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栞
Nはある特技を持っていた。
本をパラパラ漫画の要領で素早くめくっていくと、必ず特定のページで止まるのだ。それも、何度やっても同じ見開きで。まるで、そこに見えない栞が挟まれているかのようだった。
当然、本になにかを挟んでいるわけではない。癖が付いているわけでもない。実際、他の人間が同じ本をめくっても、どうともない。最後までパラパラとページはめくられ続ける。Nが本を開いた時だけ、あるページが開かれるのだ。
それは本によって固有で、ページ数はバラバラだった。真ん中辺りで止まることもあれば、すぐに止まることもあった。
もういつのことだったか、ある日Nは、そのなんてことの無い現象に規則性を見い出すため、妻子を捨て、ついに人生をかけた探究を始めた。