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列車遅延

 

 駅で列車の遅延情報を聞くたびに、Cちゃんはある夏の日の、先輩の横顔を思い出す。




 その日。大学から家に帰る駅のホームで、Cちゃんはサークルの先輩と鉢合わせした。彼は気が短いことで有名で、Cちゃんもあまり近付きたくはなかったが、挨拶をしないわけにもいかない。


 しかも間の悪いことに、列車がひどく遅れていた。人身事故ということだった。Cちゃんは先輩と並んで、電車を待つ間の数十分を過ごすことになった。


 蒸し暑い日のことだ。短気な先輩はさぞイライラしているだろうとCちゃんは横顔を窺ったが、意外にも苛立ちや焦燥といった感情とは無縁の表情をしていた。どこか涼しげですらある。


「俺が苛ついていないのが、不思議か」


 彼は出し抜けにそう言った。Cちゃんはほんの少し逡巡した後、控えめに頷いた。先輩は気を悪くした様子もなく、こんなことを話し始めたという――。


 ある時、夢を見た。知らない駅で、電車を待っている夢だ。構内アナウンスでは、人身事故の影響で列車が遅れている旨を放送していた。


 しかしそのうち、おかしな事に気が付いた。自分の目線が、ホームを見下ろすような形だったのだ。不自然に高い位置から、あちこちに散らばった遺体を片付ける係員を眺めていた……。死んだのは自分だったと気付いたところで、彼は目を覚ました。


「今でも俺は短気だ。自覚もしている。だけどそれ以来、不思議と、遅延の放送を聞いた時に限っては苛つかなくなったんだ」


 よく見れば、先輩の横顔は悲しみを湛えているようでもあった。もしかしたら、表情といい、意味深な夢の話といい、それらは何らかのサインだったのかもしれない。


 Cちゃんは、数日後に行われた彼の通夜の席で、そう悔やんだという。






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