57、アンコール教またもやか
今日は昨日の分も合わせて二本立てでお送りいたしまーす
静かな山の奥深く、ここには悪党どもが根城にしている場所がある。
本人たちは自分たちのことを“アルコール教の信者”と呼ぶが、それは名ばかり。本来であればすぐさま排除されるべき冒険者たちの集まりである。
では、なぜこのような集まりをギルドは止めはしないのか?
それは自身のギルドの功績を保つためである。
ここに集まる冒険者たちはほとんどが中級冒険者以上、上級冒険者たちも十数名存在する。
そして、その上級冒険者の1人であるザルドは見苦しいほどに唾を飛ばしながら騒いでいた。
「なぁあんで、アイツはまだこねぇんだよ!!ふざけんじゃねぇぞ!!こっちは人質取ってるっていうのによぉ!!」
そう言いながらザルドは兎の魔獣に炎の神法を当てる。最早それは手に馴染んだ仕草のようで一切の乱れなく兎にクリーンヒットした。
その兎はなんだかいい感じに焼けていた。決してまるこげではないというのがポイントだ。
「よっ、ザルドさん!やっぱ腕前は見事っすねー。あんな女、ザルドさんの目じゃねぇっすよ!」
こう言うのは勇馬がギルドに行く前にとっちめられた男だった。
ちなみにこの男は中級冒険者であり、それなりの実力を誇っている。
それでもザルドをよいしょしまくっているのはザルドがそれだけの実力を持っていることを表している。
「あったりめぇだ!!あいつはどうせ事前に何かしらの神法を腕に纏ってたに決まってる!それで勝ちやがっただけなんだよ!普通の勝負ならオレが勝ってたんだ!」
額に青筋を浮かび上がらせながら怒声を上げるザルド。人間ここまでくっきり血管ってみえるんだなぁーと勇馬にやられたモブ君は思った。
「覚悟してやがれ!!あのクソアマが!!来たら四肢を焼き切って泣き喚かせながらブチ犯してやる!!そのまま森にでも捨てといてやるよ!!!」
ビリビリとザルドの怒声が森に響き渡る。まるで獣のようであった。モブ君は耳がキーンと鳴っている。
「何を言っているんですか?貴方は?」
いかにも徳の高いお坊さんを連想させるような声が聞こえた。ヒスター・リレントのものだ。
見た目も雰囲気もthe.お坊さん的な感じの見た目だが中身は守銭奴だ。めっちゃくちゃ金大好きである。ヒー、ライク、マネーである。
「貴方には知性が足りない。もっと効率的に考えなさい」
「あぁ!?」
神経を逆なでされたザルドはさらに青筋を膨らませながらヒスターに近づいた。手はもちろんポケットに。まさしくカツアゲを行おうとするチンピラである。
「だったらどうするって言うんだぁ、この銭ガバが!ついに頭の中まで金になったかぁ!!?」
その風貌は腐っていても上級冒険者のもの。それを柳の風というが如く平然と眺めるヒスターも流石であった。
「違いますが?本当にわからないのですね。だからこそ酒・女・金の3兎を追いかけているからこそ失敗するんですよ?」
「・・・ぶっ殺してやるっ!!」
ザルドが右手をヒスターへと向ける。
同時にヒスターもザルドへ向ける目を細くする。
まさしく一触即発、上位冒険者達の戦いが本命が来る前に始まるのか・・・。
モブちゃんが諦めかけた時、ゆったりとした声が2人の喧嘩を止めた。
「アニキ方ぁー、どうでもいいですがぁー、本来の狙いはぁー、あの黒髪ですよねぇー。その前にケンカってぇー、正直ぃー、無駄骨じゃー、ないですかぁー」
これまた上級冒険者のアレン・シャガレッドは平然と、しかしきちんと宥めるようにして2人の間にはいった。
ちなみに彼のトレードマークであるモヒカンはただいま包帯でグルグルだ。それで髪の毛と髪の毛が接着する理由がモブ君にはさっぱり分からない。
「・・・ちぃっ!有り難く思いな!銭ガバ!」
「それは貴方こそでしょう、欲望を抑えきれない阿呆が」
なんだか、2人とも喧嘩をする気が起こらなくなったようだ。
「ところでぇー、アニキぃー、あの黒髪をぉー、どうなさるおつもりでぇー?」
アレンはヒスターに問いかける。その答えにザルドもモブ君も耳を傾けた。そして、
「もちろん性奴隷として売るのですが?恨みもありますし」
「異議ありだっ!!クソッタレがっ!!!」
ヒスターの答えに再度ザルドがキレる。
「テメェの思考も結局、オレと同じ思考じゃねぇかよ!!?よくそれでオレをバカにしたな!!」
「貴方の考えならば商品価値が低くなるでしょう。なので触らないまま売りさばきます」
「だったら味見くらいさせろ!!コッチはアイツに仕返ししねぇと気が済まねぇんだよ!!」
「であれば手を繋ぐ、ハグぐらいなら許可します。ただし、粘膜接触は禁止です」
「それじゃあ意味がねぇだろおがっ!!」
「お二方ぁー、落ち着いてぇー、くだせぇー」
・・・うちってホント水と油の集まりだよね。
モブ君はそう感じていた。
そして、いち早く近づいてくるものがいることに気がついたのもモブ君だった。
「アニキ!例の奴らが来たみたいですよ!」
モブ君が口に出したその言葉に三者三様の素ぶりを見せる。
1人は舌舐めずりをして、血走った目を見開き、
1人は股間に目をやり、確かにその細い目に怒りを宿らせ、
1人は包帯が巻いている髪の毛にそっと手を触れた。
確かなのはそこに怒りの感情があること。
その種類こそ違えど、その相手はタダでは済まないことを表す何よりの物。
改めてモブ君は思った。
この人たちの敵につかなくて良かったと。
そして、二十数人が集まっているこの場に、
たった2人でくる者たちに、
モブ君は本気で同情した。
この後起こることも知らずに。




