印刷室
Tさんの勤め先の印刷室は、いかにも古びており、印刷機も、しょっちゅうエラーが出ると言うことで、すこぶる評判が悪かった。
ある時、Tさんは夜遅くまで印刷室に籠り、上司から押しつけられた資料の印刷をしていた。次々に排出される紙を、ぼんやりと眺めているうちに、ある異常に気が付いた。
どの紙の端にも、黒い点の汚れが付いていたのだ。まさか、原版を挟んだ際にゴミが入ったか。うんざりしながらストップボタンを押そうとして、Tさんは、ふと手を止めた。
点が、急速に大きくなっている。気のせいではない。最初は鉛筆で突いたような点だったのが、あっという間に大きくなり、紙面をほとんど覆い尽くすまでになった。
何が起きているんだ。Tさんは慌てながら、さらに気が付いた。黒いシルエットが、だんだん既視感を帯びてくる。それは、後ろを向いた女の、肩から上だった。
紙は延々と排出される。女は、こちらを振り向き始めた……。
Tさんは震える手でストップボタンを押した。
ビー!
途端に、その行為を咎めるような、不快な音声が鳴り響いた。印刷機からだった。
『紙詰まりを検出しました。排出ボックスカバーを外して――』
エラーメッセージが表示される。しかしTさんは、どうしても機械の中を覗く気にはなれなかった。
ビー!
再び、メッセージが表示される。
『ココカラダシテ』