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トリ蛙
Rさんの地元では、トリ蛙という迷信が伝わっている。
腕時計がいつの間にか左右逆の手に付け変わっていたり、ミサンガが逆の足首に付いていたりすると、それはトリ蛙の仕業だという。左右を「取り替える」から、トリ蛙。
ある時Rさんは、道端でトリ蛙を見てしまった。トリ蛙自体はすぐにどこかへ跳ねていったが、Rさんが急いで手首を見ると、確かに時計が反対の手首に付いている。左腕に付けていたはずの腕時計は、右腕の方へ移動していた。
ははあ、あれがトリ蛙か……感心してもう一度時計を見ようとしたRさんは、右手の甲の右側に親指、左側に小指が付いているのを見て――取り替えられたのは、手首ごとだったのだと気が付いた。