66、空気読めよぉー
「護衛?いいけど・・・なんで?」
「か、軽いな君は・・・だってエルフや人間の関係だって複雑だろう。君はそんなことは気にしないのかい?」
ああー、そういえば人間とエルフってワッドライト王国以外は基本的に非友好的なのか。すっかり忘れてたな。
人間は人間でエルフは堅すぎてウザいという風に、エルフはエルフで人間を欲まみれの生き物と判断しているのだ。
すなわち犬猿の仲というものである。ただし、ワッドライトの人間は基本的に寛容なのでそんなことは気にしないのだ。
「まあ、特に問題はない。だから大丈夫だ」
「ほんとかな?まあ、それならありがたい。それで報酬はどんなものがいい?」
報酬ねー。
「別にいらないから。リシャーナの近くにいらんのが俺にとっての報酬なんだし」
「姫!!この者はやはり怪しいですぞ!!今のうちに始末しておいた方が得策です!!」
「黙れ!!何度も言わせる気か!!」
・・・ほう。なるほど。
勇馬は急に冷静な目になる。それはいつもの他人を見る目、つまり疑心の目であった。
「まずは出来るだけ利用する」
「!!?」
勇馬が出した言葉。それに異常な程にリシャーナが反応した。
「ここで倒さないのはあくまでもこの戦力では倒さないため。自身の呪いでさえも倒せない脅威、たとえ倒せないとしても目を外すことはいただけない。それ故に自身の目的のために利用すると同時に自分たちの本拠地へと連れて行く。その際の注意点は俺に必ず監視を付けること」
「・・・」
銀の視線の矛が勇馬を貫こうとする。しかし、その前に勇馬が【威圧】を発動しているかのような不穏な気配を纏う。
リシャーナは息を呑むことしかできなかった。
「そして帝国内に存在する国の中に俺を共に入れる。そうして俺を包囲してからの幹部による俺の討伐を行う。・・・見事だよ、姫さん」
「・・・なぜわかった?」
さっきまでとは次元が違う冷たい銀色。
それに相対する黒の化け物。
空間は軋み出していた。
「残念ながら俺は【読心】を持ってるんだ。これで相手の考えてることは分かる。あんたらの国の位置もその侵入方法も、そしてそっちの総戦力もな」
いけしゃあしゃあと勇馬は自身の持つカードを公開する。
主導権はもう勇馬にあった。エルフたちは唇を噛んだ。情報も力も及ばない。完全な敗北だった。
もし勇馬が帝国にエルフの国についての情報を垂れ流せばエルフの国は滅亡する。なんといっても帝国には人類、いや世界最強の怪物が存在しているのだから。
そのためもはやここで国を守る手段は一つ。勇馬の命令を聞くことだった。
「なにをすればいい?」
周りの状況が滲んでいた。
頰に一筋の線が通った。
銀の双眸はいつのまにかぐしゃぐしゃになっていた。
エルフの人権か、国の領土か、それとも・・・自身の全てか。
「いや、俺を思い通りに動かせると思うなよっていうだけだ。要望もなにも・・・ないし」
「・・・え?」
「「「「「・・・え?」」」」」
勇馬のいきなりのシリアスから離れた姿。
見事に全員を静寂に包んだ。
「え?もなにも俺最初に言ったじゃん。この旅に同行できることがご褒美だってさ。だからなにも脅して要求とかしたくないし」
「・・・君、本当に変わってるな」
「流石に・・・ですね、姫」
静寂の後に現れる呆れ。それと共に安堵の感情が現れていた。
すると勇馬が「ただし、」と付け加え、またもやシリアな目をして全員を睨みつけた。
実際、勇馬の背後にいるものや木の上で座っているものもいるので冷静に考えればそんなはずはないのだが・・・それでも恐怖を拭えない何かがあった。
「俺があくまでお前らについていくのはリシャーナがいるからだ。もし、途中でリシャーナに被害を加える、もしくは俺に殺生並みの攻撃をしてくることがあるならば・・・」
次の瞬間、空間が軋むほどの圧力が発生する。
その中心にいるのが勇馬であり、その表情は人形のような整った顔でありながらもどこかに不気味さが存在した。
「俺はお前らを殺そう。リシャーナは例外だがな」
そう付け加えてから「勇馬はもう夜遅いし寝るな。おやすみ」と言ってから地面にゴロリと寝転がった。
エルフたちは心配な顔をした。
世界にはパンドラの箱というものが存在する。
勇馬はまさしくそれに似ていた。
彼がエルフに破滅を呼ぶか、それとも・・・
彼らはそこからは思考を捨て、一部を例外として同じように就寝についた。




