61、勇馬の実力
地響きが鳴る
その巨体は木々をなぎ倒していく
「・・・でけぇな」
勇馬の目の前に現れた存在、それは蜘蛛。
だが、勇馬はそれに見覚えがあった。
「コイツがストレッド・キャッスルか」
ムスクが勇馬に見せた絵、それに限りなく近い存在だった。
全体的に白色の光沢を持つその蜘蛛は唯一赤い目をザルドたちに向けた。
そして、その鋭利な爪を高々と掲げ・・・
「テメェらは吹き飛んでろ」
勇馬が蹴った。ザルド達を。
蜘蛛、思わず硬直する。
ザルドたち、その衝撃に目を覚ます。
「な!?ストレッド・キャッスルぅ!?」
ザルド、思わず叫ぶ。
他のチンピラ達も「なんでここに!?」という反応を見せている。
「あ、目覚ましたのお前ら」
「て、怪物!?コイツはどういうことだ!?説明しやがれ!」
呑気な勇馬にザルドが尋ねる。目の前の状況がまだ飲み込めていないのだろう。
「お前らを倒したー、続くようにコイツが現れたー。こんな流れ。おわかり?」
「わかるか!?雑だな、お前の説明!」
ザルド、もうただのツッコミ役でしかない。
そのザルドに蜘蛛の爪が伸びる。
「ギャー!死んだぁあああああ・・・」
「だから、こっち無視すんなお前。“脚撃”」
バキッ!
蜘蛛の爪が折れた。すごく痛そうである。
「ほえ?」
てっきり死ぬと思っていたザルドは蹴りだけで軌道をそらした上にダメージまで与えた勇馬に戦慄する。
“脚撃”は単純な蹴りをさらに強化したものである。ただし、今まで反動が大きすぎた【衝撃強化】、【破壊強化】を全開で使っただけである。
さて、ここで【鑑定】ターイム!賢者の書さまヨロでーす。
『完了でーす』
・・・ノリいいな、お前。というか早いな。
『まあ、せいぜいB+といったところですね』
敵の特技は?
『糸、その操作能力、毒、毒混じりのブレス、ぐらいです』
うん、・・・じゃあコイツはサンドバッグぐらいにはなるか。
『なりますね』
そんな会話を交わしていると爪が迫ってきていた。
人の会話を邪魔すんなよ。
「“輪打”」
身体を回転させ放つ蹴り、それは蜘蛛の爪を完膚無きまでに破壊した。さらにはその衝撃で蜘蛛は体勢を崩した。
そんなスキを勇馬が逃すはずもなく、
「“空魚”」
瞬間、勇馬が跳ねた。
そして空へと放たれた勇馬は半回転し、また跳ねた。
そしてさらに半回転。
着地地点は蜘蛛の腹であり、
『グリャアアア!!!?』
・・・踏んづけた。
この一連の流れこそが空魚。相手の攻撃を避けるとともに攻撃を繰り出すための技。
だが、踏んづけた蜘蛛の感触に何か抵抗があった。
見るとその正体は糸、蜘蛛の身体中には糸が巻かれていた。
「なるほど、それだけの脳はあるのか」
おそらくはこの糸は自身の鎧であると同時に敵を捕獲するための罠。なるほど俺はつまり罠にかけられたということか。
足が粘着性の糸に絡まる。身動きはできない。
足元の糸が光りだす。おそらくは糸を操る能力でも発動したのだろう。
足を捕獲された状態で俺は振り回される。
そして地面に引きずられる寸前、
「“雷装”」
勇馬が青く光りだす。
勇馬に巻き付いていた糸が焼き切られる。
“雷装”は【雷撃攻撃】のコスパを低くするために作った技だ。それ以上でも以下でもない。
糸を焼き切ったところで着地・・・しようとしたのだが糸が地面にもあったので、
「“飛脚”」
しゃあないので空を飛びまーす。
それと、コイツの場合体術じゃダメそうなので剣をアイテムボックスから出す。
久しぶりに引き出された黒剣は重量感があり手に馴染んでいた。・・・まあ、俺は軽めの剣の方が好きなんだけどな。
ここ最近、素材をより良く取るために剣は技の練習の時にしか使えていなかったのだ。
だけど、相手厄介だしー。別に使ってもいいよねー。・・・木々、伐採するかもだが。
さあ、本気で行ってやる。
「“飛閃”!!」
さっきまで視認できた程度の速さだった勇馬の空中移動がさらに素早く洗練された。
“飛閃”は“飛脚”に【瞬脚】を使ったことによりさらに空中での速度を速めた技になっている。ただし、やはり【瞬脚】を使うのでSP消費は半端ではない。
ちなみにこの技も“飛脚”と同様地面につくか、故意的に止めるかの二択でしか止められない。
そして再度蜘蛛の頭上に達した俺は、
「“紅桜”」
容赦のない剣戟のラッシュを入れる。
“紅桜”は単純に剣を振り回す速度を速くしただけ。他の技を使って仕舞えば効果はなくなるのだ。
だが、俺の技の中で最速の剣技は瞬く間に蜘蛛をズタボロへとする。
そしてトドメを刺そうとしたところで糸が俺に襲いかかってきた。
