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主人公補正を求めた彼は、異世界に。  作者: 白川 文字
第一章 定番であり、お決まりの異世界ストーリー 8:2:0
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1-3 転∽生

 耳をつんざくような女性の悲鳴が街中に響いた。

 その悲鳴に反応して、既に日が沈み始めている時間帯にも関わらず窓を開け、路傍ろぼうに並ぶ露店から店主が次々と顔を出した。


 叫びの根元は、

 血まみれの青年──。

 青年は、数十秒間眼をぱちくりさせながら、辺りを見回す。

 そして、

 女性の悲鳴に続いて、青年も悲鳴ーーというよりは奇声を挙げた。




 しばらくして、タツキは少し落ち着いたところで、深く深呼吸をした。


 「さて、ここはどこだ?」


 タツキがそう呟くと、タツキ囲むというよりは、包囲するような距離感で警戒心をむき出しにしている人々が、よりいっそう睨みを利かせる。

 今一度、辺りを見回すがやはりその光景に見覚えはなかった。

 無造作に並べられたような石の道も、路傍に広がる簡素な露天も、変わった形の街灯もだ。

 知っている言葉で表すとしたら、中世ヨーロッパ風の街並みといった感じだろうか。

 しかし、そんな薄っぺらい知識だけでつらつらと狼狽ろうばいしていても、当然答えは出てこない。だったら、もっと視野を広くし想像力豊かに考えよう。


 そう、タツキはこういう状況を述べる際にもっとも、的確な言葉を知っていた。


 「これは……()()()()ってやつだな」


 十分とは言えない知識では、確定は出来ないがここが国外という感じはしない。

 街並みだけならヨーロッパの方でこういう国を見たことぐらいはある。

 しかし、服装を見るとやはり、タツキの生きている時代としては相応しくなかった。


 まぁとりあえず、異世界転生したと仮定しよう。

 問題はこれだ、どうするか。

 とりあえずは、この目の前にある状況を何とかしようと思う。

 客観的に今の状況を伝えるとこうだ、


 ある日の夕方、街の真ん中で血まみれの見たこともない服を着た青年が突然、ワープしてきた。


 一言で片付けるならば、事件だ。


 よって、まずはこの状況をどうにかしなければならない。

 言語の確認も踏まえて、まずは事情を説明するとしよう。


 うん、と軽く咳払いをすると、よく通る声で街の人々の気を引く。

 

