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傘を差す女

 

 Rさんが高校生の頃、たった一度だけ体験した話。


 その日は試験期間中で、昼過ぎには家の近くまで帰ってきていた。雨の中、人気の少ない昼の路地を歩いていると、突然、傘がRさんの目に飛び込んできた。大きな、頑丈そうな傘だ。


 もちろん傘だけがぽつんとあったわけではない。ちゃんとそれを差している人物が居たのだが、先に傘の方に目が引きつけられた。それほど大きくて立派な傘だった。


 持ち主は、どうやら女性のようだった。真新しいスーツに身を固めている。俯きがちなので顔は見えないが、身体の線や服装からまだ20代前半だろうと思われた。片手でスマホを構えて、道路の端で立ち止まっている。


 道を確かめているのだろうか。Rさんはその程度に思い、横を通り過ぎた。しかしすぐに、奇妙な点に気付き、思わず振り返った。女はまだ立ちすくんでいる。


 スーツの女は、不自然にずぶ濡れだったのだ。ブラウスやスカートはひどく水を吸い、肘からは雨水がしたたっていた。


 それもそのはず――よく見れば、大きな傘を差しているにも関わらず、パンプスのすぐ横の地面では雨粒が跳ねていた。まるで、雨が傘をすり抜けているかのように。真っ暗なスマホの画面にも、絶えず水滴が打ち付けられている。


 女が徐々に振り向きつつあるのに気付き、Rさんは慌ててその場を立ち去ったという。






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