ギリギリのところで俺は回避する。
今の糸に触れるのは危なかった。毒が付与されていた糸は俺の【毒耐性】では対抗しきれないほどの強さ。
なるほどB+というのには惜しいぐらいの強さだ。
そして糸で俺を攻撃している間に奴の最大の攻撃は完成したようだ。
蜘蛛の口から溢れる紫の禍々しい光、それは明らかに勇馬に向けて放たれようとしていた。
「ユーマ!!避けて!!」
いつのまにか帰ってきていたキリアが声を上げる。
たしかにキリアが言うことはもっともだ。しかし、
「いいぜ、受けて立ってやる」
勇馬はニヤリと好戦的な笑みを浮かべ剣の先で蜘蛛を指した。
そして光が液体へと変換し、
『ガァアアアアアア!!!!』
激流として勇馬に襲いかかった。
巨災と呼ばれるそのブレスに誰もが息をのんだ。
だが1人の例外、勇馬は技を放つために口を開く。
「“雷爆”」
と。
剣に集まった雷撃は一瞬にしてその場を照らしながら巨大な爆撃を起こした。
その爆撃の範囲は半径5mに及び、ブレス、散らばっていた糸や毒、さらには蜘蛛本体さえも巻き込み、焦がした。
そして、光が収まった頃にはそこには焼けた野原と木々と蜘蛛、さらに呆気に取られた人々がいた。
勇馬は蜘蛛を見つめる。そこにはもう動くことすら不可能なストレッド・キャッスルがいた。
身体は“雷爆”による麻痺に蝕まれていた。もう攻撃せずとも近いうちに死ぬことになるだろう。
もう楽にしてやろう。
俺はそう思った。
黒剣を肩に背負うように構える。
そして、俺の練習台になってくれたお詫びとして俺の今最高の技を発動する。
「“断王”」
剣を力強く振り落とす。
瞬間、空気が、地面が振動する
斬撃が蜘蛛を、その後ろの木々を切り裂いていく。
あっという間に蜘蛛のHPはゼロになった。
蜘蛛の身体は完全に縦に二等分になっており、その下の地面さえも1mほどの溝ができていた。
・・・ふむ、予想外の威力だな。
“断王”は剣術に【斬撃強化】、【衝撃強化】、【破壊強化】などのスキルを全力で発動し、振り切ったがゆえのこの力。なるほど全力は伊達じゃない。
代わりに、
ビキビキビキ、バキィンッ!!
・・・剣が割れた。
黒剣が跡形もなく・・・相棒よ、さようなら。
こいつが無ければ森時代は生き抜けなかった・・・ほんと感謝する。・・・ありがとうっ!!
破片になった黒剣に頭を下げ、俺はキリア達の方向を振り返る。
全員が「え?本当にストレッド・キャッスルが死んでるんですけど?ドユコト?」みたいな顔をして俺を見ていた。
・・・気にすんな。
そして呆然としている冒険者の中、誰かがこんな風に呟いた。
「・・・【剣姫】だ」
「・・・・・・は?」
勇馬は明らかに濃密な殺気を纏い犯人が誰か探し出し始めた。
女扱いされたこともあるが、自分の厨二くさい二つ名をつけたことは大罪である。
絶対に流行らせないようにその犯人を捕まえ殺し、全員に黙らせようとする。
だがしかし、
「【剣姫】・・・【剣姫】、なんて素晴らしい二つ名だぁあああ!!?」
「まさしくこのお方にふさわしい二つ名!凛とした美しさと凄まじさを兼ね備えたかのようだ!!」
「俺、今から町に広めて来る!!」
・・・もう遅かった。
勇馬に襲いかかった3人でさえも、
「ああ、私はついに。ついに!!信仰すべき女神をみつけましたぁああ!!!」
「すげぇー、まさしくぅー、新姉御ぉー、だなぁー」
「さっきまで変なこと言ってすんませんでしぁああああああ!!!【剣姫】様ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
こんな感じになっちゃっている。
勇馬はもうすでに沸点を超え、一周まわって沈黙している。
ナゼ・・・コウナッタ・・・?
『シショー!すごかったねぇー、新技!!』
「ねえ、ずっと気になってたんだけど。ユーマ、ランって喋れるの?」
「そんなことよりキリア君!さっきの言ってたこと、どういうことなの!?」
飛びついて来る弟子とその弟子について問い詰めて来る友、そしてその友に問い詰める女。
場はさらにどんちゃん騒ぎとなり、勇馬の二つ名【剣姫】は町全体へとその偉業とともに広まった。
しばらく勇馬が放心状態になったのはいうまでもない。
さらに立ち直った勇馬がとりあえずその二つ名を言うものを始末しようとして、その友に止められたのも言うまでもない。
とりあえず賢者の書は1人、ため息をついた。
文字数(空白・改行含む):4,032文字
文字数(空白・改行除く):3,636文字
2日後に最高数を超えた・・・