 「えーと、皆さん。驚かせてしまい申し訳ありません、とりあえずお願いです、警察だけは呼ばないでください」


 顎をポリポリと掻きながら冗談めかして言ってみたが、伝わっていないのかキョトンとした顔を見合わせながら、フリーズしている。

 やばい、これだと頭残念な人じゃんか。


 「やっぱ、日本語が通じるのは二次元設定だけか……」


 諦めかけていると、手前の野菜を売り出している露天のハゲ頭を光らせた店主が、こちらと目があった。


 「あんた、世界樹ユグドラシルの人かい?」


 「え!?日本語通じる!?」


 そのナチュラルな店主の日本語に、当然のごとく戸惑いながら聞き返す。


 「おい、田舎だからって馬鹿にすんじゃねーぞ、今時日本語が分かんなきゃロクに商売もやっていけねーよ」


 そういうものなのか。

 少なくともこの国では日本語が共通言語ってことでいいのだろう。

 であれば、なにかと都合もいいか……と安堵で少しばかり体が軽くなったような気がした。

 と、ここであることを思い出す。


 「そういえば、さっきユグドラシルがなんとかって言ってましたよね?」


 タツキが聞き返すと、店主は大きく頷く。

 それを見て、どことなく申し訳なさそうに笑って聞く。


 「その、ユグドラシルってなんですかね?」


 数秒の沈黙を破り、店主はおろかタツキを睨んでた人々の間でザワザワと嘲笑混じりの罵倒が始まる。

 そして、店主も呆れたような顔で、タツキの顔を眺めて、


 「一回、病院行ってこいよ」


 呆れられるを通り越して、心配された。

 それとは別に病院と呼ばれる医療施設があることにも少し驚く。


 なるほど、ユグドラシルってのはそんな有名なものなんだな。

 そんな風に感心していると、俺を包囲している人々の奥から、高尚な声が挙がった。


 「──血まみれのそこの君、少し来てもらおうか」


 その声が聞こえた瞬間、先程までタツキのことを嘲笑していた人々は、押し黙るように口を閉じた。

 タツキもなんとなくその空気を読み、やや丁寧に聞く。


 「えっと……どなたでしょうか?」


 声の主が一歩進むと、サーッと人々は道を作った。


 道の真ん中を平然とした態度で歩く群青色の髪を靡かせ、金色のラインが引かれた甲冑の上に赤いマントを羽織り、

 豪華絢爛と呼べる立派な剣を腰に刺した青年は、金音をならしながら、すぐ目の前まで歩み寄ってくると、胸に手をあて、慎むように名乗った。


 「キャメロット王国、国家騎士4等級……ツルギ・セルレイ・アクセゼーテという者だ」


 国家騎士……。

 つまりは、位の高い騎士ということなのだろう。


 「その騎士様がどうしてここへ?」


 すると、ツルギと名乗った騎士は、タツキの血まみれの制服を指差してジト目で言い放つ。


 「その格好でよくそんなこと言えたね」


 そう言われ、タツキも生真面目な顔になり、


 「正論だな」


 かくして、タツキは、()()()()(()())()しておよそ十分で、国王護衛騎士とやらに事情聴衆を受ける羽目になった。


 ◆


 よいしょっと軽く呟いて、ツルギが椅子についた。


 「さてと、まずどうして君は、血まみれなのかな?」


 6畳ほどしかない小さな聴衆室で、机一つ挟んで事情聴衆が始まった。当然、両腕は手錠でしっかり固定されている。

 ツルギの質問にどうしたものだかと一瞬、神妙な顔を浮かべたが、これといっていい理由が思い付かなかったので、頭残念な人認定覚悟で正直に白状することにした。


 「……いや、信じてもらえないかも知れないんですけど、殺されたんですよ」


 反応は予想通り、ツルギはペンを持ったまま呆けたような顔をしている。


 「うん、えっと……じゃあ誰にどんな風に殺されたのかな?」


 ツルギは若干顔を引き釣らせながら、質問を続行する。

 あくまで、タツキの話を聞いてくれるようだ。

 ツルギ優しさに感謝しつつ、非現実的な内容に顔を赤らめながら説明を始める。


 「えっと……まず、左肩を刺されて、その後右腕を断ち切られて……首を落とされました……」


 思い出すだけで吐き気が襲う。

 いくら非現実的でも、事実である以上吐き気は誤魔化せなかった。


 「なるほど……その後どうやってここまで?」


 そういえば、どうやってここまで来たのだろうか。ワープしてきたという表現が正しいのだろうか。

 気がついたら当然のようにここにいた。


 「……すみません、思い出せません……」


 どう思い出そうとしても、そこの記憶だけスッポリと抜けるように、消えてしまっていた。


 「ふむ、一部記憶の損害も見られるね……」


 ツルギはメモを取りながら、至って冷静に分析する。

 すると、メモ帳とペンを机の上に置き、手を組み真剣な眼差しをタツキに向けた。


 それに気づいたタツキも、質問を待つようにツルギの顔を見る。


 「では君は一体、どこから来たんだい?」


 これはタツキも予想していた質問だった。

 どう答えればいいだろうか。正直に日本だと言っても、向こうからしてみれば謎が増えるだけである。


 これも記憶喪失で通そうとした瞬間、ツルギはもう一度質問した。


 「──聞き方を変えようか、君は日本という国から来た覚えは?」 


 その質問に、タツキは眼を見開き、開きかけていた口を紡いだ。

 ──日本を知っている……?

 一体、コイツはどこまで……いや、この国は何を知っている……?


