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試験監督のバイト
ずいぶん前、Iさんが母校の試験監督のバイトに呼ばれた時のことだ。そのバイトにはもう何度も参加していた。
その日最初の科目の際、用紙を全て配り切ってしまったので、Iさんは首を傾げた。乱丁があるといけないから、一部だけ多く持っていくことになっていた。一人分余るはずだ。まさか用意する時、数え間違えたのだろうか。
「先生」
一番後ろの席から声が上がった。ただの大学生バイトなのに、毎度のことながら、そう呼ばれるのはむず痒い。
「一枚余りました」
いや、やはり数は合っていた。そう思いその生徒のところへ向かいながら、Iさんはふと疑問を感じた。数が合っていたとなると、配る時に生徒の数を見間違えたことになる。
生徒から余りを回収して教卓に戻る途中、一つの机を見て、はっとした。どうして、今まで気付かなかったのか。
その列の机に、一つだけ空きがあった。さっきまで、確かに全員座っていた。だから一枚余ったのか。今はその机だけ誰も座っていない。
代わりに、机の上には、白い花が飾られていた。




