長かった
Hさんは友達に勧められて、いつもは行かない大学近くの小さな散髪屋に入った。
椅子が二台しかないところで、短い髪の、それも毒々しい赤色の髪のお姉さんがいた。噂に違わず美人だった。と言うのも、美人の店員がやっているという理由で勧められたのだった。
店員の顔を見られただけでHさんは満足していたが、これが腕もなかなか良い。小気味よいハサミの音とともに、体の正面に広げられたシーツにHさんの髪の毛がパラパラとたまっていった。
Hさんは気持ちがよくなって、目を閉じた。するとしばらくして膝に何かが触れた。店員の位置からして、太ももが当たっているらしかった。ジーパン越しからでも、やわらかい感触が伝わって来た。
少しタイプの女性だったので、Hさんは目を閉じながらドキドキしていた。その間も頭の上でハサミは動き続ける。
ふと、疑問に感じることがあった。今やハサミは移動して頭の後ろの方を切っているのに、太ももはまだ押し付けられている。かなり無理な態勢をしていることになる。いや、押しつけられている感触に全く変化がないのだ。まるで、そこでじっとしているように。
ぞっとして、目を開けた。と同時に、後悔した。何かがいたら、どうするつもりだったのか。
しかし見たところ何もいなかった。おかしなところもない。鏡を見ると店員はHさんの後ろに立っていた。目が合うと、微笑みをくれた。
Hさんはしかし、はっと思い当たって、再び膝のあたりに視線を向けた。
シーツには、Hさんの短い毛髪に混ざって、一筋の黒髪がへばりついていた。