 様々な考えが錯綜するがどれも今の少ない情報だけでは確定することはできない。

 正直に答えるべきなのだろうか。


 別に後ろめたいことがあるわけではない。

 だが、聞き方からしてコイツは日本人を探している。

 仮にタツキが日本人だと明かしたとして、その後どうなるかはわからない。


 ツルギは表情を一切、崩さぬままタツキを睨み続けている。


 どうすれば……。


 すると、


 トントンと扉を叩く音と共に、一人の少女が入ってきた。

 薄い赤い髪を腰辺りまで、伸ばし軽そうな甲冑を身に纏った美少女だ。 


 「ツルギくん、皇帝陛下がお呼びよ、ここは私が変わっておくから、そっちの用件を済ましてきて」


 少女は、淡々と述べ、ツルギは少女を不機嫌そうに睨む。


 「君って奴は……一応事情聴衆中なんですけどぉ?」


 そんなツルギの言葉を無視しつつ、ツルギから乱暴に椅子を奪う。


 「まったく乱暴だな君は、じゃあ少しだけこの場は任せるよ」


 「はいはい、行ってらっしゃーい」


 ツルギがぶつぶつ言いながら部屋を出ていくと、少女は椅子に足を組ながらドカッと座り込む。

 ありがたい救済措置ではあるが、彼女も国家騎士に一人なのだろうか。とりあえず、軽く挨拶をする。


 「えっと……はじめまして」


 「あら、始めまして、なに殺人犯にしては律儀ね」


 「いやいや、自分殺人犯じゃないですから」

 

 笑いながら間違いを訂正すると、少女はタツキの血まみれの私服を指差して呟く。 


 「よくそんな格好で言えたものね」


 「正論だな」


 なんとなくデジャブを感じながら、沈黙に耐えかねたタツキが、目の前で本を開こうとしている少女に話題をふる。


 「あの、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 すると、少女は本を読みながら、適当な自己紹介をしてきた。

 

 「私の名前は、ヴァエラ・クリーフ・フォールン。一応、国家騎士をやっているわ」


 あ、やっぱ国家騎士なのか。

 なんていう自己紹介の後に再び訪れる沈黙──本読みたいみたいだしーっと言い訳をつけて会話を終わらせようとすると、本の隙間からこっちを睨み、お前も名乗れと言わんばかりに顎をくいっとこちらに向けてくる。


 「あぁ、俺の名前は、黎条タツキ。一応、高校生をやっている」


 先ほどのヴィエラの自己紹介を真似て見たが、まったく興味を示すようすもなく、ヴィエラはつまらなそうな顔で呟いた。


 「なーんだ、やっぱり日本人じゃない……」


 その一言にタツキは、絶句した。

 しまった……。

 汚点だった。こんなつまらない冗談で、せっかく救われた命が無駄になるなんて……。


 「か……仮に俺が日本人だったら、一体どうなる?」


 冷や汗をかきながら、ヴィエラを睨むようにして反応を伺う。

 すると、ヴィエラは立ち上がり不敵な笑みを浮かべる。


 「さぁね、そんなの私の知ったことじゃないもの」


 スッと当然、本を閉じて立ち上がると、


 「さて、今日はもう遅いし今日のところは宿をとろうかしら」


 「え、なぜ突然?」


 意外な台詞にタツキが素っ頓狂すっとんきょうな声をあげて質問すると、ヴィエラは軽くニヤついて応答する。


 「貴方を探している方がいらっしゃるからよ」


 タツキが不思議そうに首をかしげると、ヴィエアは楽しそうに笑いながら言った。


 「皇帝陛下よ、皇帝陛下♪」


 

『キャメロット平和主義王国』

ランスロット・トリスタン・パーシヴァルという3つの都市からなる王国で国土の多くは海に面している。比較的温暖な気候で農業、漁業が盛ん。

かつては世界三強国家にも属しているほど力を持った国であったが、今では平和を謳いここ100年間の間に大きな戦争は一度も起きていないが、裏では兵器開発を行っているという噂も有名。

キャメロットを覆っている森に大型モンスターが住み着くため、冒険者の多くがキャメロットのトリスタン地区に置いている。


『国家騎士』

初等級剣士から始まり、8級剣士以上になった者が志願し合格を貰うことで与えられる資格。

3級未満は、王城付近の警備に当たることが多いが、3級以上になることで街の犯罪等を王へ直接起訴することが認められている。

また国家騎士になっているものには、王の護衛をする権利があり、王の指名で護衛が決まる。

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