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踏切
誰もが寝静まったような静かな夜、Kさんは残業帰りの家路を急いでいた。
ある住宅地の踏切にさしかかった時、ちょうど電車につかまった。誰も居ない暗い踏切を、ゆっくりと明るい電車が通り過ぎて行く。終電だろうか。乗客の姿もほとんど見えなかった。
遮断機が上がって、Kさんは踏切を渡った。ふと、渡りきったところに小さなお地蔵様があるのに気付いた。お供え物が灯に照らされている。それと――。
その時、不意に気配を感じて、Kさんは振り返った。踏切を渡って、向こうへ歩いて行く少女の後ろ姿があった。髪を結んだ白いリボンが印象的だった。
こんな夜中に一人で歩いて、危ないだろう。怪訝に思いながらも、Kさんはまた地蔵様を見て、はっとした。前掛けのように、白い布が巻かれていた。古くなってすり切れているが、それはかつてリボンだったと思えた。
また振り返るが、少女は遠く、闇の中へ消えていった。
そういえばあの子と、いつすれ違ったっけ? と、Kさんは思った。




