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深夜の救急搬送
Tさんの趣味はランニングだ。それも、誰もが寝静まる深夜の1時ごろに走るのが、好きだった。
田舎の夜は静かだ。自身の足音さえも、周囲の闇に吸い込まれていくような、そんな錯覚を覚える。
ある病院の前を通りがかった時、そこへ救急車が入っていくのを見かけたという。サイレンを消して、赤いランプだけを回しているのは、深夜ゆえの配慮か、それとも――。
やけにゆっくりと救急外来の前に停止した、その光景を頭から追いやるように、Tさんは再び走り出した。なんとも言えない、もやもやした気持ちを抱えながらも、Tさんは心の中で手を合わせた。
その病院が、数年前に潰れたばかりだったことをTさんが思い出したのは、家に帰って、シャワーを浴び始めた時だった。