】に入団し、持ち前の身体能力と異能(チート)を武器に、着々と頭角を現し18歳という若さで副団長という役職に収まった。

 勝ち取った信頼は厚く、豪気な団長とゆかいな仲間たちとの騒がしくも素晴らしい日々がこれからも続くのだと思っていた。



 ――そう、あの騎士が来るまでは。


「――っ!」


 突如、木の根に足を取られたアレクセイは派手に転ぶ。

 しかし即座に体制を立て直して、受け身を取り即座に立ち上がろうとしたその瞬間だった。

 ひゅんっという空気を切り裂く音と共に、何かが高速で飛来し、立ち上がろうとして立てたアレクセイの右足に突き刺さる。


「がぁああああああ!!」


 それは、片手半剣。

 世闇に如く光を吸い込む黒い刀身を持つ、特殊な加工が施された剣だ。

 アレクセイは、この剣を使う剣士――いや騎士を一人しか知らない。

 そう、あの騎士だ。

 アレクセイの仲間を皆殺しにした、死神。

 瞬間、闇の中から夜空を彷彿とさせる濃紺の甲冑を纏った騎士が現れ、その手に持った剣と同じ加工が施された黒い盾を振りかぶる。

 咄嗟に腰の短剣を抜き放ったアレクセイは、首を反らしその短剣を用い抜群の動体視力をもって黒盾の打撃を受け流す。

 その打撃を受け流した直後に首を戻した瞬間、アレクセイの顔面に騎士の膝蹴りが突き刺さる。


「がっ!?」


 勢いよく突き刺さった膝蹴りにより、アレクセイの上体が反り、その首が騎士の前にさらけ出される。

 騎士が先ほど足止めの為に投擲し、右足を縫い付けた片手半剣を瞬時に抜き取り、その首を迷わず刈り取ろうと振るう。

 殺意と危機を本能的に感じ取ったアレクセイは、顔面殴打で飛びそうになった意識をギリギリのところで呼び戻す。

 剣を抜き去ったことで、再び自由になった右足を倒し、身体全体の軸をずらすことで、さらけ出した首を振るわれた剣閃の絶死圏から逃す。

 そのまま仰向けの状態から左足をばねのように縮め、騎士の腹部にめがけて蹴り上げる。


『――!』


 騎士はその蹴りをもろに受け、そして数歩後ずさる。

 その隙に、急いで距離を取り、もう一本の短剣を抜き、態勢を耐えて直し構えながら向き直る。

 もう逃げきれないと悟った彼は、ここで黒騎士からの逃走から撃破する方向性にシフトした。


『あの時』


「あ?」


 そこで一言、初めてその騎士が言葉を発した。

 声色は、思いの外若い少年のような声をしていた。


『あの時、あの名前を出した時、団員の中でお前だけが反応が違った――お前が、転生者か』


 黒騎士の声色に、アレクセイの背筋が凍る。

 その声には、底知れない憎悪が含まれていた。


「だ、だとしたらなんだ!?」


『その言葉、肯定とみなす』


 黒騎士はそうして盾を前に構え、剣を盾の影に隠すような独特の構えを取る。

 その構えに隙は無く、黒騎士が踏んできた場数が、尋常ではない事を彷彿とさせた。


『我が名は、ライ・コーンウェル。聖女の神託の元に、異端たる転生者を始末する』


 決意に満ちた厳かな声色で、黒騎士ライは、アレクセイにそう死刑宣告を告げた。








前編を今日12時、後編を16時に投稿します。


全三部、一万字の予定です。

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